自衛と安全
「次はこれです。土よ。我の前の壁を作り、敵の攻撃を防げ。【
ハインツの詠唱と共に大きくなった土が上に登り、次第に高さ二メートルに幅一メートルほどの壁が現れる。
「立派な壁ですね」
「エマ様もすぐにできるでしょう」
同じ壁をイメージして【
「エマ様は土魔法の覚えが早いでございますな」
シオンも私と同じ詠唱で土壁を展開すれば、ドアのような土壁が目の前に立つ。シオンが首を傾げながら尋ねる。
「ぼくのエマとちがうよ。どうして?」
「本当だね、どうしてだろう。でも、立派だよ」
「シオン様。魔法とは想像です。ひとりひとり思い描く魔法は違います。実際エマ様と私の土壁は違いますでしょう?」
ハインツの説明通り、確かにそれぞれ違う。ハインツの土壁はタイル造りに泥が被せられた壁で、私の壁は珪藻土壁のような造りだ。試しに自分の壁に
もう一度、頑丈な壁のイメージを固め
「こ、これは、とても頑丈そうですね。エマ様」
「ありがとうございます」
試しに水魔法でコンクリート壁を攻撃する。
(うん、これならいけるね)
「ぼくもおなじかべをつくりたい」
何度か練習を繰り返し、シオンもコンクリートの土壁を練り上げたが……何故かドアの形のままの強度な土壁が仕上がった。
(シオンにとって壁とはドアなのだろうか)
ハインツは私たち二人の著しい(?)土魔法の上達をなら次の段階に進めると判断する。シオンが身を守れるようにもう少し土壁を極めたいという希望を伝えるのが遅れてしまいハインツが次の詠唱を始める。
「土よ、我の敵を射抜け【
(あ、これは!)
急いでシオンの耳に手を置けばハインツの手から私の土壁を目掛け、銃声と共に土弾が飛ばされる。全ての土弾が命中するも、コンクリートの壁は擦り傷程度のダメージだった。
「やはり己よりも魔力の高い防壁は崩しがたいですな」
穏やかに笑いながらハインツ言う。シオンは大きな銃声のような音も平気そうだけど、ハインツに苦言を言う。
「ハインツさん、大きな音が出るのならば先に言って頂けると……」
「はっ。失礼いたしました。つい、挑戦したくなりました。シオン様を怖がらせてしまったでしょうか?」
「ぼく、だいじょうぶ」
シオンが満面の笑みを見せる。ああ、私が過保護過ぎたのだろうか。いや、虐待によるトリガーが何か分からないので細心の注意を払うのは間違っていないはず。とりあえず、大きい音は大丈夫だと頭の中でメモをする。
魔力量で破壊可能か決定するなら、自分の防壁は破れるのだろうか? ハインツと同じ魔法を撃ってみる。
「【
試しに以前渡米時代に一度だけ撃ったことのあるハンドガンを思い浮かべ、コンクリート土壁へ向け土弾を放つとパァンパァンと高い音が辺りに鳴り響く。コンクリートの土壁を確認すれば、土弾は土壁には貫通しなかったものの歪な痕が残っていた。ハインツがコンクリート壁に残った抉れを確認しながら困った表情で言う。
「エマ様、この威力はとんでものうございます」
ああ、やり過ぎた。ハインツの表情を見てすぐにそう思ったけれど時は遅し……。
「ぼくもーぼくもー」
シオンが抉れたコンクリート壁の前で難しい顔をするハインツの横で嬉しそうにジャンプをする。子供に銃の打ち方を教えて良いものなのだろうか? ハインツの反応を確認すると止める気配はないどころか習得するように勧めている。ここは確かに日本ではなく異世界なのだ。子供への攻撃的な指導は許容範囲のようだ。地球でも幼い子供にも銃の打ち方を教えている海外の家庭はあるが……私が日本にいたのなら、こんな事態は迷わずに否定していただろう。でも、シオンが安全でいるのが一番なのだ。シオンに目線を合わせ確認する。
「シオンがお約束を破らないならさっきの魔法を教えるよ」
「うん!」
「まず、普段はこの魔法は無闇に人に向けて撃たない事。自分に向けて撃たない事。全ての練習は私がいるところでやる事。でも……危険だと思ったら迷わず使う事。このお約束出来る?」
「ぼく おやくそくできるよ!」
シオンが嬉しそうに返事をする。これはただ単に魔法を使いたいから返事しただけで、まだこの魔法の危険性について分かっていない様子だ。でも、この世界は危険が多い、かなり多い。シオンが自身を守るためだ……自分の気持ちに蓋をして銃の土弾魔法を教える。一先ず、飛ばすことは出来ないがシオンは尖った土弾を出せるようになった。
天幕に戻り、夕食を取る。食後に灯りの魔法や土魔法でシオンと遊んでいたら、いつの間にか寝ていた。
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