エコバッグ
ゆらゆらと揺れるお湯に反射される顔を立ったまま数分見つめ、つっこむ。
「いや、これ誰よ」
驚いた表情で桶の中からこちらを見つめ返す女の子。どうやら私の模様。確かにベースは二十歳頃の私なのだが……記憶にある自分の若い頃の顔より相当美化されている。マジでだれよこの美少女……。二十歳頃はお世辞か外国人の血を半分引く物珍しさから綺麗だと言われた事もあったが、決してこんな美人ではなかった。シオンを見れば、お茶を口に含んでキョトンとした顔と目が合う。シオンも、初めに会った時よりは目を見張る容姿だ。汚れてたので顔はあまり見えなかったが……多分そうだ。これは、転移の副作用なの? それとも別人になったの? よく分からない。
今はお湯が冷める前に身体を拭こう。まずはシオンからだね。
「シオン――って勝手に呼び捨てしているけど、大丈夫?」
「うん」
「私のことはエマって呼んでね。お湯で体の汚れ落とそうね」
好意で言ったつもりだったが……シオンからギリっと歯軋りが聞こえ、身体が強張るのが伝わった。何か地雷を踏んだよう。どうしよう? あたふたと弁解をする。
「えーと、ごめんね? 急過ぎてびっくりしたよね。えーと、じゃあ、今日は手と足だけをお湯で濡らしたこのタオルで拭くのはどうかな?」
自分の手足の汚れを見ながらコクコクと頷くシオン。靴がないシオンの足は、歩いていないはずなのに大分汚れてしまった。手足を優しくハインツが準備してくれたタオルで拭うと、シオンのお腹がクーっと可愛く鳴る。
「そうだよね。お腹空いたよね」
微笑みながら話しかけたつもりだったが、シオンが申し訳なさそうな顔で視線を落とし静かになる。また何か間違えたのだろうか。元気になるにはとりあえず何か食べた方がいい。お腹が膨れれば、シオンも少しは元気になるはず。
「お茶と一緒に出てたクッキーを食べるといいよ」
シオンに少し自分のスペースを与え、その間に私も手足や汗の汚れを落とす。
「どうしたの?」
テーブルに座ってクッキーをひと齧りして物凄いしょっぱい顔をしたシオンに尋ねる。
「大丈夫……」
平気だと言うように再びクッキーを食べようとしたシオンを止め、一口味見して後悔した。
(うえぇ。しょっぱい!)
これ中世時代の高血圧クッキーだ。これと似たものを、学生の時に中世フェアか何かで食べたことがあった。作り方までは知らないけれど、材料はきっと塩を入れた後に塩を入れ最後に塩をまぶした物なのだと思う。干し肉がゴムだったのだ。クッキーに期待なんて出来なかったのだ。見かけもクッキーというより堅パンだね。せっかく出していただいたのだが……これを食べたら、逆に体調が悪くなりそうだ。
「シオン、これは無理に食べなくていいから」
可哀想に……クッキーだと思って食べた塩爆弾でシオンはショックを受けているよう。
飴、まだあったかな? ジャケットのポケットを全てゴソゴソ弄れば、存在を忘れていたエコバッグを見つける。そういえば、これが
「まぁ、手を突っ込めば分かるよね?」
一瞬だけ躊躇したが――ええい、ままよ! ズボッと
ヤギ柄のエコバッグ
胡椒瓶(1)、コンソメキューブ袋(1)、醤油ボトル(1)、味噌箱(1)、角砂糖の小袋(1)、板チョコレート(1)、ビーフジャーキーの小袋(2)、コーヒー豆の小袋(1)、茹でた枝豆の小袋(1)、オレンジジュースの小パック(2)、リンゴジュースの小パック(2)、炭酸水の大瓶(1)、クッキー箱(2)、レモン(1)、トマト(4)、食パンの中袋(1)、ニンニク(1)、苺の小袋(1)、カップバニラアイス(2)、赤ワイン瓶(1)、白ワイン瓶(1)、ウイスキー瓶(1)
太陽柄のエコバッグ
ラベンダー入浴剤の小袋(1)、ボトルシャンプー(1)、ボトルコンディショナー(1)、ボトルボディソープ(1)、ハンドクリーム(1)、洗濯洗剤(1)、綿棒小箱(1)、ヘアブラシ(1)、髪用ゴム(2)、飴の小袋(1)、袋の小袋(1)、毒瓶(1)
「良かった。ちゃんとあるみたい」
ここに飛ばされる前に購入した商品たちだと思うんだけど、シャンプーなどを含むいくつかの文字はカクカクとしていて違和感がある。小袋、中袋に小箱という表示もなんだか不自然だ。こちらの世界仕様になっているのかもしれない。それから、一番気になったのが『毒瓶』。そんな物は決して購入などしていない。
(それにしても、買い物の量が多い日で助かった)
必要な物を買いまくった結果なんだけど……文字で表示されると、よくエコバッグ二つで足りたなって量だよ。でも、購入したはずのトイレットペーパーはない。あれは手持ちで抱えていたから、飛ばされた時にどこかへと飛んで行ったのかもしれない。これだけ持って来れたのはラッキーだと思う。
「これ、どうやって出すんだろう」
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