10話「騎士ではなく、亡霊でもなく?」


 冒険者ギルドを後にして、凱亜達は街の外に出ていた。


 城壁を抜けて、外の世界に出た時。世界は既に暗い闇に包まれようとしていた。


 空からは月明かりの様な光が、スポットライトの如く降り注いでいる。



 今から向かう所は、街を出た後に北方向に存在し、街と隣接している森の地帯だ。

 そして、森に入って獣道を少々歩いた先に謎の騎士がいると言われている古城が存在している。



 噂話を小耳に挟んだ所、以前まで古城は普通にモンスターが生息している、所謂「湧きスポット」的な場所だったらしい。

 実際の所、そこそこの腕を持った冒険者達の活動ポイントだったらしいが、謎の騎士が現れてから、人気は全くなくなったとの事。



 ◇◇



 そんな訳で、僕とシルヴァはそんな悪い噂の絶えない古城の前に立っている。


 入口から既に古びており、金属部分は完全な程に錆び付いてしまっている程だ。

 周辺には、瓦礫や、石造りの壁の残骸、価値が完全に消えた装飾品等が無造作に散乱している。


 昔は財に恵まれ、大きな土地を持った城だったのだろうか。


 過去の事なんて分からないが、今は昔の事を考えるよりも目の前の事を片付ける必要があった。



「行くぞ、いざとなったら逃げる…OK?」



「言われなくとも、まぁ撤退なんて出来る限りはしたくないが」



 シルヴァは軽く吐き捨てる。


 彼女の表情は、明らかに撤退と言う言葉を知らないかの様な表情であった。

 彼女の度胸は非常に強く、肝が据わってる。


 か弱い女性だと心配する必要もない様だな。



 凱亜は多少の恐怖を押し殺しながら、正面の二枚式の古びた扉を棺桶を用いて開ける。


 中から騎士の大群が斬りかかってくるのではないか?

 と言う、悪い妄想をしてしまったが全く持ってそんな事はなかった。


 古城の中はただの静寂、音一つ存在しない。


 天井の屋根は無惨にも老朽化か破壊されたのか、剥がれ落ちており、古城内部に落ちた屋根の残骸が散らばっている。


 やけに幻想的だと感じた。


 屋根の素材が崩れ落ちている為、天井には歪な形の穴が無数に開いていた。


 ボール一つ分ぐらいの小さな穴もあれば、車でも簡単に通り抜けられる程の大きい穴も存在していた。

 そして、天井にぽっかりと空いた穴からはキラキラと美しく、まるで祝福するかの様にして月明かりの様な光が差している。



 現代の世界では、絶えず人間の手によって作られた人工的なネオンの光が街中を照らし続けていたので、あまり月明かりの様な自然的で手の加えられていない光を拝む事は出来なかった。


 何故か、いつもよりも綺麗に見える。


 敵が待っているのかもしれないのに、まるで誰かと一緒になって見つめる様にして上を見つめてしまう。


 もしかしたら、この美しい景色を見ている者が他にもいるかもしれない…と。



「マスター……何かいる…」



「あ!………あぁ…」



 シルヴァの言葉に思わずハッとして、呆けてしまっていた凱亜は我に返る。

 子供の様に目を輝かせてしまって、見惚れる様にして空を眺めてしまっていた様だ。



 ◇◇



 それなり先にいるを見据えながら、凱亜とシルヴァは前へ前へとゆっくり歩いて行く。


 ちょうどこの広い部屋の半分ぐらいまで来た辺りで、凱亜でもシルヴァでもない声がこの無音の空間に響いた。



「……何者だ?」



 やば、イケボ。って言ってる場合じゃない。


 意外にイケボで色気のある男性寄りの声に、凱亜は思わず顔に驚きの表情が出そうになった。


 凱亜は背中に背負っていた棺桶を右手で強く握り締めると、向こうと同様に口を開いた。



「ようやく喋ったか……コミュニケーションは出来るか…」



「御託はやめろ。ここに来る奴なんてたかが知れている……」



「討伐……だろ?」



 その言葉に、依然として月明かりの様な光の当たらない闇の中に潜んでいる騎士。正に奇妙で、恐怖の対象の様だ。

 凱亜は臆する事なく、平静を装いながら会話を続ける。



「あぁ、依頼を受けてな…」



「またか、これで四回目だ。一度目は負けた挙句逃げ、二度目も同じ、三度目に至っては姿を見ただけで逃げた。さぁ、お前達はどうだ…?」



 言葉が切れた瞬間、謎の騎士は遂に重い腰を上げる様にして立ち上がる。


 そして、深淵の闇から這い出るかの様にして月明かりの当たる所までゆっくりと歩いてきたのだ。


 闇から出でて、月明かりにその姿が当たった瞬間。

 凱亜達の前に騎士が姿を現した……。



「…………ん?」



「どうした…?」



 目の前に現れたのは、騎士……騎士?



 二本の鹿やトナカイを彷彿とさせるアンテナ、瞳だと思っていたらまさかの赤色に光るモノアイ、黒色と灰色がメインとなったフォルム、やけにホッソリとした体、そして右腕に取り付けられたレーザー砲の様な装備。



「何でロボット―――――!?」



 凱亜は1人叫んだ。


 尻尾を巻いて叫び声を上げながら逃げる事もなく。

 臆して気を失う事もなく。

 はたまた、その姿に笑いを見せるのでもなく。



 凱亜は驚きのあまり、1人で他の者を置き去りにする勢いで叫んだ。


 お笑いのツッコミをする勢いで困惑と興味の嵐に呑まれながら。

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