第8話


今日は、昨日とは別の店で食事をしている。

相変わらずタルツはエールを頼まずお茶を飲んでいる。


「タルツ、実は相談したいことがあるんだ。」

「あぁ。何でも言ってくれ。」


「今日依頼を受けた料理屋で、明日からも働きたいと思っているんだ。」

「そうか。店の人はいい人だったんだろう?それならいいんじゃないか?」


「うん。でも、それだと1日に稼ぎが銅貨3枚なんだ。」

「あぁ。まぁ店の手伝いだとそれくらいだろうな。」


「その金額では宿代も払えない。数日に一度だけ働いて、あとは別の依頼を受けるか、ランクを上げてある程度まとまったお金を貯めてから店の仕事をするか、迷っている。」

「なんだ、そんなことか。ファルトは好きな仕事を続ければいい。

宿代くらい私が稼ぐから心配いらない。」


「でも、それではタルツにばかり負担が・・・。」


「ファルト、私はファルトがやりたいことを見つけたなら応援したい。

それに私はファルトを守ると決めているし、命を救ってくれたお礼もまだできていない。

宿代なんか気にすることはない。」



「いいの?」

「私にも応援させてくれ。」


「うん。ありがとう。」




タルツ、私はタルツに感謝してもしきれない。

だって私をドロドロとした、もがいてももがいても抜け出せないあの底無し沼のような場所から救い出してくれたのはタルツだから。


今回のことだって、本当は自分の力だけでできたら良かったのに。

タルツを頼ることになってしまった。


まだ未熟でごめん。





「今日、まとまった金が入ったから、明日は私もその店について行こう。」

「え?タルツが店に?何しに?」


「護衛だ。それと、ファルトがお世話になる店だから挨拶を。」

「フフフ、なんだかタルツは保護者みたいだね。」





ーーーーーー


「おはようございます。冒険者ギルドから手伝いに来ました。

今日もよろしくお願いします。」

「あら、おはよう。本当に今日も来てくれたのね。」


出迎えてくれたのは、今日もお婆さんだった。


「今日は仲間が一緒に来たいと言ったので、連れてきましたが、お邪魔にならないようにしますので、彼も見学させてもらってもいいですか?」

「あらあら、また若い方が来てくれて。彼があなたのお仲間なのね。何もないところだけどゆっくりしていってね。」


「ありがとうございます。

昨日ファルトがお世話になりまして、ありがとうございました。

ファルトはこの店の仕事が気に入っているようで、今後もお世話になるかと思いますので、どうぞよろしくお願いします。」

「あらあら、ご丁寧にありがとうね。ファルトくんはとても真面目に仕事に取り組んでくれて、こちらも助かっているのよ。」


「そうですか、それは良かった。私は邪魔にならないよう端にいますので、いないものとして無視していただいて構いません。」




今日は昨日よりも忙しかったので、私も料理の盛り付けを手伝った。


そしてなぜか、タルツは料理を運ぶのを手伝っていた。

いつの間に?



「ありがとうね、あなたにまで手伝わせてしまって申し訳ないわ。」

「いいえ、私はどうせ暇しておりましたので。

それにファルトがお世話になっているのでお気になさらないで下さい。」


「タルツ、手伝ってくれてありがとう。今日は忙しかったから助かったよ。」

「お昼をご馳走するくらいしかできなくて悪いね。」

「いえ、私の分まで用意していただいてかえって申し訳ない。」


「いいのいいの。こちらは助かったんだから。遠慮せずに食べてね。

ファルトくんもタルツくんも。」



「美味しいな。」

「でしょ?この店の料理はどれも美味しい。とても優しい気持ちになるんだ。心が温かくなる。」


「そうだな。あれだけお客さんが来る理由が分かるよ。」

「だよね。きっとタルツもそう言ってくれると思ってた。」



この店のご夫婦は本当に朗らかで優しい人たちだな。

私は、こんなことをお願いしてもいいのか迷ったけど、昨日タルツが応援してくれると言ってくれた。

だから思い切って、お願いしてみよう。


もし、ダメだったとしても、別の店でお願いしてもいいし、この店の手伝いを続けながら図書館などで勉強してもいい。

そっか。図書館という手もあったか。

とにかく、聞くだけ聞いてみよう。



「あの、私は、今後もこのお店の手伝いをしたいと思っています。

もし可能であれば、私にも料理を教えてもらえないでしょうか。」

「え?料理を?」


「はい。私は今まで料理にあまり興味を持ったことがなかったのですが、最近、料理は人を温かく幸せにしてくれるものだと知ったんです。

私もいつか、あなた方のように人の心を温かく、幸せにできる人になりたいんです。」



お爺さんとお婆さんは顔を見合わせていたが、2人して頷いた。


「いいよ。」

「ですよね、そんな簡単には・・・ってえ?」



「いいよ。」

「本当ですか?いいんですか?」


「もうね、私たちは歳だから、あまり長くは続けられない。

それに後を継いでくれる人もいなかったから、この足が治らなければ閉めようかとも思っていたんだよ。」

「そんな・・・。」


「だけど、ファルトくんは、これからもこの店で働きたいと言ってくれた。この店の料理が温かい味がすると言ってくれた。

それだけでとても嬉しかったんだよ。」

「ファルト、良かったな。」

「うん。」



「それで提案なんだけど、うちでは十分な給金を出してあげられない。だから、ここの2階に住んだらどうかと思ってね。

それで冒険者ギルドを通しての手伝いではなく、うちが直接ファルトくんを雇う形にしたいと思うんだけどどうだろう?」


「いいんですか?私は全く異存はありません。

でも、ここの2階に住むというのは、ご迷惑なのでは?」

「構わないよ。それなら宿代も浮くだろう?

私たちは店の裏の3軒隣に家があるから、2階は元々空いていたんだ。」



「そうなんですね。あの、タルツも一緒に住んでも大丈夫ですか?」

「もちろんだよ。初めからそのつもりだったよ。」

「え?私もいいんですか?」


「だって君たちは、なんだか2人で1人というくらいお互いを大切にしているでしょう?離れ離れなんてよくないと思うし、タルツくんは今日手伝ってくれたしね。」

「住まわせてもらうなら、私も、せめて冒険者の仕事がない日はお手伝いさせて下さい。」


「ありがとう。無理はしなくていいんだよ。できる時だけでいい。

たまに手伝ってもらえるとありがたい。」

「任せて下さい。」



「じゃあずっと放置していたから、2階を少し掃除しようかねぇ。」

「使ってもいい部屋を教えていただければ、自分たちで掃除します。」


「そう?それなら、案内だけするわね。

家具などはそのまま使ってもらってもいいし、好きなものに買い替えてくれても構わないからね。」

「はい。」



お婆さんに案内してもらった部屋は、ずっと放置していたと言っていた通り、少し埃っぽかったけれど、ベッドが2つと机やキャビネットなどが置かれていた。

宿の部屋より大きい。



「本当にこの部屋を使ってもいいのですか?」

「えぇ。」


「ありがとうございます。しっかり働いて、働きで返したいと思います。」

「ふふふ、期待しているわね。」


お婆さんはそう言うと階段を降りて行った。



_____

お金の価値

銅貨(100円)

小銀貨(1,000円)

銀貨(10,000円)

小金貨(100,000円)

金貨(1,000,000円)

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