二人きりでの話 後編

「あと少し質問したら終わりだ。茶を温め直そうか? 寒いであろう?」


 商人交渉の信頼関係を発動すればロワーズが若干優しくなった。考えていたのとちょっと違うけど、雰囲気が柔らかくなったロワーズは話しやすくこちらの緊張も取れた。


「お茶、頂きます」

「鑑定があるなら分かっていると思うが、こちらにも鑑定持ちはいる」

「レズリーさんですね」

「ああ。レベルの関係で二人の鑑定は名前、年齢、種族しか情報はない。レズリーの魔力よりもエマたちが上だからだ。それ以上だと推測していた。もしよければ二人の魔力レベルを知りたい」


 あれ? いつもよりかなり饒舌だ。これはスキルが効いて、ややおしゃべりになっている?


「はっきりした数字は教えませんが、お察しの通り5以上です」

「やはりそうか。その年齢で凄まじいな。シオンにもユニークスキルがあるのか?」

「シオンのスキルなどについては、これ以上は答えかねます。個人的なことですし、魔力や属性に関しては......ほとんど確証があったようなのでお応えしたまでです」


 安全空間セーフスペースはシオンの切り札だ。まだシオンですら使用したことのないそのスキルの実態はよく分からない。それに、シオンのスキルは虐待の影響が色濃く出ている。安易に本人の了承がないのに他人にその話をするのは違うと思う。


「承知した。気にするでない。ただし……もし危険なスキルがあるのなら申告してもらいたい。特に子供は制御が難しく暴走する」

「そのような暴走しそうなスキルではないと思います。シオンは身を守るためのスキルが多いですので……」

「……そうであるか。分かった。それでクッキーなどの砂糖菓子もニーホンから持ってきたのか?」

「はい。すぐには気づかなかったのですが、私の買い物袋が転移の影響で収納袋に変わっていて……転移前に購入した商品がそのまま入っていたんです」


 ロワーズにエコバッグを見せれば、一眼見て専用の収納袋だと断言した。エコバッグ自体を鑑定してなかった事を思い出し鑑定する。


ヤギのエコバッグ――専用収納袋マジックバッグ


 ヤギのエコバッグに商人鑑定も施したが、無反応。専用では商品にはならないから? ロワーズに尋ねれば専用の魔道具は他人には譲渡することができないらしい。


「中身についてだが、菓子も含め高価な物があるのならば、あまり人前で出だすではない」

「分かりました。そのように努力します。ただこちらのお国の常識が分からないので……」

「それに関してはハインツとリリアから指導するように指示を出す。二人とも信用できる配下だ」


 ロワーズがハインツは執事として、リリアは乳姉弟として子供の頃から知っているので安心しろという。うーん。まぁ、ロワーズには忠実だろうけど、私が信頼できるかは別の話だ。でも、情報は必要だ。


「分かりました。二人には大変よくして頂いてます」

「うむ。最後にだがシオンの事だ。子守をしたメイドからシオンが折檻されていたのではないかと報告が上がっている。何か気づいた事はあるか?」


 そうだよね。アンは子供慣れしてるし、シオンが虐待されていたことは一目瞭然だろう。


「シオンに初めて会った日にはすでに無数の虐待の痕がありましたが、こちらに転移すると同時に消えました。シオンの親なのか保護者なの分かりませんが、真冬にあのような格好でしたので虐待の可能性が高いかと」

「ギャクタイとは折檻の事か。確かに真冬にあの下着姿には驚いた。それに少しの事でも怯えて身体が強ばるシオンは見ていて痛々しい」


 虐待という言葉がないのか、ロワーズが首を傾げる。


「あれは、下着姿というより私の故郷では夏に着るものです。日本は夏が暑いですから」

「あのような下着姿がか? 確かに南の領は夏が暑いので軽装が多いと聞く。して、ムコクセキジとは本当はなんだ?」


 その話しについては、どういった経緯でシオンがそうなったのか正直私も分からない。


「シオンがどのようにして無国籍児になったか分かりません。私たちの国では産まれたら国民として登録されるのですが、シオンは何かの理由で登録されていなかったのかもしれません」


 私の発言にロワーズの眉間のシワが深くなる。ん? そんなにおかしなこと言ったかな。


「国民が全て登録されてるのか? 可能なのか? ニーホンは国民が少ないのか?」

「いえ、確か一億二千万人くらい――」

「は? 一億だと……」

「あ、嘘です。もっと少ないです。見栄を張りました」


 ロワーズのジト目が怖い。本当の話だけど、もう人口とか戸籍とか細かい説明を求められても分からないので嘘だと嘘を付く。


「どちらにせよ、両親と兄上に報告せねばな」


 ロワーズの両親と兄がどのような立場なのかよく分からないが、侯爵は上級貴族なので偉いのだろう。一応、どのような立場の人たちなのかをロワーズに尋ねる。


「父上は全ての騎士団の総帥を任されている。兄上は昨年、侯爵の爵位を母上より受け継いだ侯爵当主だ。ん? なんだ、この七色の光は」


 油断していたら妄想魔法が七光りを連想した虹ををキラキラとロワーズの回りに出す。


「ナンデモナイデスヨ。スゴイゴカテイデスネ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る