第14話
「何これ!?」
「面白いな。紐みたいな見た目だが、ソースが上手く絡まって、しかもフォークに巻きつけて食べれば食べやすい。理にかなった形なんだな。」
「それもそうだけど、この食感。ツルツルしているのにモチモチしていて、これは植物なんだろうか?」
「店の人に聞いてみたらどうだ?」
「お店の秘伝の製法だったら教えてくれないかも。だってこれ凄いし。作った人天才なんじゃないかな。」
「そうかもしれないが、聞くだけ聞いてみてはどうだ?」
「うん。そうする。」
俺は店員の女性にこのパスタという食べ物はどうやって作られているのかを聞いた。
作り方は詳しくは分からないが特殊な麦から作られているとのこと。
なんでも、ここトルーキエのジムナーシアと姉妹都市提携を結んでいる、エトワーレのフェルゼン領で作られていて、それを仕入れているらしい。
お店の人が乾燥させて棒状になったパスタを見せてくれた。
「タルツ、俺はエトワーレのフェルゼン領に行きたい。」
「分かった。しっかり俺が護衛するから問題ない。行こう。」
春になって魔獣の動きが活発になっている。
旅立つ前に魔獣の情報を得るため、俺たちは冒険者ギルドに向かった。
「この周辺の魔獣の情報を知りたい。」
「かしこまりました。」
「現在はジムナーシア周辺10キロ圏内では、ゴブリンやレッドボアの目撃情報しかありませんね。しかし雪解けと同時に山から降りてくる可能性もあるので、山へ行く際には気を付けてください。」
ここの冒険者ギルドの対応は随分と丁寧だな。
まぁそういうこともあるか。
『大変だ!!』
するとギルドへ冒険者が飛び込んできた。
「オークの群が出た!俺らはギリギリ逃げられたが、俺たちの匂いを追って街まで来るかもしれねぇ。」
「群の規模は?上位種は?」
「上位種はハイオークとオークナイトを見かけた。
俺らが確認できただけでノーマルだけでも10体はいた。もっと多いかもしれねぇ。」
「おい、どうすんだよ。オークナイトを倒せるモスケルはもういないぞ?呼び寄せるにしても何日かかるか分からん。」
「あいつどこ行ったんだっけ?」
「エトワーレのフェルゼン領とか言ってたな。共闘した侯爵様を追っかけて行ったとか聞いたぞ。しかもあっちに行ってからAランクに上がったらしい。」
「侯爵様って、あの綺麗な顔して単独でオークジェネラルを瞬殺したとかいう?」
「そうそう。その人だ。」
「それよりオークの群なんてどうすんだよ。」
「伯爵家の治安部隊に連絡しようぜ。」
「そういえばその侯爵様が鍛えてから強くなったって話だしな。」
「そうしよう。俺らはその補佐くらいでいいよな。」
「・・・タルツ、俺、フェルゼン領がパスタ以外の理由でも気になる。」
「ファルト、奇遇だな。俺もそのフェルゼン領の領主だと思われる人物が気になる。」
「タルツは討伐に行かないの?」
「行くか。戦えない街の人が犠牲になるようなことがあってはいけない。」
やっぱりタルツは騎士の志を捨てていないんだな。
きっとまだ間に合う。
散々俺に付き合ってくれた。タルツを騎士にしてやりたい。
引退して、まだ俺と一緒にいたいと言うなら、その時はまた一緒に店でもやろう。
オークナイトか・・・
確かAランク単体か、Bランクが束になればなんとかなるとか。
しかし、他のオークが連携してきたら厳しいだろう。
タルツは大丈夫だろうか。
「行ってくる。ファルトは冒険者ギルドで待っていてくれ。」
「分かった。」
タルツは荷物から皮鎧を出すと、ソードベルトにロングソードとダガーを装着してギルドを後にした。
タルツは格好いいな。立ち姿は今でも騎士のように凛としているし、強いし。
タルツが帰ってきたのは、もう日が暮れてからだった。
「待たせたな。群の場所を特定するのに時間がかかってな。討伐自体はそれほど時間がかからなかったんだが。」
「タルツおかえり。お疲れ様。」
「タルツさん、ギルドマスターがお呼びです。」
「知らん。俺は用がない。」
「え?タルツどうしたの?」
「俺がナイトを相手にしたことを知って取り込みにかかっているんだろう。
夕食を食べて宿に帰ったら早く寝よう。明日は早朝に旅立つぞ。」
「分かった。」
やっぱりオークナイトはタルツが倒したんだ・・・
治安部隊より強いんだ。
そりゃあタルツの実力を知れば取り込みたくなる気持ちは分かる。
「タルツ、ギルマスの呼び出し無視して良かったの?」
「あぁ。どうもギルマスは前にも例のフェルゼン侯爵に失礼を働いたらしい。正確には部下だったらしいが、それからあまり立場がよくないらしくて俺を取り込みにかかるから気をつけろと、治安部隊の奴に言われた。」
「そうなんだ。他にもフェルゼン侯爵の話は出たの?」
「若いのに強く素晴らしい人物だと治安部隊のみんなが絶賛していた。」
「そんな貴族いるんだね。」
「会ってみたいと思った。」
もしかしたら、タルツを騎士として受け入れてくれるかもしれない。
タルツが興味を持つなんて珍しい。仕えたいと思える主君が見つかるのならば、俺は応援したい。
翌日、俺たちは朝日が昇る前に街を出た。
とりあえずエトワーレの王都を目指して、そこで少し情報を集めてからフェルゼン領に向かうことにした。
「随分と栄えているんだな。」
「そうだね。ちょっと前まで戦争していたとは思えない。」
「みんな穏やかな顔をしているし、思ったより安全な国なのかもしれない。」
「タルツがそう言うならそうなんだろうね。」
フェルゼン侯爵の噂を酒場などで聞いてみると、誰に聞いても悪い噂が出なかった。
なんでも侯爵家当主でありながら、国の騎士団に所属しており、最年少で中隊長になるほどに強いらしい。
画期的な鞄を領地で作っているとか、芸術家を保護しているとか、トルーキエと姉妹都市提携をして交易も行っているとか。
高位貴族なのに、平民がいくような酒場で部下を連れて飲んでいたり、露店で買い物をしているのを見たという人もいた。平民とも分け隔てなく話をするらしい。しかもまだ10代なのだという。
「タルツ、俺はますますフェルゼン侯爵という人物に興味が湧いたよ。」
「ファルト、俺もだ。」
「とりあえずフェルゼン領の領都に向かおう。」
「そうだな。まずはファルトの目的でもあるパスタを見に行こう。」
「うん。」
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