第3話
街道を伯爵領とは反対方向に向かって歩いていく。近くに街があればいいんだが、無ければ村で聞くしかないな。
良かった。半刻ほど歩くと、遠くに街のようなものが見えた。まだまだ遠そうだが、目的地が見えただけいい。
とりあえず今日は様子を探ってタルツのところに帰ろう。
街に入ると、近くにいた人に冒険者ギルドの場所を聞いた。
手っ取り早く地理が分かり、金も稼げるし情報もある場所といったら、そこしか思い浮かばなかった。
「登録をしたいのですが。」
「文字は書けますか?代筆がいりますか?」
「文字は書けます。」
「ではこちらの用紙に記載してください。」
登録用の紙を渡された。
名前、ファルト。年齢、13歳。武器、無し。得意な魔術、水。
「こちらの機械に魔力を少し流してください。」
機械が少し光ると、私のカードが出来上がったようだ。
カードにはファルトGランクと書かれていた。
「身分証の代わりにもなりますので、カードは無くさないよう気をつけてください。
Gランクのクエストは、あちらの掲示板に貼られています。」
「分かりました。ありがとう。」
『私』と言うのも、冒険者には似合わないな。これからは俺と言ってみようかな。
「この領地の地図はありますか?」
「ありますよ。お渡しすることはできませんが、あちらに地図が置いてありますので、ご自由にご覧下さい。」
「はい。助かります。お、俺はこの街に来たばかりなんだが、街の名前を教えてほしい。」
『俺』って言ってみたけど、なんだか気恥ずかしかった。
「ここはヤプコです。プーステニア伯爵領ですね。」
「分かりました。ありがとう。」
私は地図を見に行った。
プーステニア領か・・・まだ隣だな。ヤプコまで来ていたのか。あと4-5日歩けばズモート侯爵領に入れそうだ。この領では森を通り、ズモート侯爵領からはタルツも一緒に街に行こう。
Gランククエストは・・・
そうだよな、こんなもんだよな。初心者だもんな。
農家の手伝いや、お使い、掃除・・・薬草採集もあるのか。これでいいや。
1番高いのが薬草採集で銅貨5枚だった。安いが、薬草の買取で少しプラスで稼げるみたいだ。
どうせ森に戻るんだから、受けてみよう。
「これを受けたいんですが。」
「分かりました。この袋に薬草を詰めてギルドに持ってきて下さい。この薬草は西側の森によく生えていますよ。」
「分かりました。」
魔力を感じる袋を渡されて、私は冒険者ギルドを後にした。
西側は反対だが、森ならタルツがいる辺りにも生えているだろう。
早く戻って明るいうちに薬草を探そう。
「タルツ、どこ?」
「ここだ。」
岩場の陰から出てくるタルツをようやく見つけた。
「そんなところにいたのか。」
「あぁ、ファルトおかえり。どうだった?街は、見つかったようだな。」
「うん。街で冒険者登録をして薬草採集の依頼を受けた。
これはその薬草を入れる袋でギルドから渡されたんだ。」
「冒険者か。確かに手っ取り早く稼ぐこともできるし、地理なども教えてもらえるな。
なるほど。私も登録してみよう。」
私は依頼書と袋をタルツに見せた。
「うん。いいと思う。タルツならすぐに高ランクになれそうだね。
でね、この近くの街はプーステニア伯爵領のヤプコだった。」
「そうか。思ったよりは進んでいたんだな。」
「うん。だからあと4-5日歩けばズモート侯爵領に入れると思う。」
「そうか。じゃあ私はズモート侯爵領に入ったら冒険者登録をするよ。
それまではファルトが受けた依頼を手伝おう。」
「うん。ありがとう。
まだ完全に傷が治ったわけじゃないんだから、無理はしないでね。」
「あぁ。分かった。」
私たちは、日が暮れるまで薬草を探し回り、その甲斐あって袋は見事にいっぱいになった。
「これをギルドに持っていけば、明日はパンが食べられるね。
塩も買おう。買えるよね?」
「あぁ。どちらも買えるだろう。
ファルトは成長期なのにこんな食事をさせてすまない。」
「そんなことタルツが気にすることないよ。
ズモート領に入ったら、頑張って依頼受けて、街で美味しいもの食べようね。」
「あぁ。しっかり稼いでくるよ。」
「そうだ。他の領地に行ったらタルツは何をするの?
私は領地を出たいと思ってここまで来たけど、実は何かをしたいとか、何になりたいとか、明確な目的があったわけじゃないんだ・・・。
だから、少し悩んでいる。」
「そうだな。私も何がしたいとかは考えてこなかった。ただ、生きていたいと思う気持ちだけでここまで来た。」
「そっか。目的が決まっていないのは同じなんだね。少し安心した。」
「そうか。それは良かった。
ファルトは冒険者になったんだから、冒険者を続けながらやりたいことを探したらいいと思う。まだ若いんだしな。」
「うん。タルツもね。」
「あぁ、そうだな。
あ、私は一つだけやりたいことがあった。」
「え?何?」
「ファルトを守ることだ。
私はファルトを守りたい。私が生き長らえることができたのは、確実にファルトのおかげだ。
だから、この先も私はファルトと共に歩み、ファルトを守って生きていきたい。」
「タルツ・・・
本当は、やりたいことがないのが不安だったわけじゃなくて、タルツの目的によっては、離れ離れになってしまうのかと思って、1人になるのが心細かったんだ・・・。」
「大丈夫だ。私はいつでもファルトと共にあろう。ファルトになら一生の忠誠を誓ってもいい。」
「忠誠なんて、そんなことしなくていいよ。
タルツは親友みたいなものだから、上下関係なんて要らない。平等でいたいんだ。」
「分かった。」
タルツは、やはり誇り高き騎士なんだな。
いつか、騎士にしてあげたい。
でも今はまだ、側にいてほしい。
まだ子供でごめん。
________
お金の価値
銅貨(100円)
小銀貨(1,000円)
銀貨(10,000円)
小金貨(100,000円)
金貨(1,000,000円)
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