12話「ロボットとニンゲン」
一度ゲリュオンと距離を取った凱亜とシルヴァ。
そして、凱亜はすぐに自分の横に踏ん張る様にして立つシルヴァに指示を出す。
「取り敢えず、シルヴァは後方から背中を叩け!」
「マスターはどうするつもりだ!?」
「真正面だ!」
凱亜はニヤリと口元だけで笑みを見せると、背中に背負っていた棺桶を取り出し右手でグリップ部分を強く握り締める。
棺桶に取り付けられた長い鎖は、凱亜の体に巻き付いている。
束縛する為に巻き付いているのではなく、手元から離れない様にする為に腕等を固定せず、体本体に巻き付いているので、凱亜の動きを阻害する事はない。
「二対一でも、ワタシは構わん!」
シルヴァが後方に回っていながらも、ゲリュオンは背中を取られ、後方に回っているシルヴァを無視し正面から凱亜に向かって突っ込んで来る。
最初は右腕部に装着したビーム砲の様な兵器を使って、こちらに撃ってくるのではないかと予想したが、凱亜の予想は外れる。
「何!?」
鈍い金属音が鳴り響き、暗がりの中、一つの銀閃が輝きを放つと同時に空を斬った。
本能的に、危険を察知した凱亜は身を屈め、アクション映画顔負けの動きで、華麗に空を斬り裂いた銀閃を避けた。
ゲリュオンは右腕部のビーム砲を使用するのではなく、違う武器を使用したのだ。
(ビーム砲だけじゃなく、剣まで…)
ゲリュオンの左手に握られていたのは、刀身が眩しい程に美しい光沢の如く光を放つ一つの長剣だった。
やけに近未来的デザインをしており、西洋風、中世時代の異世界的な剣とは言えない。
まるでビームサーベルの様な、未来の武器の様だった。
そして一撃の攻撃を避けると同時に凱亜、勢いよく背後にバックステップをする。
そしてバックステップをして距離を取った時、凱亜は遠目ではあるが月明かりの様な光に照らされたゲリュオンの使う剣を見る事が出来た。
「高周波振動……か。また、随分と凄い武器を持ってやがる」
額から冷や汗を数滴垂らしながら、凱亜は興味と闘争心の目をゲリュオンに対して向ける。
「ほう、これも知っているのか」
高周波振動剣、またの名を高周波ブレードと呼ぶ事もある。
言わばこれは「高周波振動発生機」を、剣やナイフ等といった、刀剣類に取り付けた武器の事だ。
振動発生機により、高周波振動剣の刀身は超高速で振動し、この振動によって物体を切削、その切れ味は通常の刃物を遥かに越える威力を持つと言われている。
普通の剣ですら、斬られれば手痛い傷を負うと言うのに。
鉄すらも斬り裂く力を持つ、この高周波振動剣を敵が持っているとは。
(ヤベェ、久々だな…)
本能的に分かる、まだ斬られていなくとも分かる。
あれに斬られれば間違いなく体が裂けて死ぬ。
足の一本、腕の一本余裕で斬り飛ばされる代物だ。
「ふっ…!」
ゲリュオンは、自分よりも大きい機械の体を俊敏に高速で動かし凱亜との距離を詰めてくる。
左手に握られた高周波振動剣を握り締めながら、剣で斬れる間合いまでゲリュオンは凱亜に接近し、その高周波振動する刃を振りかざす。
「うぉぉぉぉ!」
火花が散る勢いで、ゲリュオンの高周波振動剣と凱亜の棺桶が鍔迫り合いを起こす。
ゲリュオンは上から剣で斬り伏せ、凱亜は棺桶を用いて何とか防戦する。
凱亜は、武器として使っている棺桶を今度は防御用の盾として応用する。
幸いな事に、この棺桶は殴打用武器として使えるだけあって非常に堅牢な素材が使われている。
その堅牢な装甲は、ゲリュオンの持つ高周波振動剣ですら斬り裂けない程であった。
「ぐ、くぅぅぅ!!!」
「力比べか!面白い!」
ゲリュオンは剣を握ったまま、徐々に力を込めてくる。
棺桶で防いではいるが、向こうの力は明らかにこちらの限界を余裕で超えていた。
まるで潰されていく様にして、凱亜は徐々に追い詰められていく。
棺桶で防御はしているが、後何十秒もこのままで攻防戦が続いてしまえば、棺桶と地面に挟まれて倒れてしまうだろう。
さっきまでは両足でしっかりと立ててはいたが、今にも片膝立ちになってしまいそうだ。
「おい、何処を見ている!?」
確かに追い詰められていると言った、しかし今回は1人ではないのだ。
生憎、今は仲間と言う存在が僕の傍にはいる。
追い詰められ、ピンチにでもなれば彼女は救いの手を差し伸べてくれるのだ。
「もう1人…!」
「うぉぉぉぉ!」
シルヴァは、ゲリュオンの冷たい鋼鉄の体に向かって、強く拳を握り締めると同時に飛び上がり、頭部目掛けて一発の正拳突きを放つ。
「待て、シルヴァ!ゲリュオンの装甲は!」
凱亜は咄嗟に、やや焦った口調で叫ぶ。
しかし叫んだ時には既に、シルヴァの拳はゲリュオンの頭部目掛けて放たれていた。
ガン!と鈍い金属音がこの古城の中に鳴り響く。
「いっ!……たぁぁぁぁ!!」
そりゃそうなるよ。籠手や保護用の装備も装備せずに素手のまま硬い鉄なんて殴ったら、そりゃ痛いよ。
シルヴァは躊躇なく鉄を殴りつけた事で、シルヴァは腕と拳に激痛が走り、痛みのあまり目から涙が数滴零れ、飛び回りながら拳に息をフゥーっと吹き掛けた。
「痛った!痛った!痛った!何だよこれ、硬すぎるだろ!」
「忠告はしたよ、忠告は……」
シルヴァの痛みのリアクションに、両者共に込めていた力が完全に薄れてしまった。
凱亜もゲリュオンも共に痛がっているシルヴァの方を向き直っている。
「おい、大丈夫か?」
凱亜はゲリュオンが力を抜いている事を確認すると、その隙を狙って体制を立て直し、棺桶で容赦なく殴るのではなく、ゲリュオンとの戦闘を放棄し、ゲリュオンに背を向けながらシルヴァの元へと駆け寄った。
痛みで苦痛と悲痛の表情を浮かべるシルヴァの元に凱亜は寄り添い、彼女の腕を優しく掴み、拳を見つめる。
「ありゃゃ、赤く腫れてる。早く水で洗って冷やすか、氷で冷やすか何かしないと…」
「ましゅた〜!めっちゃ痛いよぉ~!」
「泣くな泣くな、僕と同い年だろうが…」
ゲリュオンは、仲間の容態を見る為に戦闘を放棄し、安易に背中を晒している凱亜をただ黙って見つめていた。
赤いモノアイを光らせながら、武器の矛先を向ける事もなく、ただ彼らの事を静かに見つめていた。
「……」
背中を向けた凱亜にゲリュオンは刃を向けて突撃する事も、右腕部に装着されたレーザー砲で彼らごと撃ち殺す様な事もしなかった。
(いつぶりだろうか……)
◇◇
こんなニンゲンを見るのは久しぶりだった、この時代に生きるニンゲンは自分の事を軽蔑し討伐するべき対象として見ていた。
報酬金が掛けられれば、まるで群がるかの如く、吸い寄せられる様にして集まってくる。
その度に、その度に刃を振るい、レーザー砲の引き金を引く。
戦う事は本意では無い。出来るのなら、共存と言う選択を取るべきだと思っている。
しかし、自分は共存を望むのに対してニンゲンは刃を向け、武器を振るった。
人々はただ恐怖の対象として、自分の事を見ていた。
何処に行こうと、待っているのは恐怖の視線と軽蔑、差別の言葉のみ。
◇◇
しかし、今目の前に立っているこの2人は違う。
凱亜、そしてその従者である少女は自分に対して恐怖する事もなく、何か軽蔑的な言葉を投げる事もなく。
普通に、ただの友人の様にして接してくれていた。
現に今だって、恐怖の対象が目の前に立っているにも関わらず、彼らは平気な表情を見せている。
そうか、そうだったのか。
彼らは自分の事を軽蔑も、差別もしない。ただのゲリュオンとして扱ってくれる。
何でその事にもっと早く気が付けていなかったのだろうか。
勇気を振り絞って、彼が自分に対して差し出した手。
これを取らないと言う選択肢等、最初から存在していなかった。
共に歩もうとその口で言ってくれるのなら、その手をワタシは取ろう。
◇◇
「…え?」
凱亜はゲリュオンの突然の行動に、思わずキョドってしまい、疑問の表情を浮かべてしまう。
先程まで、刃を交えながら戦っていたゲリュオンは突如として刃を収め、落ち着いた風貌で剣を握り締めていた左手を凱亜に対して差し出したのだ。
「試す様な真似をした事を謝罪しよう……それよりも、ワタシを仲間に入れてくれるのだろう?その話、乗らせてもらおうと思ってな?まさか…ダメか?」
月明かりの様な光が、壊れた天井から降り注ぐ中。
ゲリュオンは凱亜に対して、共に行こうと示す様にして手を伸ばした。
表情はロボットである為に分からないが、きっと今、ゲリュオンの心は嬉しさに満ち溢れているだろう。
「いいや、そんな事ない。こちらこそ」
凱亜は、ゲリュオンの差し出した左手を握った。
それは、ゲリュオンと凱亜とシルヴァは仲間になったと言う確固たる証拠であった。
「ワタシはゲリュオン」
「僕は凱亜、不知火凱亜だ…」
「私はシルヴァ。マスターの奴隷だ!」
月明かりの様な光の下、2人に新たなる仲間が出来たのだった。
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