第11章【婚約編】
第154話:帝国四大公爵家
帝龍祭という帝国の……いや、世界のビッグイベントを済ませた後、SSランクダンジョン奈落も無事攻略し、元第一皇女を救うことができた。学園においても、帝王祭を終え、長期休暇後の秋学期が始まった。
レイの従魔である古代龍のシエルは、今もすくすくと順調に育っている。
上位世界とやらに関しては、まだ陛下や両親には話していない。彼等に話せば、すぐにとんでもない人数が動き出すことになるだろう。そこで上位世界の件がもし俺のとばっちりだったら、いろんな人に迷惑をかけることになってしまう。だからまだ伝えていない。
「いい天気だなぁ。雲が一つもない晴天なんて、マジで久しぶりだよな」
「野生の龍が一匹や二匹飛んでいれば、かなり絵になるんだけどな」
「それは嫌だ」
現在、俺はルーカスと教室の窓に肘を掛け、黄昏れている最中だ。
リリー、オリビア、エドワード、そして留学生のブリトラとヘルは先ほど、五人で選択授業を受けに行った。
「なぁ、アルテはいつ婚約するんだ?もうそろそろ動かないとやばいと思うぞ」
「それはわかっているんだが、なかなかタイミングが無くてな」
「まぁアルテは帝龍祭から、というか入学した時から、基本的にずっと忙しいもんな」
「ああ。最近やっと落ち着いてきたところだ」
このルーカスという男は、俺が帝都を空けている時に、ちゃっかり自分だけ婚約しやがったのである。ちなみに相手の名はジュリ・アルベルト。アルベルト男爵家の御令嬢である。この間、ルーカスが偉そうに紹介してきたのだが、紫髪で静かな雰囲気を纏った美しい女性だった。正直ルーカスにはもったいない。この筋肉ゴリラには。
「アルテも俺のように漢気をみせなきゃな!」
「やかましいわ、アホ」
この男はジュリに一目惚れするやいなや、その日のうちに告白したらしい。普段は全く女の匂いがしないくせに生意気である。
「そろそろ生徒会の仕事でもしに行くか!」
「そうか。頑張れよ」
「アルテも行くんだよ!お前も生徒会のメンバーだろうが!」
「そうだっけか」
窓を閉めようとした時、外通路から言い争いをしている声が聞こえた。
声質的に男子生徒同士が喧嘩しているのだろう。
「おい、そこの君!痛いじゃないか!」
「あ?お前が避けなかったのが悪いだろ」
「僕は両手に荷物を抱えているんだから、君が道を譲るべきだろう!」
「そんなの知るか」
ルーカスが溜息を吐いた。
「はぁ……くだらないことで喧嘩しやがって」
「しょうがない。俺が生徒会の一員として、一喝してやろう。俺は栄えある生徒会のメンバーだからな」
「なぜ二回言った」
俺が口を開こうとした、その時。
「こらー!!!」
水のように透き通った美声が響き渡った。
この声は、まさか……。
「「レ、レイ様!?」」」
「もう~、一体何があったの?」
「こいつが、俺が故意にぶつかってきたとか、いちゃもんをつけてきたんです」
「道を譲るべきだと言ったんだ!話を湾曲させないでくれるかな!?」
「つまり、そういうことだろうが!」
「はいはい。いったん落ち着いて~」
「「あっ、はい」」
「う~ん。話を聞いた感じ、両方悪い部分があると思うから、互いに謝って!」
「「うっ……」」
そして。
「すみませんでした」
「ごめんなさい」
「もう喧嘩はダメだよ~?めっ!なんだからね!」
「「は~い」」
男子生徒達はそれぞれ別の方向に去っていった。
「さすがレイちゃんだな!」
「ああ、うちの天使だからな。ぜひ俺も『めっ』ってしてもらいたいものだ」
「それは普通にキモいわ」
レイは友人達と共に移動している最中だったので、特に声はかけずに、再び窓を閉めようとしたのだが……。
「おやおやおや。美しい声に吸い寄せられ、来てみれば……レイ君じゃないか」
「げっ、ネロさん……」
「ふふふ。これは運命ってやつかな?」
ルーカスに問う。
「一体誰だ?あの気持ち悪いウジ虫は」
「二年のネロ・エルモンドだ。エルモンド公爵家の次期当主で、筆記も実技も好成績を収めてる、いわば二年生代表みたいなもんだな」
「へぇ~。さすがは生徒会だ。よく知っているな」
「本来はお前も知ってなきゃダメなんだぞ」
あれはエルモンド公爵家の長男だったのか。親は何度か帝国会議で見かけたことはあるが、冴えないおっさんって感じだった。もちろん政治的手腕はズバ抜けているだろうがな。
息子であるネロもしっかりとその血を引いており、身長も顔も普通の、いわゆるモブ顔だ。成績は良いらしいが、どうせ親の英才教育の賜物だろう。帝王祭にも顔を出していなかったしな。
「今日も君の女神のような御尊顔が見れて、とても光栄だよ」
「そ、そうですか」
「このあとお茶でもどうかな?特別に我が家へ招待させてもらうよ?」
「いえ、友人達と用事があるので、遠慮させてもらいます」
「ふ~ん」
と言いながら、エルモンドはレイの友人達を睨んだ。
ちなみにルーカスの妹ステラとリリーの妹エア、そして生意気坊主のオスロ君ではない。おそらく同じクラスの友人だろう。
「「「ひっ……」」」
「あ~あ、かわいそうに。俺が怒鳴ってもいいんだが、どうする?」
とルーカスが横目で見てきた。
「いや、ちょっくら俺がシバいてくる」
「了解」
俺は三年生棟の三階から飛び降り、着地した。
「「「「!?!?!?」」」」
驚かしてすまん。レイとその愉快な仲間たちよ。
「アル兄様!!!」
「レイ。さっき喧嘩を止めたのを上から見てたぞ。よくやったな」
「えへへ~、褒められちゃった!」
「これはこれは、アルテさm……君じゃないか。ごきげんよう」
「ん?アルテ
というか今普通に言い直したよな、こいつ。なんかプライド高くて面倒臭そうだな。
「ぼ、僕は公爵家の長男であり、また次期当主でもあるけど、君はただの公爵家次男だからね!いくら君がSSランク冒険者として名を馳せていようとも、僕はこれだけは譲れないかな!」
「そもそも学園は経験・実力至上主義だから、上級生には敬語だぞ。まぁ社交界の時なんかは別だがな」
「そういう君だって、生徒はおろか、教師にだって敬語を使わないじゃないか!」
「いや、俺は普通にコレ持ってるし」
俺は徐にマジックバッグから龍紋を取り出し、見せた。
「りゅ、龍紋!?」
「逆に知らなかったことに驚きなのだが」
「失礼しました……アルテ様」
俺としてはめちゃくちゃ痛い所を突かれたが、強引に突破させてもらった。
正直権力を振りかざすのは嫌いなのだが、こいつにはいいだろう。
あと普段親の英才教育を受けているわりに、これは知らないんだな。たまには世事にも興味を持った方がいいだろうに。
「おう。じゃあもう行っていいぞ、ウジ虫君」
「ウ、ウジ……虫……?」
「いや、プルプル震えてないで、さっさと行け。俺もレイ達も忙しいんだ」
「それはエルモンド公爵家を敵に回す発言ですよ?」
「すぐに家名を出すとダサいぞ。逆に言えば、それ以外取り柄が無いって言ってるようなもんだからな」
「くっ……!失礼します!」
今のひと言がかなり効いてしまったようで、ウジ虫君は足早に去って行った。
「なんかありがとね、アル兄様」
「「「ありがとうございました」」」
「気にするな。また何かあったら呼んでくれ。すぐに飛んで行く」
その後、ジャンプして三階の教室に戻り、
「お疲れ、アルテ」
「おう」
二人で生徒会室へと向かった。
このカナン大帝国には、公爵家は四つまでしか存在してはならない、という決まりがある。アインズベルクが帝国のビッグツーと呼ばれている割に、ずっと侯爵止まりだったのは、それが主な理由だな。まぁ結局ゲルガー公爵家が謀反を起こしたため、自動的に公爵に昇格したわけだが。
ちなみに現公爵位は、我がアインズベルク公爵家、ランパード公爵家、ブルズ公爵家、エルモンド公爵家の四家だ。
まずランパード公爵家はフレイヤさん(キングコング)や兄貴の婚約者であるソフィアがおり、世界最強の海軍を擁している、昔からうちとズブズブの大貴族だ。あとあそこは俺と同じSSランク冒険者の氷華のエリザとも仲が良い。
次のブルズ公爵家は帝国の鉱山資源を取り仕切っている。
そして問題のエルモンド公爵家に関しては、特にこれといった強みはない。そりゃ腐っても公爵なので、領地はもちろん、何をするにもその規模だけはデカいのだが、生憎他に引けを取らない特別な何かを持ち合わせているわけではない。良い意味で言えば安定しており、悪い意味で言えば平凡。めっちゃ平凡。
そんな平凡極まるエルモンドの次期当主が、俺の愛する妹(婚約予定)をつけ狙っているわけだ。俺が実はハーフエルフであり、アインズベルクの血を引いていないという事実は、魔王の野郎が全世界に発信しやがったので、さすがのウジ虫君も知っているはず。なのにもかかわらず、未だに狙っているということは、まぁそういうことなんだろうな。
「間違っても殺しちゃダメだぞ?」
「俺を一体何だと思ってるんだ」
「この世界を破壊できる、唯一の生物」
「なんだそりゃ」
そろそろ俺も婚約に向けて動かなければな。
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