第5話
街に入ると、早速冒険者ギルドに行き、タルツの冒険者登録を行った。
「え?タルツって18歳だったの?」
「ん?あぁ。まぁそうだが。老けて見えたか?」
「そういうわけじゃないけど。」
「ははは、別に良いよ。会った時はボロボロだったしな。」
「Gランクの掲示板はあちらです。」
2人で掲示板を見に行ったが、やはりGランクでは手伝いや掃除、薬草採集しかなかった。
「仕方ない。1番稼げる薬草採集にするか。」
「うん。そうだね。」
私とタルツはそれぞれ別の薬草の採集依頼の紙を持って受付に行った。
「どちらの薬草も南の森に多く生えていますよ。」
そう言って薬草を入れる袋を2枚渡された。
そのまま南門から出て森に入った。
「この辺はもう取り尽くされているな。もう少し奥に進むか。」
「そうだね。」
どんどん奥へ進むと、少しずつ袋もいっぱいになってきた。
「ファルト待て、嫌な気配がする。魔獣かもしれない。」
「え?魔獣?」
そうだよね。今まで出会わなかったのは奇跡だったのかもしれない。森に魔獣がいるなんて当たり前のことを忘れていた。
魔獣・・・
私に倒せるのだろうか?いや、無理だろう。剣も無いし、攻撃魔術なんて使ったこともない。
「タルツ、逃げる?」
「いや、もう私たちは見つかっているようだ。戦うしかない。
大丈夫。私が戦うから、ファルトはそこの木に登って身を隠せ。」
「大丈夫?」
「あぁ。大丈夫だ。」
私がいては足手纏いになるかもしれない。タルツは自信ありそうだし、任せよう。
私は手を擦り剥きながら木に登っていった。
ブフブフ
赤い猪?
立ち上がったら私と同じくらいなのではないかと思うくらい大きい。
タルツは腰に着けていた刃渡りが15cmほどのダガーを構えた。
やはりタルツは騎士なんだ。動きがとても早く、すごく格好良くて、あっという間に顎の下にダガーを刺して猪を倒していた。
そして強い。
私も剣術を習っていたが、刀身の短いダガーを持って魔獣の前に立つことなんかできない。
あの短さで猪の牙の攻撃を受けるなんて、考えただけで恐ろしい。
やはり才能がある人は違うんだな。
そんな風に思いながら私は木からゆっくり降りていった。
「レッドボアの子供だな。」
「子供?これで子供なの?」
「あぁ。大人になったら倍近くまで成長するからな。これもギルドで買い取ってもらおう。」
「そうだね。」
「これを売った金で宿に泊まれると良いのだが・・・。」
「私はまた森で寝てもいいよ。」
「いや、ここの森は魔獣が出るから、森で寝るのは危険だと思う。私が寝ずの番をしても良いが、それだとファルトも付き合うと言うだろう?」
「そりゃあタルツだけにそんなことさせられないよ。」
「だから、泊まれそうなら宿に泊まろう。」
「分かった。」
タルツはレッドボアという魔獣を担いで歩き出した。
タルツは腕力も凄いんだな。
「タルツ、重くない?大丈夫?」
「大丈夫だ。これくらいなら余裕だ。」
「そっか。タルツは力もあるし、剣術も上手くて強い。凄いね。」
「でも私には、それだけしかない・・・。
それに、今は小さなダガーしかないのは少し心許ない。」
「それだけなんて言わないでよ。タルツは優しくて気持ちも強くて、真面目だし、良いところを挙げたらキリがないよ。」
「そ、そうか?ありがとう。」
私が褒めると、タルツは目を逸らして照れているようだった。
タルツのそんな表情初めて見た。
いつも、どんなに傷が痛んで苦しくても、それを感じさせないような凛々しくて堂々としている顔しか見たことがなかった。
伯爵家の騎士団は本当にアホだな。
こんなに強くて真面目で騎士の鏡のような人物を手放すなんて。
ギルドに着くと、依頼書と薬草の入った袋を出して、レッドボアの買取もお願いした。
依頼達成で銅貨5枚ずつ、買取はそれぞれ小銀貨1枚と銅貨6枚だった。
そしてレッドボアは、子供は肉が柔らかくて人気だとかで、銀貨2枚になった。
「凄いね。魔獣を倒せると、こんなに稼げるんだ?」
「レッドボアを倒したのはタルツさんですか?」
「そうです。彼が1人で倒しました!」
「そうですか。ではタルツさんはEランクに昇格できますが如何しますか?」
「凄い。タルツ昇格しなよ。」
「あぁ、分かった。昇格お願いします。」
タルツに見せてもらうと、タルツのギルドカードにはEと書かれていた。
格好いい。私もいつか・・・。
「さぁ、宿を探して、美味しいものを食べに行こう。」
「うん、そうだね。」
ハリネズミ亭という、メインストリートから少し入ったところに建っていた宿に行ってみると、2人部屋なら1泊で2人で小銀貨2枚だった。
1人1部屋ずつにすると2人で小銀貨3枚。
「同じ部屋でいいんじゃない?今までだって隣で寝ていたんだし。」
「ファルトがいいなら、そうしよう。その方が有事の際に守りやすいしな。」
「大丈夫だよ。こんなところで誰も私を襲おうなんて思わないよ。」
「何があるか分からないから、備えられることがあれば備えたい。」
「タルツがそうしたいなら、いいんじゃない?」
「あぁ。」
私たちは2人部屋をとりあえず5日とって、宿を出た。
「服買う?」
「服はまだ買わなくていい。それよりファルトにきちんとした食事をしてもらいたいし、装備を揃えるなら剣を先に買いたい。」
「そっか。何を食べる?」
「穀物や野菜を食べていなかったから、家庭料理が食べられる店がいいだろう。」
「ここにしよう。」
タルツは一軒の、看板にスープの絵が描かれた店を指した。
「うん。」
中に入ると、夕方ということもあり2/3ほど席が埋まっていた。
エールを片手に串に刺さった肉を食べている人が多い。
正直、店の壁に描かれたメニューを見ても、どんな料理か分からなかった。
そっか、私は自分で食べたい料理を選んで食べたことがないんだ。
「ファルトは食べられないものはあるか?」
「特にないと思う。」
「私が適当に頼んでもいいか?」
「うん。お願い。」
タルツはお店のおばちゃんに何か聞きながら、色々注文していた。
私1人で来たらどうやって注文したらいいのかも分からなかったかもしれない。タルツと一緒でよかった。
運ばれてきた料理は、シチューのようなスープと、じゃがいもを茹でたもの、小麦粉の生地で肉などの具材を包んだもの、薄切りにされたパン、串に刺さった肉、飲み物はお茶だった。
「タルツはエールを飲まないの?もう成人してるでしょ?」
「ダメだ。万が一にも酔ってファルトを守れないような失態は犯したくない。」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ。」
なんだかタルツは元気になって街に来たら、とても私に対して過保護になったみたいだ。
裕福な貴族の子息なら分かるが、今の私は平民のようなものだし、お金なんて小銀貨3枚くらいしか持っていないのに、襲われることなんてないだろう。
「美味しいね。」
「あぁ。美味しいな。」
久しぶりに肉を焼いて塩をかけたもの以外を食べたら、とても美味しかった。
思わず頬が緩むと、タルツも嬉しそうに微笑んでいた。
美味しい料理とは、こんなにも人を温かく幸せにしてくれるんだな。
小さな幸せだが、私はその小さな幸せに感動していた。
_____
お金の価値
銅貨(100円)
小銀貨(1,000円)
銀貨(10,000円)
小金貨(100,000円)
金貨(1,000,000円)
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