11話「その名はゲリュオン」
何でこうなった、どうしてこうなった。今、僕と謎の騎士はそれぞれ向かい合いながら座り、仲睦まじい友達の様にして楽しく談笑をしている。
まさか、まさか騎士のモンスターだと思っていた敵がまさかの「ロボット」だったのだ。
「スゲェ、SFだけの話じゃなかったのか…!」
「いやはや驚いた。まさかこの世界でワタシの存在を知っている者がいるとは…。向かってくる者全員、武器を襲いかかってくるものだからこの先永遠に悲しいロボとして生き続けなければならないのかと思っていたが、君の様な理解ある人間に出会えるとは…実に嬉しい限りだ」
「型式番号とか名前は?ロボット、オートマトンの類なんだろ?」
「ワタシの名前は『ADEF‐00TypeX 指揮官自律知能搭載型汎用兵器』だ」
いや長いよ。下手な早口言葉よりも難しくないか?
一々名前呼ぶ時に『ADEF‐00TypeX 指揮官自律思考搭載型汎用兵器』って呼ぶなんて面倒臭い事この上ない。
「何か他の名前無いの?コードネーム的な…」
「う~む…一応、ゲリュオンと呼ばれていた時もあったが…」
「よし、今から君はゲリュオン。いいね?」
「あ、あぁ分かった…」
今の所、こんな調子でゲリュオンと名乗るオートマトンと話し続けているのだ。
見た目は正に悪役ロボットと言っても差し違えない見た目なのだが、性格は特別悪いとは言えない。
少し素っ気ない感じもするが、クールでカッコイイロボットだ。
しかし、僕は半分警戒心を解いているのに対して、シルヴァはまだ警戒を解いていない。
僕が楽しく2人で会話している中、常に横目でオートマトンの事を警戒し、僕の横に控えている。
身長がそれなりにある僕よりも更に高い、下手したら2mを普通に上回っているこのオートマトンに臆せず警戒し続けられるのは中々の根性だ。
「今までここに来たニンゲンは斬りかかってくるか逃げるかのどちらかだった。会話をしてくれた、そしてロボットである事にも気が付いた、ニンゲンお前が初めてだったぞ…?」
「まぁ、お前嬉しそうだったしな…」
「お前じゃない、ゲリュオンだ」
「なら、僕だってニンゲンじゃない。僕の名前は「凱亜」だ」
そうして話していた2人であったが、ゲリュオンはふと立ち上がり、先程の凱亜と同じ様にして首を上に上げて、月明かりの様な光が差す空を見上げた。
「いつぶりだろうか、こうやって人と面と向かって話すのは…」
「まるで、長生きしてきた様な言い方だな…」
凱亜は、先程の明るく楽しげな雰囲気とは打って変わって、場の雰囲気が重苦しくなるのを感じ取った。
ゲリュオンのその姿には、何処か悲しげなオーラが漂っていた。
「かつては戦争の兵器として、かつてはとある者の従者として、時には騎士となって誰かを守った。正に波乱の連続だった…」
ゲリュオンの言葉には、何処か物悲しさと寂しさの様なものが乗っかっていた。
過去を思い出し、その過去にふけっているかの様にして。
「ワタシは色々なものと景色をこの目で見てきた。人とは時に優しく、非情になる時はどこまでも非情となる。人々の暖かい心も、冷徹で下賎な心も、無慈悲に起こる戦争もワタシは全て見てきた」
ゲリュオンは更に過去の出来事を語り始める。
「この時代は……荒んでいる。ワタシは魔物として、人々に害をなす者として見なされた。何処かに行けば討伐依頼を出され、何人も何人もワタシにかけられた報酬金を手に入れる為に無慈悲に剣を振るった」
「所謂、独断と偏見による差別ってヤツか…」
「無論、時が流れるにつれてニンゲンの力は劣っていった。全員、殺さない程度に返り討ちにしてやったが………。まぁ、そう言う事だワタシは人々から敵意の目を向けられた。だからこうしてここにただ1人でいる」
「……誰か、誰か分かってくれる人がいたんじゃないのか?」
言葉が詰まり、何をゲリュオンに対して言えば良いのか分からなくなりそうになった。
凱亜は何とか言葉を捻り出し、今自分の言える事をゲリュオンに対して言った。
「はっ、そんな人がいてくれればこんなみすぼらしいボロ城に何ているものか。一度ニンゲンに根ずいた考えは簡単には消えない。世間ではワタシは魔物。人に害をなし、人によって葬られるべき存在だ」
皮肉混じりにゲリュオンは、軽く笑いを見せるかの様な口調でそう言ったが、凱亜には分かっていた。
オートマトンであり、ロボットではあったがゲリュオンの迫害と差別をしたニンゲンに対する怒気が痛い程伝わってくる。
自分だってそうだった、何かした訳でもないのに。
ただの下らない様な偏見だけで人から疎まれ、軽蔑される。
「ゲリュオン、お前自身はどうしたいんだ?」
「ワタシか………?ただのロボットとして生きていきたいさ。まぁ、出来るものならな…」
確証性なんて存在しない。
誰かが出来ると言った訳では無い。けど、それでも凱亜はゲリュオンに強い共感を示していた。
共感を示すと同時に、凱亜は自分の右手を前に差し出していた。
まるで手を取ってくれと言わんばかりな手の差し出し方であった。
「……どう言うことだ…?」
「僕達と、一緒に来ないか?僕は、貴方を差別なんてしない。貴方はただのロボットだ!人を傷付ける訳でも、誰かを破壊する為のロボットなんかじゃない!ただのゲリュオンだ!ゲリュオンって名前のただのロボットだろ!?もし貴方がこの先、笑っていられる様な生き方をしたいなら、僕達と一緒に行こう!」
まるで異性に告白する時並の大きな声を上げ、頭を下げながら右手を差し出す。
掴んでくれるのなら、共に生きたいのならその手を取ってほしかった。
「凱亜……君は良い人間だ。差別もしない、偏見なんかで考えを変えない。そんな君となら、ワタシは共に君達と歩めるかも知れない……だが…」
やはり、無理だと言うのか。僕は手を取り合えると思ったのだが。
「まずは、実力を拝見しよう」
「あ、あぁそう言うこと?」
断られるのではなく、力を示せと言う事か。
そう言う事なら良いだろう、恐らく先の未来で生み出されたロボットだ。
きっと凄い武装や兵装を搭載しているに違いない。
「今の時代の人間の力はあまりにも劣っているが、君はワタシとやり合える程の力は持っているのかな?」
僕とゲリュオンは一度、お互いに距離を取って後方に下がる。
「少なくとも、貴方と互角ぐらいの力は持っていたいけどね!」
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