生活魔法
流石に朝からステーキ一つ食べるのはつらかった。シオンが残した分も食べたので腹がはち切れそうだ。一人シャッフルダンスで身体を動かし、お茶を飲んだらだいぶ落ち着いた。
この国は昼食をする習慣がないので、朝夕はしっかり食べる。以前のトド体型に戻らないように、今後は食事の量には気を付けよう。
昼からは予定していた魔法講習が行われた。
ハインツとアンから騎士の練習場のような天幕に案内された。ハインツによると、天幕には魔法の防壁が張ってあるので失敗しても外に魔法は飛んで行かないという。
「それではエマ様、シオン様。本日から魔法を伝授させていただきます。私、ハインツ。それから、アンでございます。アンはシオン様を担当、私はエマ様につく予定です。いかがでしょうか?」
「はい。お願いします」
「それではまず、シオン様の魔力を出現させます」
アンがシオンの間で膝を付き両手を上向きに出し優しく問いかける。
「シオン様、お手をこちらにどうぞ」
「うん」
「少し魔力を流しますが、何か感じたら教えてくださいね」
アンはがシオンの手を取り魔力を流し始めると、シオンが小さく呟く。
「あったかい……おみず?」
「そうです。それが魔力です。気持ち悪くなったりしていませんか?」
「あったかくてきもちいいよ」
「それは良かったです。シオン様もこれと同じものを出せますか?」
うーんと唸ったシオンが、ビクッとした。たぶん和太鼓の効果音だろうね。あれ、急に頭に響くから初めて聞くとびっくりするんだよね。シオンに先に注意しておくべきだったなと反省する。
「キャッ!」
アンが急に尻を地面につけ後ろに転ぶ。どうやらシオンの送った魔力が想像以上の大きさで驚いたようだ。
「アン、だいじょうぶ?」
シオンの怯えた顔に急いでアンが立ち上がり宥める。
「大丈夫ですよ! シオン様、とてもお上手に魔力が流せましたね」
「ほんとうに?」
三人でシオンの不安を消し去るために上手上手コールをすれば、シオンの表情も穏やかになる。
シオンも問題なく魔力が出せたので、よかった。
「それでは魔法について説明させていただきます」
最初に一時間ほど魔法についての話がハインツからあった。魔法とは魔力というエネルギーを使い自分の属性のエレメントを形成していくと説明された。それぞれの魔法には基本詠唱があるが、それは要するにイメージを高めるだけの呪文であり上級になれば詠唱は破棄できるという。想像力が豊かなほど魔法にも影響するという。ああ、想像力ね……それなら自信がある。
「それでは、まず基本の生活魔法から始めましょう」
シオンはアンと私はハインツとの指導がはじまった。子供の扱いが上手いアンにシオンも懐いているようなので心配はないだろう。
「エマ様。生活魔法を使う前にまずは魔力を一箇所に集中することから始めましょう」
「はい。やってみます」
魔力というエネルギーを出す。これはもう簡単で、以前と同じ霧噴射のような魔力が体内から溢れる。下腹部より少し上に魔力を集中させようとするが魔力の噴射が止まらない。布団圧縮をイメージ、魔力をどんどん圧縮する。やがて、魔力は体内で卵の形になるのを感じた。
「こ、これは、ここまで濃い魔力は初めて見ました」
魔力卵がある私の腹を凝視して止まるハインツ。
「ハインツさん?」
「ああ、申し訳ございません。次にその集中した魔力を動かしてみましょう」
下腹部から右手、左手、両足と魔力卵が体内中をピンボールが跳ねるかのように高速で動く。これって正解なの? 正解を尋ねようと魔力卵の動向から顔をあげると、一歩引いたハインツがいた。
(あれ? ハインツ、引いている?)
ドドンと和太鼓の効果音が鳴りアナウンスが流れる。
『魔力増幅を覚えました』
ああ、確かになんか全身に魔力がいきわたり膨らんだような気はする。
「エマ様のような魔力の動かし方は初めて拝見しました」
「皆さんはどのように回してるんですか?」
ハインツが魔力を回すお手本を見せてくれる。魔力が現れる位置は私と同じだが、ハインツは腹の周辺で数回魔力をグルグルと回した後、それを右手へそして左手へと流した。私と比べればかなりスローモーションな動きだ。
「通常はこのように回す人が多いです」
「魔力の回し方が違うと、魔法になにか影響があるんですか?」
「いえ、ございま――いや、どうでしょう? どちらかと言えば、練習次第ではエマ様のやり方の方がより速く魔法が出せるかもしれません」
「もっと練習してみますね」
どちらの回し方でも大丈夫そうなのでよかった。未だに魔力卵が跳ねるように体内に移動しているからか、指先までポカポカだ。
次にハインツが生活魔法について説明する。生活魔法には
「エマ様とシオン様の魔力量ならすべてを使うことが可能かと思われます」
「それなら嬉しいですね」
正直その中の一つでも使えれば飛び跳ねるほど嬉しいという感情を抑え、ハインツの説明に真剣に耳を傾ける。
「それでは、灯りの魔法から試しましょう。それでは行きますよ。この手に光よ灯れ【
ハインツが
「綺麗な灯りですね」
「それでは、エマ様も灯りに挑戦しましょうか」
指先、光れ光れとブンブン手を振るが何も起きない。
「あれ、出ない」
「エマ様、灯りの光を頭の中で実際に想像しながら形成してみてください」
そうかそうか。イメージだった。今度は時間をかけLEDの電球をイメージして灯りをだす。
「わぁ、ハインツさん。出ましたよ。見てください」
指先から現れたのはイメージ通りの広配光のLED電球。ここ数日、薄暗いのに慣れていたから眩しい。
ドドン
『詠唱破棄を覚えました』
お? そういえば、イメージに集中し過ぎて何も唱えていなかった。
「もう詠唱破棄を覚えられたのか。それに、この灯りの強さは一体……」
ハインツがまた一時停止をする。この世界にはない明るさだったのだろう。でも、灯りっていえば私の中ではこれだ。
「明るすぎましたか?」
「いえ、問題ございません。全く問題ございません。では、次は
問題ないなら二回は言わないと思うけど……ハインツがすぐに次の生活魔法に進む。
その後、練習は順調に進んだ。結局その日に全ての生活魔法を取得することができた。
着火を堪能あとは
授業が終了したので天幕に戻る途中、シオンが灯の魔法を披露する。
「わぁ、シオン凄いね!」
シオンはアンに魔法の動かし方を丁寧に習い、今日は灯りのみの生活魔法を習得したそうだ。シオンの灯りの魔法は街灯のような光だった。
嬉しそうに灯りの魔法を何度も見せてくるシオンに全員が和んだ。
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