急に現れた銀髪の二人 後編(レズリー視点)
振り向けば、座り込んだ婦人と呼ぶにはまだ若い不機嫌な銀髪の美しい少女がいた。人の気配などなかったにいつの間に後ろを取られた?
「なっ! もう一匹いたのか!」
団長の発言に少女が明らかに苛立ったのが分かった。少女に剣を向ける団長を諫めよう動いた瞬間、少女の衣服が目の前まで落ち、瑞々しい美脚が露わになった。
「あぁ、とても綺麗な脚だ」
思わずそう呟いてしまう。団長は破廉恥だと顔を真っ赤にして叫んでいるが、少女足に釘付けなのは分かっている。
「早く服を着ろ! 痴女めが!」
団長の大声に少女がこちらを睨みタジタジとその身体と合わない下服を穿こうとする度に太ももまで剥き出しになって非常に目の毒だ。自分のためにも目を逸らす。
下服をどうにか穿いた少女。助かった……。
「魔の者めが!」
団長の大声と共に忘れていた本来の目的の魔の者と思われる少年に剣を向ければ、先ほどまで後ろにいたはずの少女が目の前にいた。双子かと後ろを振り返り堪忍するが……そこには誰もいなかった。俺にも団長にも分からない速さで移動したのか? どうなっている?
魔の者と俺たちの間に入り、さらに不機嫌に眉間に皺をよせる少女。
「むっ。痴女。魔の者を庇い立てするのなら、痴女ともども始末するぞ」
おいおい。待て待て! 団長を止め、少女に聞こえないよう耳打ちする。
「一般人の少女を巻き込むなんて団長らしくないぞ」
「あの動きのどこが一般人だ。レズリーも見たであろう」
「確かに、だが……」
「はぁ……分かった。痴女に事情を説明して魔の者を討つぞ」
今にも逃げだしそうな勢いの少女に手を上げ警戒を薄めさせる。団長が痴女と連呼するので危うく俺も痴女と失言しそうになったが、少女の庇う子供が魔の者であると同時に危険である事を伝えたが、逆に少女はなぜ子供が魔の者なのかと尋ねてきた。 魔の者を知らないとはどういうことだ? 子供でも魔の者はお伽話で周知されている。
(別の国の者か? いやそれでも魔の者を知らないはずがない)
団長も同じ疑問で少女を詰めると、いきなり焦ったように被っていたフードを取った。
「銀髪……」
この国で銀髪はほとんど見かけない。いや、大陸中を探してもそんなに人数はいないだろう。あれは、相当量の魔力を使える者にしか現れない色だ。二人とも見事な銀髪に美しい菫色の目……これはなにか事情がありそうだ。
少年を魔の者と呼ぶ度に俺たちに警戒心を高める少女に身分証でもある騎士団のエンブレムを見せる。これなら、我々が怪しい者でないと理解してくれるはずだ。
「これはなんですか?」
「へ?」
は? 国は違えど、騎士の持つエンブレムは共通認識のはずだ。知らない訳がない。騎士の証明を見せれば、貴族だって表面上でも礼節を持って接してくる。だが、エンブレムを見ても少女の俺たちに向ける胡散臭い表情は演技ではないと思う。
「騎士団のエンブレムを知らないとは言わせないぞ。他国でもそれは変わらないはずだ」
団長が苛立ちながら魔法を纏った剣を向ければ、これでもかというほどに少女の目が見開き魔法が何かと問う。この反応は、まさか魔法を知らないのか?
「ま、魔法は知っています。ただ、実際に見たのは初めてだったので驚いただけです」
そう強がる少女を横目に再び団長と声を潜める。
「どう思う?」
「手入れのされた髪や肌。水仕事をしたこともない手。言葉遣いも丁寧だ。平民だったとしても魔法も知らない様子、相当箱入りかと……」
「レズリー、魔の者を引き渡すよう説得できそうか?」
「説得はするが、そもそもあの少年が魔の者だという自信がなくなってきた。あの強大な力を持つ魔の者があのように怯え足にしがみ付くなど考えられない」
「演技かもしれないが……確かに私も違和感は拭えない。だが、確認できるまで警戒は解くな。頼んだぞ」
どうにか少年を引き渡してもらおうと少女を説特しようと魔の者の仮面について説明すれば、少女がそれは仮面ではなく『ますく』だと言い張った。ますく……とは一体なんだ?
「それならば、その『ますく』とやらを外し口の中を見せよ」
威圧的に団長が命令すれば、少女の眉間の皺がより深くなり侮蔑の表情に変わる。俺たちは彼女に変態のように映っているのだろうか……。
団長が冷静に少女の誤解を解く。やはり、俺たちが卑猥な要求をしてたと勘違いしていたようだ。少女が優しい声で魔の者にますくを取るよう語りかける。ゆっくりとますくが取り外されると目を見張るような無垢な少年が現れた。怯えながら見せてくれた口の中には、牙も刺青もなかった。安堵のため息を漏らし、団長と視線を交わす。
魔の者でないことは理解したが、それなら二人はなぜ軽装でこのような場所にいるのかという疑問が出てくる。少年は下着姿。少女も体型に合っていない装い。このギランの森の深い所は冒険者でもBランク以上の者しか訪れないエリアだ。
少女は自分をエマと自己紹介、少年はシオンというようだ。エマは気がついたらこの場所にいたと言う。人攫いか? いや何かの魔法か? あの閃光は魔法であろう。
二人をここに置いて行く訳にもいかない。詳しい話は野営地で尋ねれば良いだろう。
「ここにいても埒が明かない。日没までには野営地に到着したい。二人にはこのまま同行してもらう。拒否権はない」
団長はまた女性限定の変な態度でエマに命令するが、野営地まで同行することに承諾してもらう。移動中シオンはエマの胸の中ですっかり眠っている。羨ましい。
驚いたのが、移動中のエマの体力だ。騎士や冒険者なら鍛えているので苦ではないが、エマはそんな特別な訓練を受けてるような様子はない。おまけに二人とも生活魔法を初めて見たと驚いていた。生活魔法は平民もほとんど使用できる魔法だ。それを見たことないとは……本当にどこから来たのだろうか?
「レズリー、湯が沸いている」
団長の声で顔を上げると、エマがこちらを不安そうに見ていた。また思考に耽るクセが出ていたか。
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