【閑話】

第152話:下位世界と上位世界

奈落のダンジョン内にて。

「じゃあ、これはどうかな?」


レイは世界樹の杖を翳し、火・土・風魔法を同時発動した。すると、奈落も《模倣》を発動し、同じ魔法を放った。


「すごいね!!!さすが奈落君!!!」

「ギャオ!」

「エヘヘヘヘ」


キャッキャッと遊ぶ三人を眺めながら、俺は上位世界とやらについて考える。

「……」


昨日この場で、あちら側の世界と繋がった際、様子のおかしな悪魔をぶん殴った。あいつはあの時、『私の悲願である、下位世界へ!!!』とか意気揚々に叫んでいた。


その件について、自分なりに考えてみる。

まず古代人がブイブイ言わせていた時代には、少しは天使や悪魔がこちらの世界にやってきていたと思われる。主に好奇心旺盛な覚醒者が原因で。


ここからが問題だ。

その割にはこっちの世界に、上位世界についての情報が少なすぎるとは思わないか?知っている人はほとんど存在しないと言えよう。また古代人についても同様だ。


現在の文明レベルを考慮すると、古代文明は一度綺麗さっぱり消滅し、再び一から始まった可能性が非常に高い。これに関しては、同じ意見を持つ研究者は多いだろう。


ではなぜ滅んだのか。

普通に考えれば、古代の国同士がデカい戦争を起こし、どんぱち殺り合ったからだろう、という答えに行きつく。


だが俺の考えは違う。

「下位世界vs上位世界という大戦争が巻き起こった」


その結果、こちら側の世界が敗北し、“下位世界”、“上位世界”と明確に格付けされたのだと思う。しかし我らが古代人達がタダで済ます筈もない。おそらく天使や悪魔等も多大なるダメージを負い、一度上位世界に引き上げたのだろう。


昨日殴った悪魔は“そういう目”をしていた。

単なる旅行や興味本位で下位世界に行きたいのではなく、侵略的目的で行きたい、という感情が垣間見えた。


説明が下手ですまん。

ひと言でまとめると、またいつかこの世界に奴等が侵攻してくるかもしれない、ってことだ。


「まぁ聞いてみるか……奈落君に」

といい、俺はレイ達と遊ぶ奈落へ視線を移した。



「アル兄様は帰らないの?」

「ああ。このおチビと少し話があってな。それが終わればすぐに帰るさ」

「わかった!」

レイとシエルを先に帰らせた。


「ハナシ?」

「おう。ちょっと物騒な話になる」

てなわけで、その件について聞いてみた。


「ア~。ソトデ、オオキナセンソウ、ヤッテタカモ」

「ちなみに、なんで上位世界と下位世界を繋ぐ“きっかけ”の事を知っていたんだ?」

「ウマレタトキカラ、シッテタ」

「まぁ、そりゃそうか」

「ウン」


ダンジョンマスターが、クリア報酬について何も知らなかったら、それはそれで問題だからな。


「アッ」

「ん?どうしたんだ?」

「センソウノアトモ、タマニ、テンシトアクマ、キテタ」

「このダンジョンに、か?」

「ウン」


「ニンゲンモ、イタ」

「……それは天使族と魔人族の先祖かもな」

「ヘェ~」


奴等がどんな目的で交配したのかは知らんが、未来の戦争を見越して、予めこちら側の世界に仲間を作るためだとしたら……。


「戦争が起こったら、あの二種族は敵に回る可能性が高いな」

「ソウナノ?」

「ああ。奴等の血が流れているから、命令されたら抗えない、的な感じで」

「ヨクワカンナイ」

「だよな、難しい話をしてすまん」

「イイヨ」


「また今度、あの悪魔を拉致して吐かせるか」

「タノシソウ!」

「その時はここを借りていいか?」

「イイヨ~」


一度、天才的な頭脳を持つ兄貴に相談するのが一番だという結論に至り、結局、今後しばらくは学園生活を楽しむことにした。


余談だが、なぜか奈落君は転移で自由に移動ができるらしく、これからは好きな時に実家に遊びに来ることとなった。



「そろそろ婚約の話も進めなければ。な、エクス」

「ブルルル」

「アルテ様もそろそろ卒業ですからねぇ〜」

「チュッ」




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