ハインツの魔法教室
「もう遅い、天幕まで送る」
ロワーズはきっとまだ尋ねたいことがあっただろうが、今夜はもう遅いので天幕まで送るとエスコートをされる。外に出ると日も完全に落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。
「もう少し、しっかりと腕を握れ」
ロワーズの腕を強く握れば、力を入れすぎたのかロワーズが苦い顔をする。
「強すぎましたか」
「いや、羽根のようだ」
ロワーズに就寝の挨拶をして天幕へと戻りシオンに付いてくれていたアンにお礼を言う。すでに熟睡したシオンの寝顔を見れば心底安心した。
先程のロワーズとの会話を考え、やや不安になるが心配をしても何も解決はしないと自分に言い聞かせる。今はロワーズをある程度信用するしかない。第一印象の痴女と言われたのはとても印象が悪かったが――第二印象の愛人胸板――第三印象の濡れ鼠――待って、ロワーズの良い印象もあったはずなのだが、出て来ない、どこだ?
「他の印象が強すぎて今は思い出せない」
でも、これからやる事は決まっている。
(スキルを鍛えシオンと自分を守る)
折角魔法が使え魔力が高いのだ……これは、利用しないと。
飴とクッキーをコピーして、ベッドに潜りシオンを抱きしめて眠りについた。
◇◇◇
朝だがスッキリしない。気を紛らわすために数日ぶりにスキルを使ってシャッフルダンスを踊ってみる。以前よりかなり切れが良くなってきた。ドドンと太鼓音が聞こえた後にすぐ頭の中に声が響く。
『ダンスを覚えました』
スキルの獲得は転移特典なのかすこぶる早い。もうひと踊りしようとしたらハインツの声が外から聞こえる。
「おはようございます。朝食の準備をさせていただきます」
ハインツは昨夜こそは心配そうに私を気遣っていたが、今日は昨晩は何事もなかったかのように淡々と朝食の準備をする。
魔法の練習は午後から開始という事だったので、午前中は時間ができた。クッキー、オレンジジュース、リンゴジュースをコピーする。
今日もシオンと灯りの魔法で遊ぶ。魔法はイメージだというので、今日はオタクのペンライトのような光に赤、青、黄色、緑をグルグルと回し、更にレーザーポインターのような光を天幕に当て遊んだ。シオンはたくさんの光の動きを眺めて小さく手を叩いていた。
ドドン
『光魔法を覚えました』
へ? 灯りの魔法で遊んでいたはずなのに、何故か光魔法が生える。こんなに簡単でいいのだろうか?
シオンも数々の色の光を出すことに成功、私たちの天幕はたくさんの光で照らされた。シオンを鑑定すればしっかりと光魔法が生えていた。
午後からはハインツの魔法授業が行われた。本日アンは別用で居ないので、シオンと共に授業を受ける。主に先日習った魔力の体内での回し方や生活魔法の復習をしながらシオンを中心に練習を進める。
シオンは新たに
「それではエマ様、シオン様。私の得意とするもので申し訳ありませんが、属性魔法は土魔法から始めましょう」
実技が一番だと早速ハインツが土魔法を唱える。
「土よ。盛り上がり、我が敵を妨げよ。【
地面にポコっと土ポコが現れる。エリーの魔法と同じものだ。
「つちがポコッて。きしさんとおなじ」
シオンが興奮しながら盛り上がった地面を撫でる。
「それではエマ様からどうぞ」
ハインツから自信満々にご指名されるが、正直詠唱が恥ずかしい。一応私はアラフォーなのだ。自尊心が心の中でやめてくれと嘆願している。前に試したときも土ポコで大丈夫だったので、それで行こう。
「土ポコ!」
ポコっと地面が盛り上がる。うんうん。調子に乗って何回か地面をポコポコさせる。
ドドン
『無詠唱を覚えました』
あ、無詠唱? 土ポコって言ったけど……もしかして二回に一回しか唱えなかったから? 詠唱無しでハインツに見えないように足元に無詠唱で土ポコを出す。成功だ。ハインツが私の出した大量の土ポコを見ながら苦笑いをする。
「土ポコでございますか……かしこまりました」
シオンも真似をして『土ポコ!』と唱える。初めこそは成功しなかったが何度か挑戦、すぐに私と同じように土がポコっと盛り上がるとジャンプをして喜んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます