第156話:密会
授業参観の前夜。帝都アデルハイド。
エルモンド公爵家の息のかかった酒場にて。
長男ネロ・エルモンドは、黒い外套を纏った男と密会をしていた。男はフードを深々と被っており、いかにも怪しげである。
「依頼の準備は整ったか?」
「ええ、もちろん。前金はたっぷりと貰ったんでね。そこはしっかりとやらせてもらいましたよ」
(前金だけで通常依頼の十倍以上ときたら、やる気も違ってくるさ。やはり公爵家の懐は暖かいな)
「念のため、ブツを見せてほしい。明日は俺の人生すべてがかかっていると言っても過言ではないからな」
「少々お待ちを」
ちなみに、酒場内には現在彼等以外の人間はいない。
男は外套の内側から一つの魔導具を取り出し、テーブルの上に置いた。
「ほう、見たことのない形状をしているな……これはどのように扱うんだ?」
「まずはこの小さな弾を先端の穴に詰めまして、次に上のストッパーを外します。そして標的に狙いを定め、引き金を引けば弾が発射される仕組みです」
「なるほど。まるで小型の魔導大砲だな。よくできている。お前らの組織が開発したのか?」
「こいつの出どころは機密情報なんで、残念ながら言えませんね」
「そうか、仕方がない……と言いたいところだが、さすがに心配が拭いきれん。本当に大丈夫なのか?そんな小さな魔導具一つで。相手はアインズベルクの神童だぞ?」
「その件については、今からきちんと説明させてもらうんで、ご安心を」
男は直径一センチにも満たない弾を手に取った。
「この弾には、実は二つの呪いがかけられてるんですよ」
「どんな呪いだ?」
「“魔封じ”と“
「ふむ……呪いの効果は最適だ。しかし、相手は将来の俺の嫁だぞ?あまり傷を付けてほしくはないのだがな」
「申し訳ないんですけど、こればかりは我慢してもらうしか……。でもほら、弾自体はかなり小さいんで。惚れさせた後に、きちんと取り除いてあげれば問題ないですから。ぜひ貴方と彼女が二人っきりの時に、じっくりとお世話をしてあげてくださいよ。くっくっく」
と言い、男はフードの中で卑しい笑みを浮かべた。
「……ならいい。そちら側に何か懸念はあるか?」
「正直な話、もしターゲットの兄が作戦の場にいれば、成功確率はガクッと落ちますね」
「大陸を股にかける犯罪組織『九尾』ですら、対応できないのか?」
九尾のメンバーである男はその言葉を聞き、大きく溜息を吐いた。
「貴方も見たでしょう?この間の帝龍祭を。あれはダメですよ。“九尾ですら”とか、そういうレベルではないんですよ。そもそも人類が束になって、やっと勝負になるかどうか……それがアルテ・フォン・アインズベルクです。建前はSSランク冒険者ですけど、もし上限が無ければ、一体いくつSが並ぶことやら……」
男は少し顔を上げ、フードの奥からネロに鋭い視線を突き刺した。
「まさか、誰の妹に手を出そうとしているのか、わかっていないわけではないですよね?」
「も、もちろんだとも。だから九尾に依頼を投げたんだ。わがエルモンドですら手に負えないものと判断して」
「まぁ我々は金がもらえれば何でもいいんで。できる限りのことはやらせてもらいますよ、九尾の名に懸けてね」
(もし失敗したら、またボスからお説教をくらうことになるからな。それだけは御免だ)
二人はその後も作戦会議を続けた。
「最後にもう一度言わせてもらいますね。万が一閃光がいた場合でも、一応標的に弾を撃ち込みます。もしそれが命中しなかったとしても、その瞬間に私は退避させてもらうので、後はご自身だけで頑張ってください」
「了解した」
「では、これにて」
「ああ。また明日、合同実技演習で」
男は酒場を出て、夜の闇に溶けこんだ。
「こんなに美味い依頼は久しぶりだ……くっくっく……」
一方その頃、アインズベルク公爵邸では。
すでに、ほとんどの者が眠りについていた。
“この二人を除いて”。
「セレナさん。だ、大丈夫かな。嫌われたりしないかな」
「安心してください、レイ様。男という生き物は、誰でも心の中に狼を飼っているんです。アルテ様も普段はクールな感じですけど、一度枷が外れれば、必ずSSSランクモンスターになりますから」
「アル兄様がSSSランクモンスター?」
「はい。アルテ様は夜の魔物です(適当)」
「夜の魔物……なんか響きがエッチだね……」
「そうなんです。アルテ様はとんでもない大変態ですから、いつでもウェルカムなんです。それに……」
「それに……?」
「早くしないと、誰かに取られちゃいますよ?」
「それはダメ!!!絶対ダメ!!!」
「じゃあ今すぐレッツゴーです!」
「レッツゴーだね!」
それから数分後。
コンコン。
「……誰だ?」
「わ、私だよ~」
「おお、レイか。入っていいぞ」
ガチャ。
「いったいどうしたんだ、こんな夜遅くに……ん?」
その翌朝、アルテは妙にゲッソリしており、レイは妙にツヤツヤしていたとか……。
また余談だが、王猩々の素材から作られた夜のポーションが、いろいろと活躍したらしい。いろいろと。
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