第7話


「それほど時間は取らせない。2人ともそこに座ってくれ。

私はここの冒険者ギルドのギルドマスターを勤めているピエーシだ。」

「私がタルツです。彼は仲間のファルトです。」


なるほど。ギルドマスターの略でギルマスって呼ばれているのか。

冒険者の中では常識なんだろうな。



「手短に言おう。タルツ、お前は何者だ?昨日冒険者登録をしたと聞いているが、登録初日にレッドボア、翌日にはロック鳥を持ち帰った。しかもどちらもソロで討伐したと聞いている。間違いないか?」


「えぇ。魔獣の討伐については間違いはありません。

何者と言われましても、今はただの冒険者としか答えられません。」


まさか、タルツが騎士であったことがバレたのか?

冒険者ギルドにまで調査をさせているのか?

やはり伯爵家もタルツの有能さに今更ながら気づいて連れ戻すつもりかもしれない。



「まぁ、俺もギルドもお前の過去を探りたいわけじゃない。

答えられないものは無理に話さなくてもいいんだ。」

「はい。すみません。」


ん?タルツの過去がバレているわけではないのか。

連れ戻すということでもなさそうだ。



「じゃあ別の質問をしよう。

人を斬れるか?と言うか、人を斬ったことは?」

「・・・あります。でも決して一般市民を手に掛けたりはしていません。」


「あぁ、それは心配していない。目の色が曇っていないからな。

盗賊や闇ギルド関連の奴らでも倒したってところだろう。」

「はい、まぁ。」


「それだけ聞ければいい。

よし、俺の権限でタルツは今からBランクだ。」

「え?」

「凄い。タルツ良かったね。」



「依頼の報酬と、ロック鳥の買取については計算が済んでるだろうから帰りに受付に寄って金だけ受け取ってくれ。」

「あの、なぜ私がいきなりBランクに?」


「ソロでロック鳥を倒したんだろ?

まぁ実力的にはAに上げてもいいんだが、まだ登録して間もないからな。とりあえず様子見ってことでBだ。」

「はぁ、まだ私は駆け出しですし、ロック鳥はたまたま倒せただけです。ランクと実力が釣り合っていないように思うのですが・・・。」



「じゃあ、ロック鳥をどうやって倒したか聞かせてもらおうか。

ファルトも気になるだろう?」

「はい。あんなに大きな鳥を1人でどうやって倒したのか気になります。」


「えっと、ゴブリンの群を倒したら、ロック鳥が飛んで来たんです。

恐らく私の後処理が遅かったために、血の匂いが辺りに広がってしまったんでしょう。

餌を食べに来たのだと思うのですが、あまり街に近づいては危ないと思って、ゴブリンが使っていた槍を投げて。そしたら倒せました。」


「そうか。槍で一撃か。しかも性能がいい槍でもなく、恐らく研いでもいない錆びて切れ味の悪い槍だったんだろうな。」

「すいません。確かにちょっと槍が汚かったかもしれません・・・。

その槍が触れた部分は取り除いて捨てて下さい。無駄を出してすみません。

やはり私はまだまだ半人前です。」



「いや、性能のいい槍でもロック鳥を一撃で倒せる者などほとんどいない。

確実に戦闘能力が高いことだけは分かる。

因みにタルツ、お前の武器はどこに置いてきた?変なところに置いておくと盗られるぞ。」


「え?どこにも置いてきていませんよ。ほら、ここに。」

「は?お前、まさかゴブリンの群れをその小さいダガー1本で倒したのか?」


「はい。今はこのダガーしか持っていないので・・・。

そのうちお金を貯めて剣を買いたいとは思っていますが、しばらくはダガー1本です。」



「もしかして、その破れた服も、妙な趣味ではなく金が無くて買えなかったとかそんなオチか?」

「まぁそうですね。お金が貯まったら服も買い替えます。」


「あの、ゴブリンの群って何匹くらいの群だったんですか?」

「う~ん、何匹だろう?そういえば数えるのを忘れていた。」


「そうか・・・。

報告書では、ゴブリンの群れは37匹と書かれているな。」

「そうですか。教えてくれてありがとうございます。」



「なぁ、気になったんだが、お前ら2人礼儀正し過ぎないか?

話す時も敬語だし、自分のことも私とか言ってるし。」


ヤバい、私は冒険者ギルドでは俺と言おうと思っていたのに、すっかり忘れていた・・・



「いや、俺らは丁寧な言葉など知らん。なぁタルツ。」

「あぁ。俺らは礼儀など知らん。」


良かった。タルツも乗ってくれた。



「・・・。

まぁいい。とにかく、タルツは今からBランクだ。」

「そうか・・・過大評価だと思うがな。」


「それと、もし武器が無くて困っているなら、ギルドにも武器の貸し出しがある。ただし、あまり性能は期待しないでくれ。

まぁ、ゴブリンが使っていたような槍で一流の仕事ができるタルツなら、そんなんでも問題ないだろうが。」


やっぱりタルツは凄いな。

ギルマスが呆れるほど強いんだろう。

伯爵家も、こんなに有能なタルツに罪を被せて消そうとするなんて、アホすぎる。タルツを失うことがどれほどの損害になるか計算できないようでは、伯爵家も先は無いだろう。



「そうだ、スタンピードや災害級魔獣の出現の際には高ランク冒険者には呼び出しがかかる。泊まっている宿を教えてくれ。」

「それは無理だ。宿を明かして万が一にもファルトが危険な目に遭ったら困る。」


「いや、金も持ってないような俺を狙うような奴はいないだろう。

タルツ、教えてやればいいじゃないか。」

「ファルト、お前は分かっていない。

どこにどんな危険が待ち受けているのか分からないんだ。危険はできうる限り排除するべきだ。」


「ファルト、お前誰かに狙われてるのか?

心当たりがあるなら、ギルドで調査することもできるが。」

「いえ全然。誰にも狙われてないし、危険な目に遭ったこともない。」


「そうか。じゃあタルツが心配性なだけということでいいのか?」

「えぇ。」


「そうか。まぁ頑張れ。

宿は教えたくないなら強制はしないから、有事の際には協力してくれれば助かる。」

「分かった。」


私たちはギルマスの部屋を退室すると、受付に寄った。

ゴブリンの群れ討伐で銀貨2枚、ロック鳥の買取はなんと小金貨3枚だった。


凄いなタルツは。私なんて今日の稼ぎは銅貨3枚だぞ。

仕方ない。私には剣の才能も魔術の才能もないんだから。

きっと冒険者という職にも向いていないんだろうな・・・。





ーーーー


>>>ギルマス思考


冒険者として突然現れたタルツという人物が気になる。

ロック鳥を研がれてもいないような槍で一撃で倒すなんて、俺にも無理だ。

あいつは風の魔術を纏っているから、なかなか刃が届かない。

纏っている風の魔術以上に強い魔術を当てて引き摺り下ろすなどして、剣士が数人がかりで攻撃を繰り返しながら体力を削っていく戦い方が一般的だと思っていた。


とんでもないのが街にきたな。

しかし気になる。タルツの強さは確かに気になるところではあるが、立ち振舞いからして、騎士などの訓練を受けたものだろう。

それなら丁寧な言葉を喋ることも納得できる。


タルツも気になるが、仲間のファルトも気になる。

ファルトは騎士仲間というわけではないだろう。もしかしたら貴族の子息かもしれない。

そしてタルツが護衛をしているとか。


もしそうだとしたら、なぜファルトが冒険者登録をするのかが分からない。

しかも聞けば、料理屋の手伝いの依頼を受けたというじゃないか。

金がなくなって困ったのであれば、タルツだけが登録をして稼げばいいだろう。

それに、ファルトはタルツの実力を把握していないように見えた。


そして、2人の関係は、主従関係とは少し違うようにも見えた。

謎だな。

まぁ、2人は真面目そうだし、きっとどこでも上手くやっていくだろう。

この街に戦力として引き留めたいが、何か問題を抱えているのかもしれないし、それは難しいかもな。



_____

本日、2人が『拾われた戦争孤児が魔術師として幸せになるまで』の本編に登場します。


お金の価値

銅貨(100円)

小銀貨(1,000円)

銀貨(10,000円)

小金貨(100,000円)

金貨(1,000,000円)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る