青の間

 リリアに案内され城の中へと向かう。シオンは少し中へ入るのに躊躇した。


「シオン、どうしたの?」

「へんなおとが……」


 確かに入り口の柱を通る風が不思議な旋律を奏でている。


「シオン、抱っこするからおいで」


 シオンはアイリスの表情を伺いながらも、やはりこの音が怖いのか抱き付いてくる。


「マークは大丈夫なの?」

「別に問題はない」


 アイリスもそう言いながらも、風が吹く度にビクッとする。アイリスに片手を繋ぐようにと差し出す。


「マーク、ほら」

「手なんか握らなくても――」


 アイリスが大丈夫だと強がる中、一際大きな風が柱を通る。大きな風音が鳴るとアイリスがギュッと手を握ってくる。なんだかそんなアイリスが愛しくなる。


「大丈夫だよ」

「俺は別に――」

「はいはい。ほら、いくよ」


 恥ずかしそうに放そうとするアイリスの手を握り、目を合わせる。アイリスもまんざらでもない態度なので手を握ったまま城の中へと移動する。城の外壁の地味さとは違い、中は上品で豪華だ。


「お部屋まで少し歩きますが、シオン様をこちらに――」


 イヤイヤと首を振るシオンにリリアが目を細め微笑む。


「エマ様でないとダメなのですね。では、案内しますね」


 長い廊下を通り数回角を曲がり、階段を上る。すれ違う人のほとんどが騎士か文官でリリアに気付く軽く会釈をされた。

 とある部屋の前でリリアが止まり、ドアを開きながら笑顔で言う。


「エマ様とお子様たちはこちらの青の間を用意させていただきました。どうぞお入りください」

「ありがとうございます」


 部屋に入り、足を止める。


(どこもかしこも青色……)


 青の間と呼ばれた部屋は、その名の通り青を基調とした部屋だった。部屋の中のすべてが青一色だ。

 家具までも青で備えられた部屋には三人でも広すぎるベッドがあった。

いい部屋だとは誰でもわかる。これはまるで貴賓が使用するような部屋だ。

部屋の大きな窓から外を見下ろすと整備された中庭が見えた。


「こんなにいい部屋、申し訳ないです。別の小さな部屋でもいいですよ」

「エマ様。警備が行き届いている別の部屋になりますと……ロワーズ様の隣の部屋、奥様になられる方の部屋になります」

「コノヘヤデオネガイシマス」


 そんな部屋はお断り願う。

 リリアがお茶を用意しに部屋を退室、とりあえずシオンを下ろして全員に洗浄魔法をかけると、アイリスがベッドへダイブする。


「疲れたぜー!」


 シオンがちらちらとこちらを見ながらベッドを見る。


「いいよ。飛び込んで」


 シオンが嬉しそうにベッドへダイブする。


「ぼくもつかれたー」


 二人の気持ちは分かる。あの馬車の旅は本当に辛かった。ヒールが無かったら、大人げなく泣いていたと思う。なんだか腰がまだ痛いような気がする。ヒールかけておこっと。

 アイリスが腰にヒールを掛ける私を見ながら言う。


「エマはなんでもないようにバンバンとヒール使うのなんなんだよ。俺が今までその魔法をどれだけ隠していたと思っているか知ってるか?」


 光魔法属性の適合者は珍しいという。ほとんどの適合者は教会が囲ってしまう場合が多いらしい。こちらの教会の位置付けが分からないけど、貪欲な貴族やらに使い潰されるより良いのではないかと思う……いや、囲っている時点で教会も同じ穴の貉なのかも……。


「二人はまだ子供だから人前で目立つ魔法を使うのはナシね。私はもう野営地で使いまくったから隠せないけど……」

「うん!」


 手を上げて返事をするシオンとは対照的に納得がいかないようにアイリスが眉を上げる。


「マークも分かった?」

「ああ、分かっているって」


 ぶっきらぼうにアイリスがベッドに顔を埋めたところでリリアが紅茶とともにやってきた。

 紅茶の準備をしながらリリアが今日の予定を告げる。


「本日、夕食までこちらのお部屋でゆっくりなさって下さい。夕食はロワーズ様と同席していただきます。執務室でのお食事になりますので、みなさん、マナー等も気にしなくて大丈夫です」


 そうなのか。マナーを気にしなくていいなら良かった。夕食まで時間があったので光魔法で遊び、そのあと、妄想魔法紙芝居『ゴブリンの笛吹』を披露して時間を潰した。紙芝居はまたもやアイリスには不評だった。シオンは喜んでいるんだけどなぁ……次回は可愛い系で攻めるか。

 リリアが、夕食の案内に訪れると部屋を出た。


 

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