検問

 ここ北の砦には一万人ほど暮らしているそうだ。それはもう街なのでは……と思うけれど、あくまでもここは黒騎士団が国に任されている管轄地だそうだ。


「かべすごいね! きしさんも いっぱい」


 シオンがはしゃぎながら言う。どうやら騎士のファンになったのか、検問所にいるフル装備の騎士を生き生きした表情で追う。

 要塞のところどころには監視塔のような場所があり、全ての場所に騎士が配置されているのが見える。シオンは騎士を嬉しそうに眺めるが、私は少しだけ心配になった。


(もし、ここから脱出しなければいけない状態になったら骨折れそうね)


 別に逃げ出すつもりはないけれど、もしもの場合を考えてしまう。

 検問の順番になり、騎士が馬車をノックする。


「検問をする。各自身分証の提出を――え? だ 団長? なぜこちらの馬車に? いえ、失礼しました」

「よい。きちんと調べよ」

「はっ。それでは検査させていただきます」


 どうやら上級騎士は別の検問所を通るらしい。今回は私たちがいたからか、通常の検問を通るとロワーズから説明される。


(団長なのに?)


 なんだか違和感を抱きつつも頷く。

 検問の騎士に透明な水晶を目の前に出され、触れるよう指示を受ける。


「これは、なんのためのものでしょうか?」

「犯罪の有無を測る水晶です」


 そんな高度な測定機があるの? 聞けば、過去に犯罪歴のある物のマルクが登録されているという。結構、高度な技術だよね。


「魔力を通すということですか?」

「エマ、軽く魔力を通すだけで大丈夫だ」


 ロワーズの言うとおりに軽く水晶に触れ、最小限の魔力を流すとピカッと光り青くなった。


「問題なし。次はそこの僕だが、大丈夫かい?」


 騎士が優しく尋ねるとシオンがコクコクと頷き、手を水晶に置く。シオンの手から解き放たれた魔力で水晶がカタカタと揺れる。


(あ、やばい)


「シオン、魔力は少しね」


 シオンに耳打ちすると、水晶の揺れは落ち着き青く光った。騎士は少し驚いたようだったが、ロワーズの手前特に何かを尋ねて来ることはなかった。

 因みに水晶の青は罪を犯していない者、赤は罪を犯している者らしい。最後にアイリスの検査が終わると騎士が敬礼しながら言う。


「検査が終了しました。お通り下さい」


 無事に検問を抜け、橋を渡り街に入る。

 馬車の中から見える北の砦内は、映画で見る中世時代の雰囲気だった。中世なら街に排泄物だらけじゃないのかと思ったが……どこもそんなに臭くはなかった。いや、もちろん少しは臭いよ。

 北の砦の市場的な場所を通り、馬車は丘の上の城らしき場所へと向かっていく。城と言ってもシンデレラ城のような物ではなく、巨大だが地味な造り。城塞は迷路のような造りで騎士の検問が二回もあったが……ようやく目的地にたどり着いたようだ。


「俺もここまで初めて入った」

「そうなの? マーク」


 調理場の下働きのアイリスも中心部までは入ったことはなく、いつもは一回検問の後に城塞の別の場所に連れて行かれ働いていたそうだ。


「着いたな、降りるぞ」


 ロワーズに差し伸べられた手を取り馬車を降りると、リリアを筆頭にメイドや従者が出迎えてくれる。


「ロワーズ団長、お帰りなさいませ」


 メイドの中にはアンの姿も見えた。リリアとアンは野営地から第一団で出発した隊で砦に先に到着していたようだ。

 二階の窓辺がキラリと光ったので顔を上げると人影が見えたがすぐにいなくなった。


「リリア、エマ嬢たちの案内を頼む」

「かしこまりました。ロワーズ様」

「エマ、後ほどまた話をしよう」

「分かりました」


 ロワーズはそう言うと騎士や従者たちと話し始めた。


「ささ、エマ様と子供たちをお部屋にご案内させていただきます。こちらへどうぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る