7話「何より必要なのは金」
「んっ……もう朝か…?」
まだ眠たい、まだ寝ていたい。
そんな考えは凱亜の脳裏に現れる。臀部が痛む、目が霞む。
「んっ!」
そのまま、ベットにもたれ掛かったまま凱亜は布団を体に被って眠っていた様であった。
昨日の夜、シルヴァの様子を見守りながらベットにもたれ掛かりながら眠った凱亜は何事も無く、翌日の朝を迎えた。
部屋に取り付けられていた窓からは日光の様な光が差しており、それが光源の代わりとなって部屋を明るく照らしていた。
部屋に差し込む光に促される形で、凱亜は座り込んでいた状態から立ち上がる。
立ち上がると同時に、体を強く伸ばすと同時に目を数回軽く擦った。
朝から風呂に入れないのは、少々癪だ。
いつも通りなら、朝起きたら風呂場に直行して風呂に浸かるのが鉄壁なのだが。
ここには風呂もシャワーも無い。
と言うか、異世界の人間はあまり風呂に入る文化が無い。
強いて言え、お湯で体を拭いて、髪を濡らすぐらいしかしない。
第一、異世界にはボタン一つ押せば水が流れてくれるシステムは存在しない。
前の世界なら、ボタン一つで風呂を沸かす事が出来たが、異世界ともなるとそう簡単にはいかない。
風呂には入れなさそうだ、出来て備え付けられている綺麗な水で顔を洗うか口を濯ぐしか出来そうになかった。
だが、昨日は精も根も尽き果てていて何もせずに眠ってしまっていたが。
「お、マスター。起きたか?」
「あ、シルヴァ。おはよう」
ふとベットの方に、凱亜は視点を動かす。
するとベットの上には昨日よりはご機嫌そうな美しい表情を浮かべたシルヴァが座っていた。
三角座りの様な姿勢で座っており、ベットの上からベットの前に立つ凱亜の姿を優しく見つめている。
ニヤッ、とした笑みは何処か悪そうに見えてくるがその悪さにも美しさを覚えていた。
「今日は、クエストしに行くんだろ?2人仲良く冒険者になるとするか?」
「あぁ、そうだな」
そう言いながら、凱亜は部屋に立て掛けておいた身の丈に迫る程の棺桶型装置を背中に背負う。
これで見掛け倒しぐらいにはなるだろう。デカイ武器を持っておけば、下手な暴漢等に絡まれる心配も無くなるだろう。
軽いので背中に背負っても何の問題も無い。
そしてシルヴァと軽く会話を交わした凱亜は、金を稼ぐ為に冒険者としての活動を開始する事にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「新規の冒険者登録ですね?少々お待ちください」
異世界ともなれば、クエストを受ける為の所謂「冒険者ギルド」的な建物はすぐに見つかった。
街を軽く散策してみれば、真っ先にそれっぽい建物を発見する事が出来た。
何故かって?
絡んできそうな雰囲気と、以下にもと言いたい程のイカつい感じの男達。
やけに装飾に拘っていそうな錫杖、鞘に収められた長剣、戦斧や槍等を装備した若い男女。
そして美しい目鼻立ちをした、受付嬢。
こんなのテンプレ以外の何物でもない。これまで、フィクションの中で冒険者ギルドと言う存在には痛い程出会ってきた。
明らかに今までの経験を加味して、ここだなと確信した凱亜はシルヴァにどうなのか尋ねる事にした。
◇◇
勿論、質問に対して返ってきた答えは。
「あぁ、ここが冒険者ギルドだが?」
と無難な感じで凱亜に対して言葉を返してくれた。
取り敢えず、門を叩く様にして冒険者ギルドの中に入ると凱亜とシルヴァは他の冒険者には目もくれず、入ってすぐ正面にあるカウンターの所へと向かう。
「…あれ、見ない顔ですね。新規の登録者ですか?」
「あぁ、そうだ。2人だが、大丈夫ですか?」
「新規の冒険者登録ですね?少々お待ちください」
◇◇
そして、一分程経過した後。
凱亜達の対応をしてくれた受付の女性が再び戻ってきた。
「では、こちらの用紙に出来る限りの記入を」
「はい、了解しました。ほら、シルヴァ」
そうして、2人にはそれぞれ1枚ずつの藁半紙の様な紙と羽根ペンが宛てがわれた。
凱亜は、取り敢えず書ける限りの事を書く事にした。
便利なのか都合なのか、はたまた偶然なのかは分からないが、いつも使っている標準語で文字を書いてもこの世界の相手には普通に伝わる。
実に不思議だ。何か文字を変えてくれるフィルターでも存在しているのだろうか。
(名前、年齢、出身地…意外と書く欄少ないな…)
そして一通り書き終えた凱亜は、受付の女性に借りていたペンを返却する。
シルヴァも同じ様にして、書き終えると書くのに使っていたペンを返却した。
「それでは、当ギルドについて説明しますね。基本的には、ギルドが出している依頼を行って、素材の回収や魔物の駆除等を行ってください。完了したと見なされたら報酬金が支払われます」
「成程…」
「後、依頼はギルドだけではなく個人の依頼や…時には国を守ってもらう為に国の騎士達と共に国を守ってもらう事もあります…理解出来ましたか?」
「あぁ、十分だ」
シルヴァが腕を組みながら、自信ありげに強く答えた。
表情は、正に余裕。と言った所だった。
早くクエストに向かいたい、と心の中で言っている様にも思える。
「理解出来た。僕達の様な新米でも、出来るクエストが欲しい……金が必要だからな」
「なら、定番のスライム討伐やゴブリンの討伐がオススメですよ?」
「よし!ゴブリン共を血祭りに上げてやらぁ!」
シルヴァは力強く言い、強く拳を握った。殴り飛ばす気満々の様だ。
「マスター!ゴブリン共の駆逐で良いよな?」
彼女の言葉に何も反対する気はなかった。初のクエストにゴブリン退治は正に鉄板と言った所だろう。
何か異論を唱える必要は無い、何か反対する理由も無い。
何より金が必要だった2人は受けられるのなら何でも良かったのでゴブリン退治を受ける事にしたのだった。
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