急に現れた銀髪の二人 前編(レズリー視点)

 俺は黒騎士団副団長レズリー。十五歳で入団した騎士団は今年で在籍十二年目になる。現在俺は王都から北の砦に二ヶ月ほど滞在、このギランの森には三週間ほど滞在予定るだ。

 毎年恒例の新米騎士の訓練と強化なのだが、今回は魔の者を調査する目的もあった。ここ数年で何かと活性化している魔の者を団長と秘密裏に調査し報告書を制作する予定だ。

 魔の者とは、魔力露力の異常に高い人型の……何かだ。実際、未だにこの目で見たことがないが魔の者は魔物とは違い、非常に知性が高く好戦的だと言われている。今までの目撃情報からほとんどの魔の者は何かしらの仮面を着けているという。何故仮面を着けているのかは解明されていないが、歴史上、討伐された魔の者は口の中に刺青が施されており牙が生えていたという。そのことから、それらを隠すために仮面を着けていると予想されている。

 魔の者の伝承はウエストリア王国が建国した四百年前から記録されており、混沌を招く悪魔の化身だと言い伝えられている。二百年以上姿を見せず、徐々におとぎ話化していたのだが……昨年は実際に別の騎士団が魔の者だと思う強力な力を持つ者と相見えている。その報告によると騎士五十人で対処したが、力の差はあまりも歴然だったという。遊ぶように騎士たちを丸裸で木に縛り付け、それに飽きたらどこかへと去って行ったそうだ。魔の者が実在し、活性化しているのはほぼ事実だろう。


「準備は終わったか? 出発するぞ」


 今日は団長と二人でギラン森の奥まで調査の予定だ。魔の者の目撃情報は二年前、北の砦から数時間南に行ったリーヌの街の冒険者から報告されたのが最後だった。しかし、ここ数ヶ月の間にギランの森の中で数回の強い閃光が冒険者によって目撃されている。


「団長、せめて護衛になる騎士の同行を再考しないか?」

「必要ない。変に魔の者の話が野営地内で広がるのは避けたい。レズリー、お前はいつも考えすぎだ。見ろ、眉間のシワが深くなってる」


 団長に人差し指で眉間を突かれる。団長は侯爵家の出のくせに平民上がりの俺とも分け隔てなく接する。団長が特別にというわけではなく、クライスト侯爵家が元々実力主義であり、貴族、平民隔てなく個人を評価してくれる。もちろん団長自身も相当な腕前だ。そうでないと黒騎士団の団長まで昇り着くことなんてできない。

 上級騎士の大半が貴族だ。それは黒騎士団でも同じだが、他の騎士団のように平民出の騎士を見下す者は少ない。それは、団長のような貴族出身の騎士たちが黒騎士団には多いからだ。

 団長に唯一欠点があるとすれば、女性への対応だろう。団長は何故か女性の前では不機嫌になり、口数が減るだけではなく命令口調になる。身分も顔も文句なしに良く既に婚姻を結んでいてもおかしくないのだが、婚約者すらいないのはその女性避けの性格のせいだろう。


「レズリー、何をそんなに私の顔を見ている。何かついているのか?」

「いや、なんでもない」


◇◇◇


 森の調査は日を跨いで二日目に入ったが、報告に上がっていた閃光とはまだ遭遇してない。

 団長が仕留めた角兎を燻りながら尋ねる。


「やけに森の魔物が少なくないか? 姿を見せたのは、一角兎数匹とビックボアのみだ」


 冬季の間は数が減る魔物だが、ここまで静かなのはさすがに俺も疑問に感じていた。


「確かに少ない。何か大きな魔物が食い荒らしているのかもしれない」

「そんな跡は見当たらない。ただ単に今期の魔物が減っただけならいいのだが……あと数か所確認したら、今回は引き上げるぞ」


 一角兎を完食、再び森を進んだが今回は収穫なしが濃厚だな。今回調査した範囲を記録するために木に印を付けていると前を歩いていた団長が手を上げる。


「レズリー、今の見えたか? あの先で何かが光った」

「いや、見逃した」


 目を凝らせば、再び森の奥から数回閃光が走るのが見えた。


「行くぞ!」


 急いで閃光の見えた方角に到着したが、広く空いた銀世界の広がる平地が広がるだけで他は特になにもない。森の気候の変動は激しい、ただの雷だったかもしれない。団長も辺りを見回しながらため息をつく。


「特に何も異常はないな。雷か?」


 杞憂だったかと安堵した次の瞬間、視界を奪われるほどの光の爆発に包まれた。


「なっ」

「クソっ」


 光が止むと、どこからともなく目の前には仮面をつけた子供の姿が現れ団長が剣を構えた。


「気を引き締めろ、レズリー」


 まさか、魔の者なのか? 正直初めて見る魔の者に戸惑った。怯える様子で震えているその魔の者は、どう見ても小さな子供にしか見えなかったのだ。


「魔の者め! 遂に姿を現したか。このロワーズがフィエラ神の代わりに貴様を成敗するまでだ」


 剣に魔力を纏い魔の者に向かって叫ぶ団長の表情には俺と同じ戸惑いが伺える。本当にこの子供が魔の者なのだろうか? 確かに白い仮面を付けてはいるが、この子供からは文献で見たあの姿絵のような禍々しい気味の悪さは感じられない。


「おい! レズリー! 気を抜くな」

「団長、しかし……」

「何をボヤッとしているのだ! 行くぞ」


 状況的に見れば、こんな場所に子供がひとりでいるはずがない。ましてや、魔力の高いといわれる銀髪の子供なぞ……この子供が魔の者であるのならば刺し違えてでも成敗しなくてはならない。


「ちょっと! 何してんのよ!」


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