第157話:授業参観

 授業参観当日の早朝。

「おはよー!!!お兄様!!!」ツヤツヤ

「お、おはよう……」ゲッソリ


もう親父と母ちゃんは基地へ出向いたらしいので、俺とレイ(女神)は二人で朝食をとることにした。


「今日は合同実技演習の日だから、気を引き締めていこうな」

「そうだね~」

「と言っても、俺以外にも助っ人を何人か連れて行くから、レイはいつも通り、友人達と楽しく授業を受ければいい」

「わかった!!!」


身支度を整えた後、レイは馬車に乗り、学園へ向かった。


今日は、三年生は休みの日だ。前世の中学・高校と同様、この時期は入試やら何やらの関係で忙しくなるため、登校日が極端に減るのである。ちなみに帝立魔法騎士学園のほとんどの生徒達は、帝都内にある魔法学院か騎士学院に進学する。


もちろん、卒業後にオストルフの領主になった兄貴や、皇太子になるエドワードのように、それぞれの道に進む者もそこそこいる。


余談だが、リリーは魔法学院に、ルーカスとオリビアは騎士学院に推薦入学する予定だ。三人とも超成績優秀者だからな。


俺はどうするんだって?

これは以前にも説明したが、帝国を飛び出して世界中を冒険しつつ、定期的に転移で帰宅し、レイ(嫁)とイチャイチャする日々を送るつもりだ。

まぁその前にやらなければいけないことがたくさんあるんだけどな。例えば上位世界の件とか……。



数時間後、学園にて。

レイは友人のエア、ステラ、そしてオスロの三人と共に、訓練場に来ていた。

エアとステラは言わずもがな、リリーとルーカスの妹である。


「ねぇねぇ、レイちゃん。今日の合同実技演習にアルテ様はいらっしゃらないの?」

「う~ん、どうなんだろう。アル兄様はいつも忙しいからさ……」

「やっぱ、そうだよね……」

と、エアは残念そうに言った。


(相変わらずアル兄様は、女子生徒達からの人気がすごいなぁ。ちょっと嫉妬しちゃうかも)


時間が経つにつれ、保護者席が少しずつ埋まっていく。

貴族家の当主は普段自領にいるので、席を埋めているのは基本的に代理人やその他の親族だ。

いくら帝立学園と言えども、帝王祭のような大イベントなどと比べれば、授業参観はその程度の催しなのかもしれない。


「ルーカスお兄様!」

「あ、リリーお姉ちゃんだ!」

また、少し離れた場所では。

「オリビア姉様!!!」


アルテの友達三人衆が、両親の代理として偶然、ここに集結した。

この時期、推薦入学者は暇なのである。

「あれ、なんで皆ここにいるんだ?」

「それはこっちのセリフよ!ルーカスはまだしも、なんでオリビアまで!?」

「だって私の弟(フィル)は二年のSS-1クラスよ?」

「「あ、確かに」」


着々と集まっていく中、ひと際視線を集める御仁が、約一名。

「エ、エルモンド公爵様だ」

「噂は本当だったのね」

「たまたま帝都にいたんだろうけど、わざわざ息子のために学園まで足を運ぶなんて……」


ネロはニヤリと笑った。

(こういう時に一番、公爵家の力の大きさを実感する)


他にもチラホラと貴族家当主の姿が見えるが、やはりエルモンド公爵は別格のオーラを纏っている。アルテが以前冴えないおっさんと言っていたのは、普段彼以上の人物としか関わっていないからである。


講師等が到着し、もう始まると思われた、その時。入り口の方から黄色い声援が上がった。


「きゃー!!!アルテ様よ!!!」

「閃光様……素敵……」

「今日もお美しいわ」


それだけでは終わらない。

「あのお方は、まさか……“鬼神”様!?」

「俺昔からファンなんだよ!」

「隣の美女は誰?」

「公爵夫人のアリア様よ。魔法師団大尉まで史上最速で駆け上がった、魔法師界隈では知らぬ人無しの傑物よ」


エルモンド公爵の存在を塗り潰すかのように、アインズベルク公爵家のメンバーが登場した。


レイは可愛らしく、ポカーンと口を開けた。

(今朝アル兄様が言っていた助っ人って、お父さんとお母さんだったの!?)


レイの友人達もノリノリである。

「アインズベルクって規格外よね……いろいろと」

「アルテ様はやっぱカッコいいわね!」

「レイは愛されているんだねぇ」




てな感じで、親父と母ちゃんを連れてきた。

「懐かしいな、学園の訓練場は」

「ここでよく貴方と訓練していたのを思い出したわ。懐かしいわねぇ」

「魔法が苦手な俺を相手に、超級魔法をぶっ放して喜んでたよな」

「……何か言った?」

「いえ、何も」


ちなみに俺の影の仲にはセレナが潜んでいる。

徐に足元の影を一瞥すると、

『イェ~イ』

セレナが影の中から、こちらにピースをしていた。


よく見れば、ルーカスやリリー、オリビアもいるじゃないか。ルーカスとリリーはまだしも、なぜオリビアがいるんだ?


兄妹なんていたっけか?……ああ、フィル少年か。ということは、彼は二年のSS-1クラスってことだ。よく頑張っているじゃないか、シスコンのくせに。


「よっ、みんな。見た感じ、偶然集結したようだな」

「流れ的に、アルテは絶対来ると思ったわ」

「この変態シスコン!」

「リリー。アルテはレイちゃんとは血が繋がってないから、一応純愛なのよ。一応」


リリー達が親父と母ちゃんに挨拶をしに行ったので、訓練場を一通り見渡し、エルモンド公爵家の長男を発見。

(なんか元気になってないか、アイツ。もしかしたら『最高の土俵が出来上がった!』とか思っているのかもな。これだから馬鹿は……)


その頃、ネロは心の中で歓喜していた。

(最高の土俵が出来上がった!これはもう、神が俺に味方しているとしか思えない!)


すぐに講義が始まった。

模擬戦は最後に行われるので、今はリラックスして、レイの足の先から頭のてっぺんまで、じっくりとねっちょりと観察させてもらおう。


「カイン卿」

「おお、エルモンド公爵か。帝国会議ぶりだな」

「ええ。公爵夫人もお変わりのないようで」

とエルモンド公爵が言うと、母ちゃんは丁寧に頭を下げた。


「本日はどのような思惑で足を運ばれたのですかな?」

「思惑……?ただ愛する娘を見に来ただけだが」

もちろん両親には事の詳細を伝えてあるので、しらばっくれているだけである。


「そのために、わざわざ帝都へ?」

「いや、転移で来た」


「あ~。そういえば、アインズベルクとランパードは私用目的での利用が許可されているんでしたね。羨ましい限りです……」

「そりゃあ、今帝国が転移技術を扱えているのは、全てアルテの功績だからな」

「なんと!!!」

「胡散臭いセリフはやめろ。どうせ一から百まで全部知ってんだろうが。この狸親父め」

「はっはっは!これは手厳しい!」


貴族名物の汚い舌戦を繰り広げた後、なぜか少し離れた場所で参観していた俺の方へやってきた。

「閃光君。帝国会議ぶりですね」

「俺を“君”呼びするのは、血筋なのか?」

「……!」


その一言を聞いただけで、以前ネロが“学園内で”俺を君呼ばわりしたことに気が付き、即座に俺に謝罪してきた。


「いやはや、そんな事があったとは……申し訳ない。息子には後できつく言っておきますので」

「なんとなくそう思っただけで、そんな気にしていないから大丈夫だ」

やっぱ頭の回転の速さはピカイチだな、このおっさん。


「特に話すこともないから、最後にこれだけはいっておく」

「何でしょう?」


俺はエルモンド公爵の耳元で、ボソッと呟いた。

「長男を止めるのであれば、今のうちだぞ。何かがあってからでは遅い。これは当主であるお前が一番理解しているはず」


公爵はゴクリと唾を呑み、額に汗を滲ませた。

「い、一体何をおっしゃっているのか……さっぱりですなぁ」


その後、エルモンド公爵は自分の席に戻り、関係のある貴族家当主又は代理人と談笑をしながら、参観を続けた。


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