第13話



俺たちはとりあえずエトワーレ王国に入ると森から出て街を目指した。

エトワーレ王国とルスカート帝国は、過去に戦争をしていた。まだ終戦から10年も経っていない。

場所は南の辺境だから、今いる北に戦争の影響はないだろうけど・・・。


それでも戦争をするような国だ。長居はせず他の国に行った方がいいかもしれない。



「タルツ、エトワーレ王国のことについて詳しかったりする?」

「いや、8年ほど前までルスカートと戦争をしていたことしか知らない。野菜や小麦の生産量が多いと聞いたことがある。」


「そっか。戦争をしていた敵国だし、早めに他の国に移ろう。」

「分かった。北西に向かえばトルーキエだ。まずはそこを目指そう。」


エトワーレでは、いくつか街に寄って宿にも泊まったが、いずれも1泊のみで翌日にはその街を出た。



「意外と平和だね。」

「そうだな。きつい締め付けがあるようには見えないな。」




俺たちはそのままトルーキエに入った。


「タルツ、こんなに豆の種類があるよ。」

「見たことのないものもあるな。」


「世界は広いんだね。」

「そうだな。」


「色んな街に行くのは楽しいね。見たことのない景色が広がっていたり、食べたことのない食べ物があったり。」

「あぁ。この国は安全そうだしいいな。」


タルツはルスカート帝国を出ても、警戒を緩めたりはしなかった。

もう国を出たんだから大丈夫だと思うんだけどな。



本当は無事だと元気だと、師匠と女将さんに知らせたかったが、俺たちと連絡をとっていることが知れれば師匠と女将さんが危険に晒される可能性があるので諦めた。


トルーキエはタルツ的にも安全と判断できたようで、各街に2~3日ほど滞在して冒険者ギルドで依頼を受けたりした。

タルツは討伐依頼を、俺は薬草採集や農家などの手伝いを受けた。



「俺もそろそろ魔獣の討伐依頼を受けてみようと思うんだけど。」

「そうだな。じゃあ金属鎧を買いに行こう。」


「え?金属鎧?俺はFランクだから討伐依頼を受けるとしてもゴブリンとか弱い魔獣だよ?」

「それでも万が一のことがあってはいけないからな。」


「タルツも一緒に行くのに、そんなことないと思うけど・・・。

それに金属鎧なんかを着たら戦える気がしない。歩くことも難しいかもしれない。」


「そうか。じゃあファルトは街で安全な手伝いをするか、薬草依頼を受ければいい。

金なら俺が稼ぐから心配いらない。」

「・・・分かった。」


スライムやゴブリンなどの弱い魔獣なら倒せるかもしれないと、Fランクの討伐依頼を受けようとしたが、心配性なタルツがそれを許さなかった。




秋にルスカート帝国を出て、年を越すと、トルーキエは寒すぎて辛くなったので、ラジリエンへ移動することにした。


「ここは砂糖が安いね。この国で砂糖を作っていたのか。」

「そうみたいだな。暖かい地域で作るものなのかもしれない。」


「砂糖が安いから、色んな甘味があって楽しいね。」

「そうだな。きっとこの国から各国へ輸出しているんだろう。」


「ケーキってのも初めてだし、このコーヒーってのも、ちょっと苦いけどシロップをたくさん入れると美味しいね。」

「あぁ。俺はミルクだけでシロップは入れない方が好みだな。」


「そうなんだ。」

「ケーキが甘いから、コーヒーは甘くないものがいい。」


「確かに。その方がバランス取れるね。」




その後、俺たちはインディールにも行った。

インディールでは見たことのないスパイスがたくさんあり、街の至る所からスパイスのいい香りがしていた。


「この国は全体的に辛い料理が多いんだね。」

「そうだな。」


「スープもそのまま飲むというよりは、このパンのようなものをつけたり、この穀物と一緒に食べるんだね。」

「そうだな。そのままでは塩っぱい気がする。」


「なんだかずっとこの国にいたら、全身がスパイスの香りになりそうだよ。」

「それは・・・ちょっと困る。」


意外だ。服には全く関心を示さないのに、タルツも身だしなみというか体臭には気を使うのか。



「匂いで敵に居場所が割れたら困る。」

「そ、そうだね。」


違った。タルツはやっぱりタルツだった。




国によって売っている食材も違えば、食べている料理の味付けも違って面白いと思った。


タルツはラジリエンやインディールよりもトルーキエの方が好きみたいだ。

春になると、俺たちはまたトルーキエに向かった。




そしてジムナーシアの街で運命の出会いを果たす。

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