第15話


フェルゼン領のクンストは、王都から馬車で4時間の距離だった。



「綺麗で穏やかな街だね。」

「そうだな。」


領主邸の横に立ってるのは何かの研究所かな?奥の大きな建物はなんだろう?

東に向かって進んでいくと、赤い屋根で統一された可愛い家が立ち並んでいた。壁にはそれぞれテイストの違う色々な絵が描かれていて、手前には大きな施設があった。

なんでもそれは芸術作品の展示販売施設なのだという。



「・・・これ、なんなんだろうね?」

「芸術作品なんだろうな。」


「なるほど。」

「芸術とは奥が深い。んだろう・・・か?」



入り口にはマッチョな男性がポーズを決めている大きな像が置かれていた。

ふふふ、タルツも珍しく返答に困っている。



さっきの赤い屋根の可愛い家は、芸術家が格安で借りられる寮らしい。

ここに住む芸術家は、材料も領主様の手配で格安で買えるとか。


「フェルゼン侯爵は面白いことをする人なんだね。」

「そうだな。利益になるとは思えないのが不思議なところだ。」




俺たちはクンストを見て回り、ペタジリアというパスタの店に入った。


「やっぱりこれ美味しい。本当に素晴らしい。」

「あぁ。美味しいな。ジムナーシアで食べた時より色々なソースがある。」


パスタを出している店の主人に聞くと、パスタはセモリナ村でしか作ることができない希少な小麦を使ったもので、セモリナ村の隣に昨年、麦の製粉所やパスタの工場が作られたらしい。

見学もできると言われた。


秘伝の製法じゃないのか。



俺たちは翌日、セモリナ村へ向かった。


ちょうど麦の刈り入れ時期で、半分ほど綺麗な麦畑がまだ残っていた。

近くを流れる川は穏やかで、しっかりとした堤防で水害対策も取られているようだ。



「旅のお人かい?」

「えぇ。まぁ。」


「まさかまた領主様の関係者じゃないよな?」

「え?どういうことですか?」


「何年か前に領主様がお一人で旅人のふりをしてこの村に来たんだよ。」

「何をしに?」


「彼は領主を継いで間もなかったんだが、これからこの領地を良くしたい、この村の麦を保護したいと言っていた。

領主として訪れるとみんなが畏って本音を話してくれないから旅人のふりをして本音を聞きたかったんだって。」

「そうなんですか。変わったお人ですね。」


「そうだね。貴族なのに偉ぶっていないし、謙虚でとてもいい人だよ。

水害対策も全部彼がやってくれてね。もう衰退していくしかないと思っていた村がこんなに豊かになったのは彼のおかげだよ。

今でもお祭りの時には自ら肉を狩って提供してくれたりする。」

「そんな貴族がいるんですね。」



「タルツ、俺はフェルゼン侯爵に会ってみたい。俺が見てきた貴族と全く違う。でも、今の俺は平民だし、気軽に話しかけるなんてできないから難しいか・・・。」

「ファルト、可能性はゼロではないんだから諦めるのは早い。俺もできれば会って話をしてみたい。」



俺たちはその後、セモリナ村の隣にできたというパスタ工場や製粉所を見に行った。

まだ色々な建物が建設中で、職人がたくさん働いていた。

きっとこれからこの街は発展するんだろうな。



パスタ工場がある街にはまだ宿がなかったので、クンストまで戻ってきた。

明日はクンストからすぐの特殊な鞄を作っている街に行ってみるつもりだ。




「タルツ、俺この領のどこかに住みたいな。」

「いいんじゃないか?」


「それで、できることならもう一度料理人になりたい。」

「いいと思うぞ。俺はファルトの夢を応援する。店の建設資金は任せろ。俺が魔獣討伐で稼いでくるから。」


「そんなことしなくていいよ。」

「俺はファルトの夢を応援したい。」


「その気持ちだけで十分だよ。タルツ、ありがとう。」





「確かにこれは凄いね。重力操作の付与された鞄だって。」

「凄いな。旅人や冒険者、商人、買い物に行く時に使ってもいい。凄いな。」


「しかもこの鞄のアイデアはフェルゼン侯爵らしい。何者なんだ?」

「とんでもない人物だな。」



「ここ、王都からも日帰りで来られるから、定期馬車が運行していて、鞄だけじゃなくて観光地みたいになっているみたい。確かに色々な店があるね。

それに今日は休日だからこんなに人が集まっている。」

「そうだな。観光地か。それならここに店を出すのはどうだ?」


「いいかも。出せるなら出したいな。」

「ここの土地はどう管理されているんだろうな?」



「鞄や荷車を作るために開墾して街を作ったみたいだから、領主が土地の権利を持ってそうだね。」


「じゃあ、ダメもとで領主邸に行ってみるか?」


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