第151話:制覇

天叢雲剣アマノムラクモノツルギ


ダンジョンの中なので、やや威力を抑えつつ放つ。天叢雲剣は本来終焉級に分類される魔法のため、規模としては一つ下の禁忌級ほどであろう。


すると、かなりラグが発生したものの、奈落も同じ魔法をコピーし相殺してきた。


「じゃあ五重展開はどうだ?」

「!?」

今度は五本同時に撃つ。


奈落はギリギリ相殺した。

このレベルの魔法を創造する際、脳や神経にとてつもない負担がかかる。俺の場合、光速思考を用いて、その負担を極端に軽減させているため、このような無理な戦いでも難なくこなすことが可能だ。


海龍や地龍のような馬鹿デカい脳みそを持っていない限り、脳内に流れ込んでくる膨大な量の情報を捌き切ることなど到底できないだろう。


要するに。


「ゼェゼェ……ハァハァ……」


目の前でへこたれている奈落君には、少々厳しかったようだ。コイツの本体はダンジョンコアと呼ばれる、サッカーボールほどの大きさをした水晶だからな。また光速思考をコピーできたところで、魔力集合体にそれを扱う脳や神経があるわけもなく。


「まぁ、《光》魔法と《雷》魔法を同時に模倣し、尚且つ禁忌級を五重展開できただけでも十分か」

「ブルルル」


戦う前は『今の自分たちを超えるだけ』とか勝手に盛り上がっていたが、今思えば、普段龍やSSランク冒険者と殴り合いをしている俺達に、数千年間ダンジョンに引き籠っていたボス如きが敵う筈もない。


「で、どうする?」

「モウ、アキラメル」

と負けを認め、奈落は一メートルくらいに縮んだ。これが本当の姿のようだ。


「そうか。今回の目的は別にダンジョンを乗っ取ることじゃないから、安心しろ」

「……ホント?」

「本当だ。な、エクス」

「ブルルル」


「ちなみにダンジョン制覇の報酬とかってあるのか?」

「アルヨ」

「おぉ。ではとりあえず見せてくれ」

「コッチ」


俺たちは奈落の後を追った。


チビ奈落はトボトボ歩いており、見るからに落ち込んでいる。

「元気出せ。こう見えて俺はSSランク冒険者だし、エクスはSSランク魔物なんだ。一人で二人を相手に戦えていただけでも、十分誇っていいと思うぞ。な、エクス」

「ブルルル」


「……!」

それを聞いた奈落は少し調子を取り戻した。

なんて単純で扱いやすいのだろうか。可愛く思えてきたぞ。


「そういえばダンジョン制覇はいつぶりなんだ?」

「フタリガ、ハジメテダヨ」

「マジか」

てっきり、すでに古代人がクリアしているのかと思った。


「ずっと昔、変な人間たちが攻めてこなかったか?」

「キタヨ。デモ……」


奈落曰く、古代人達はダメダメな奈落君を見て、『可愛い』だの『尊い』だの言いながら引き返していったらしい。


「なんかごめんな。怖かっただろ?」

「ダイジョウブ」


フロアの端まで行くと、ただの壁だった場所が扉に変形し、パカっと開いた。

するとそこには、コアが祀られている祭壇と、小さな黒い鍵が。

「……鍵?」


「あの水晶はお前の本体だとして、この鍵は一体何なんだ?」

このダンジョンのクリア報酬なんだから、絶対に普通の代物ではないだろう。だが一切想像が付かん。マジでなんなんだ、これ。


「ソレハ、アチラノセカイヘ、イクタメノ、カギ」

「あちらの世界へ行くための鍵?」

「ウン」


「どんな世界なんだ?」

「テンシト、アクマガスマウ、ジョウイセカイ」

天使と悪魔が住まう上位世界ねぇ。


「どうやって使うんだ?」

「“キッカケ”ガ、アルバショニ、サス。タトエバ……アノホン」

「ここへ来る途中、魔宝箱から出てきた古本か」

「ソウ」

その後、奈落やエクスと相談した結果、さっきのフロアで試してみることに。


俺はマジックバッグから件の本を取り出した。相変わらず、呪文のようにルーン文字が羅列しており、気持ちが悪い。


「じゃあ試すぞ」

「ウン」

「ブルルル」


真ん中のページを開き、鍵をゆっくり近づけると、先端がスッと紙の表面に刺さった。そのまま九十度回すと……。


次元に穴が開き、向こうの世界と繋がった。

「おぉ~」

「オォ~」


穴に顔を突っ込み、中の様子を伺う。

「……玉座がある。ってことは、ここは城の内部のようだな」


俺の声を聞きつけ、どこからともなく一人の悪魔が登場した。

「貴様はまさか……!」

「誰だ、お前」

「この私を召喚したのにもかかわらず、あろうことか手で頭を押さえつけ、強引にこちらの世界に戻した男!」

「ああ。あの時の」


思い出したぞ。

『ふっふっふ……ついにこの私を召喚せし者が……』

とか偉そうなことを言っていたから、頭を押さえて、本の中に沈めた奴か。


「今度こそ私の悲願である、下位世界へ!!!」

「キモいから近寄るな」

「ぐへぁッ!」

すごい形相で走ってきたので、つい反射で殴ってしまった。


「まぁいいか。帰ろ」

俺は頭と腕を元の世界に戻し、本から鍵を引き抜いた。


「ドウダッタ?」

「あっちの城の中に繋がっていた」

「ヘェ~」


「ブルルル」

「あ、そうだったな」

早く帰って、エドワードに龍薬の素材を渡さなければ。


というわけで。

「俺たちはそろそろ帰らせてもらう」

「モウ、イッチャウノ?」

「おう」

「……」


コイツは数千年間独りぼっちったから、また一人になりたくないのかもしれないな。


「たまに遊びに来るから、そんなに落ち込むなよ」

「!!!」

目や口などのパーツは無いが、明らかに喜んでくれていることがわかる。


「ほら。その証拠に、祭壇の隣にコレを置いといてくれ」

「コレハ?」

「転移のアクセサリーだ。これがあれば、いつでもここに来れる」

「ホント?」

「本当だ。もう俺たちは友達みたいなもんだろ」

「トモダチ……エヘヘヘ」


ここを隠れ家にすれば、定期的にSランク魔物を狩り、龍薬の素材を確保することができるし、奈落も寂しい思いをせずに済む。《模倣》魔法もめっちゃ便利な魔法だから、いざというときは頼らせてもらおう。


お互いにWINWINってわけだ。


「対のアクセサリーはうちの実家に置いておくから、お前も好きな時に遊びに来ていいぞ」

「!?」


奈落君はダンジョンの意思が魔力集合体として具現化したものなので、ここから動けるのかは謎だが、今はここで静養するだろうから、それに関しては今度またここへ来た時にじっくりと考えることにしよう。


「じゃあな、奈落。また来る」

「ブルルル」

「バイバ~イ」


デフォルトの転移魔法陣に乗り、奈落ダンジョンの入り口まで帰ってきた。


「SSランクダンジョン制覇だな」

「ブルル」


俺たちは最寄りの冒険者ギルドにパパっと報告を済ませた後、帝都の別邸に転移し、その日のうちに帝城まで素材を届けた。


そして後日エドワードから、無事龍薬が完成し、元第一皇女スカーレットの容態が完全回復したとの朗報が届いた。


「で、元第一皇女が俺に礼をするため、直接会いたいと」

「ふ~ん。スカーレット様は絶世の美女だって有名だけど……アル兄様行くの?」

「行かないから安心してくれ」

「ふ~ん。本当?」

「本当だ」


「そ、それよりもだな。最近新しい友人ができたんだ。レイも一緒に会いに行くか?」

「行く!!!」

「もちろんシエルも付いてきていいからな」

「ギャオ!!!」


一件落着である。



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