シオン・シラカワ

 ムコクセキジ……えーと、ニュースで見たことあった。なんらかの理由で国籍がない子供か。日本にも無国籍者は数多くいると流れていた。それで姓が表示されていないの? 確か手続きをすれば、時間はかかるけど国籍を取得できる人もいるってニュースキャスターが言っていた。それに、今は無国籍児でも手続きすれば学校も行けると。それならば、なにかしら苗字はあると思うのだけど……出会った当初のあの雰囲気では、学校すら行っていなかったのではないかと思う。周りも見て見ぬ振りだったのかもしれない。今日の夜はまた枕を濡らしそうだ。


「ムコクセキジとはなんだ?」


 ロワーズが腕を組み訝し気に尋ねる。

 なんて答えようかな。この国に国籍の制度があるかも知らない。説明したら、また色々質問を被せてくるだろし。それよりも、シオンが今にも泣きそうなのをどうにかしたい。


「ム、ムコクセキジとは家名がまだ付けられていない子供の事です。こ、これから家名を付ける所だったのではないでしょうか?」

「そこまで酷似しているのにエマはシオンの親族ではないのか? それに、親族と同じ家名を付けるものではないのか?」

「あ、親ではない保護者の家名を付けることもあるんです。今のところ、同郷で保護者は私なので……シオンには私の家名を付けます」


 タジタジとして咄嗟に嘘を付いてしまう。こういうことには精神耐性は反応していないの? 凄い変な汗が出るんだけど。それにシオンに同意も得てない。大きく目を見開いてこちらを見上げていたシオンに尋ねる。


「シオンはどうかな? シラカワの家名を受け取ってシオン・シラカワになってくれるかな?」

「しおん・しらかわ」


 シオンは何度もその名前を呟いて頬を赤くしてはにかんだ。


「どうかな?」

「うん。ぼく、しおん・しらかわになるよ」

「良かった。これで同じだね。家族だね」

「か、ぞく……ぼく、エマとかぞくになれるの?」

「シオンがよければだけど」

「うん。ぼく、エマのかぞくになる」


 ありがとうとシオンの手を撫でる。不思議な縁だが今日からシオンと家族になる。でもそれは、なぜか自然なことのように思えた。シオンと逢って数日しか経っていないが、何か絆を感じていたのだ。今更、虐待するクソ虫どもの手元に返すことは絶対にしたくない。私も地球では天涯孤独の身だし、家族ができることは正直うれしかった。

 ロワーズとレズリーに振り向き宣言する。


「ということで、シオンは今日からシオン・シラカワになりました。よろしくお願いします」

「何が『ということで』だ。まったく。まぁ、良い。二人はこれだけ似ているのだ。問題はなかろう。レズリー、どうだ?」


 呆れた顔のロワーズがレズリーに指示を出すと、レズリーが軽くシオンに触れる。


「もう、名前が変わっている……」


 そう言われ、シオンを鑑定すれば名前の表示ががシオン・シラカワに変わっていた。凄い機能だ。初めて見たレズリーの鑑定姿に違和感があったので、もう一度レズリーを鑑定、ユニークスキルの下にある『鑑定』を調べる。


(人に直接触らないと視れない鑑定スキルなのか。それに自分より魔力が高いと視れないみたい)


 私の鑑定とは違い制約があるようだ。これなら、私やシオンのスキルまでは鑑定できていないのだろう。良かったと一安心したところで、ロワーズが側に待機していたハインツに朝食の準備の指示をだす。


「一旦話が付いたので、二人とも朝食を食べよ」


 並べられた朝食は昨日狩られたという、ビックボアのステーキとグリッツだった。ビックボアは猪に似た魔物だ。朝からステーキ! 豪快だね!


「シオンには小さくステーキを切ってあげるから、ちゃんとゆっくり食べてね」


 シオンが細かく切られたステーキを美味しそうに頬張る姿を確認して私もビックボアを食べる。あ、臭みもなく濃厚だ。


「して、シオンに魔法を教える件だが、魔力が豊富のようなので私に異論はない」


 ロワーズが丁寧な所作でステーキを食べながら言う。


「それは、良かったです」

「教師役にはハインツを付ける。今日から二人で習うといい」

「よかったね、シオン。ハインツさんもよろしくお願いします」

「基本の魔法になりますが、しっかり学ばれてください」


 朝食が終わり、ロワーズ達はまた訓練とのことだったので別れた。別れ際に、ハインツに用意してもらった小さい麻袋に飴玉を十個ずつ入れてロワーズとレズリーに渡した。今朝コピーしたお気に入りの飴玉だ。お礼にロワーズの少年のような笑顔をゲットした。

 天幕に戻りステータスを確認する。ロワーズたちに嘘――もとい、言い訳をごちゃごちゃ言ってる時に和太鼓が聞こえたからだ。ステータスを確認すれば、新しいスキルが生えてた。


スキル:嘘も方便


うるせぇ!

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