第4話


翌日ヤプコの街の冒険者ギルドに行って、依頼書と摘んだ薬草を提出した。



「あら、こんなにたくさん。優秀ですね。」


受付の女の人はそう言うと、依頼達成報酬として銅貨5枚と、薬草の買取として小銀貨2枚をくれた。




よし、パンと塩を買うぞ。

パン・・・いくらなんだろう?


領地の税収の勉強はしてきたけど、パン1つの値段も知らないことに気づいた。


ん?そういえば昨日タルツがパンも塩も買えると言っていたってことは、銅貨5枚で足りるんだろう。



パン屋に入ったら、手のひらサイズのパンが2つで銅貨1枚だった。

よし、4つ買って帰ろう。

私はパンを4つ買って銅貨2枚を払って店を出た。




塩・・・

塩はどこに売ってるんだ?


野菜を売っている店には無かった。

果物のジュースやジャムを売っている店にも無かった。

豆の店にも無かった。

粉屋に入ってようやく見つけた。



親指の爪ほどの大きさの岩塩という塊が銅貨3枚だった。

塩って、どうやって使うんだろう?

タルツなら分かるかな。とりあえず買って帰ろう。


私はパンと塩を手に入れると、タルツの待つ森へ戻った。








「タルツーパンと塩、買えたよ。」

「そうか。よかったな。」


「塩ってこの塊で合ってる?」

「あぁ。これは岩塩だな。ずいぶん小さいな。」


「これで銅貨3枚だったんだけど、無駄遣いしちゃいけないと思って、1番小さいのを買ったんだ。」

「高いな。これで銅貨3枚か。そうか、戦争で輸入品が不足しているから高くなっているのかもしれないな。」



「そうなんだ・・・戦争。

前線で戦う人や近隣の村だけが影響を受けるわけじゃ無いんだね。」

「そうだな。今はエトワーレと戦争をしているが、そのせいでエトワーレから輸入されていた野菜や小麦などが入ってこなくなった。

パンも高かったんじゃないか?」


「パンはこの4つで銅貨2枚だったよ。」

「そうか。やはり高くなっているな。

戦争が始まる前は、同じ銅貨2枚でもこの倍の大きさのパンが4つ買えた。」



「あと、薬草の買取で小銀貨2枚もらえたよ。まだそれは使ってない。」

「そうか。依頼の報酬より買取の方が高いんだな。」



「受付の人が、こんなにたくさんで優秀だって言ってたから、普通はそんなに採集できないのかも。」

「そうか。確かにそうだよな。駆け出しの冒険者がそんなに薬草をたくさん取れるわけないか。」


そっか。私とタルツは森の歩き方も分かるし、2人で手分けして探したしな。


冒険者とは大変だな。この稼ぎでどうやって生きていくんだろう?

この稼ぎでは武器を買うのも防具を揃えるのも大変そうだ。



依頼も受けたし、パンも塩買ったし、そろそろズモート領に向けて進もう。

パンはその日の夜と翌日に食べて無くなってしまったが、塩は一度に使う量が意外と少量で、かなりもちそうだ。

塩があるだけでかなり満たせれた感じになる。塩って偉大だ。



森を進むこと5日目


「もうそろそろズモート領に入ったかな?」

「方向が間違っていなければ入っているだろう。よし、一緒に街に行こう。」




「タルツ大丈夫?」

「あぁ。もうだいぶ怪我も治ったし、ここまで来れば見つかることもないだろう。

あの怪我だったから、私は死んだと思われているだろうし、わざわざ時間と人手をかけてこんなところまで探しにくることも無いだろう。」



街道に出て半日かけて進むと、街が見えた。

この大きさなら領都ではないだろう。



「久しぶりの街だ。少し緊張するな。」


そういえば、タルツは破れた騎士服のままだ。



「タルツ、その服って伯爵領の騎士の服だよね?その服で大丈夫?破れてるし・・・」

「そうだな。いつまでも騎士を引きずっていても仕方ない。上着はもう捨てよう。

ブーツとズボンとシャツなら、破れているし髭も伸びてきたし、騎士とは分からないだろう。

依頼を受けたら服を買うか。」



騎士を引きずってたんだ・・・。

そうだよね。タルツはいつでも騎士であることを誇りに思っているように見えた。

それを捨てさせてしまって良いのか分からなかったけど、今の私が何をしてあげられるわけでもない。


無力でごめん。せめて服を。



「服って小銀貨2枚で買える?買えるなら買おうよ。」

「それはファルトが稼いだ金だから、ファルトが使ってほしい。私は自分でちゃんと稼いで買うよ。破れていても大丈夫だ。」


「うん。でも、このお金はタルツも一緒に稼いだんだから、私だけのものではないと思う。

タルツにも使う権利はあるよ。」

「じゃあ、街に入ったら、美味しいものでも食べようか。」


「うん。」


服を買う提案は断られてしまった。

騎士の上着を脱ぎ、タルツは火を付けた。


「そうだ。私のこのジャケットも。」


私はジャケットを脱ぐと、燃えているタルツの騎士服の上に乗せた。

燃やして土に埋めると、そこには爽やかな笑顔のタルツがいた。



「スッキリした。もう未練はない。」

「そっか。」


私なんかは別に貴族であることに誇りを持っていたわけでもないから、豪華な服を燃やしたところで何とも思わないが、タルツは・・・。

いや、タルツは未練はないと言っているんだ。せめて私はタルツの決意を受け止めよう。



_____

お金の価値

銅貨(100円)

小銀貨(1,000円)

銀貨(10,000円)

小金貨(100,000円)

金貨(1,000,000円)

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