第17話


「何から話そうか。」

「えっと・・・。」


「そうだ、そんなに畏まらなくていい。随分前に家を捨てたということは話し言葉も平民や冒険者に合わせていたのだろう?貴族らしい対応なんかしなくていいから、普通に話してくれ。」

「はい。」


「君たちはエトワーレの出身ではないよね?トルーキエとも少し違うか。

ルスカートか、パリスタだろうか。」

「はい。ルスカートです。」


「そうか。何があって家を捨てたのか聞いても?もちろん話したくないことは話さなくていい。

ここで聞いたことは他言しない。もし必要となって他言する時には必ず2人に許可を取ってからにすると約束しよう。」


俺はこの人になら全て話してもいいのではないかと思って確認のためにタルツを見ると、タルツは頷いた。



俺は男爵の長男として生まれ、当主である父は自分の領地は持たず伯爵領のうちの1つの街を代官として任されていたこと、領内の取り立てなど汚れ仕事は父がやっていたこと、自分には魔術も剣術も経営も秀でたところがなく、伯爵にペコペコしながら使い潰される未来に絶望していたこと。

そんな時に貴族が起こした事件で冤罪を被せられ大怪我をしているタルツに出会い、一緒に領地を出て遠く離れた地で俺は料理人とたまに冒険者、タルツは冒険者と配膳をやっていたが、店が繁盛したことで妬みをかったらしく、出場した料理コンテストで嵌められ捕縛されそうになって国を出たことを話した。


「そんなことが・・・。ルスカートはまだそんなことをやっているのか・・・。お世話になった店のことも老夫婦のことも気になるだろう。君たちの扱いがどうなったのかも。よし、調べておこう。」

「え?いいのですか?」



「いいよ。ところでなぜこの国に?しかもタッシェの街に店を出したいと思った理由を聞いてもいいかい?」

「はい。トルーキエのジムナーシアでパスタに出会って、産地を聞いたらここだと教えてもらったんです。しかしルスカートと戦争をしていた国なので不安もあって少し領主様のことを調べました。

そして、この領地でいつか料理屋を開きたいと思いました。それで観光のためにタッシェを訪れたら、観光地としてこれから発展しそうだと思って。それで・・・。」


「そうか。ジムナーシアに行ったんだな。別に調べられて困るようなことはないが、他所で私がどう言われているのか気になるな。」

「領主様は強くて優しくていい人だと、平民とも分け隔てなく話すと、みんなの評価は素晴らしいものでした。」


「それはなんだか恥ずかしいな。それに、まだ私は領地に関わり始めて3年ほどしか経っていない。まだ建設中の建物も多いし、改善点を挙げていけばキリがないほどで、まだまだいい領主とは言えない。これから頑張ってみんなの期待に応えていくつもりだ。」

「そうですか。そのような考えの貴族には初めて出会いました。」


この人なら誇り高き騎士の心を持ったタルツが忠誠を誓うに相応しい人だと思った。



「タッシェには、鞄を買うために人が多く集まるようになったから、料理屋は作りたいと思っていたんだ。もし本当にやるなら、歓迎するよ。」

「本当ですか?いつかお金を貯めてまた相談に来ます。」


「そうか。うーん、じゃあ店は私が建てよう。それで、建物を貸し出しする形にする。それなら初期費用がそれほどかからないだろう?調理器具と家具や食器くらいか。

もしその建物を買い取りたいと思った時には買い取ることも可能だ。」

「そんな・・・それでは領主様が損をするのでは?」


「ファルトゥーフは私の領地に住みたいと思ってくれたんだろう?それならもう私の領地の領民だからな。それにタッシェの発展に貢献してくれるんだろう?領主として支援することは当然で損ではない。」

「領主様・・・。」


こんな人がいるんだ。こんな人が治める領地に住めることは、とてつもなく幸せなことなのではないだろうか。俺は胸が熱くなった。






「不躾なことだと分かっておりますが、領主様、タルツァーを騎士として領主様の元に置いていただけませんでしょうか。」

「ファルト!?」



「ん?それは誰の意思なんだ?」


「タルツが私に救われたと感謝してくれていることは知っているし、今までずっと一緒にいてくれたこと、守ってくれたことは私も感謝している。

しかし、やはりタルツにはできることなら騎士に戻ってほしい。

騎士の誇りや志はまだ捨ててはいないんだろう?どうか、タルツの誇り高き思いを大事にしてほしい。

もし、タルツが年老いて戦えなくなって引退した後で、まだ私を慕ってくれるのであれば、一緒に店をやろう。」

「ファルト・・・。」


タルツの目から一筋の涙が溢れた。



「ファルトの意思は分かった。タルツ、君はどうする?どうしたい?」

「私は・・・私のこの命を救ってくれたファルトを守ることが私のやりたいことだった。しかし、ジムナーシアでオークの群の討伐に参加した時に、領地を守る治安部隊を少し羨ましいと思ってしまった。すまない。」


「いいんだよ。タルツはずっと私の夢を応援してくれたんだ。今度は私にタルツの夢を応援させてくれ。」

「ファルト・・・。私は・・・もう一度、戻れるなら騎士に戻りたい。」


「うん。分かった。じゃあとりあえず治安部隊の所属にしよう。強いだろうことは分かるけど、ひとまずそれで様子を見たい。

タルツもファルトと急に離れるのは心配だろう?しばらくはタッシェの治安部隊として働いてほしい。」

「領主様・・・ありがとうございます。」


「書類をすぐに用意しよう。」



そんな即決で了承してもらえるなんて思っていなかった。

この人は、本当に凄い人なんだ。




「隊長、新人が入る。元騎士だから基礎はできている。入隊書類を持って私の執務室まできてくれ。」


え?領主様は一体何をしているんだろう?



「あぁ、これはね声に魔力を纏わせて遠くにいる相手に届けていたんだ。あまり遠い時には使えないから伝令魔獣を使うけど、そのまま喋る方が楽だからね。」

「そのようなことができるんですね。」



「次はファルト、君の番だ。」

「はい。」


「まず店の建設から始めるから、明日土木ギルドに話を持っていく。

打ち合わせにはファルトも参加してほしい。」

「いいのですか?」


「ファルトの店だからな。ファルトの意見を反映しなかったら何のために作るのか分からない。」

「分かりました。」


「家はどうする?店と併設するか、別に建てるか借りるか、クンストに住んでタッシェに通ってもいいし。

タルツはどうする?クンストの部隊の寮に住んでもいいし、家を買ってもいいし借りてもいい。まだタッシェには寮がないからな。」

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