第150話:駿王の最大火力

霹靂建御雷神ハタタノタケミカヅチ


燦然たる雷閃が、瞬く間に俺達の全身を覆った。霹靂建御雷神は、見た目自体は派手だが、実はかなりコスパの良い魔法だったりする。試しに俺が扱える強化系魔法をレベル分けしてみると、


身体強化<光鎧<閃光鎧<霹靂建御雷神<天鎧


大体こんな感じになる。

今纏っている雷閃鎧の性能は上から二番目。しかし魔力の消費量は閃光鎧よりも少ない。もちろんエクスから拝借した魔力も含めての話だからな。ちなみに建御雷神の欠点は、エクスがいないとできない、ということくらい。


現在の最高到達点である天鎧は、己の圧倒的な魔力を以て、ガンマ線を無理やり強化魔法に昇華させたものなので、燃費がすこぶる悪い。そのため、これはあまり使いたくない。ダンジョンごと壊してしまったら最悪だしな。最下層で魔力切れ状態に陥り、エクスと二人で生き埋めとか笑えん。


要するに、今はこれが最適解なのである。


「まぁ、もちろんこれもコピーしてくるよな」

「……」

奈落も全身に建御雷神を纏った。


再び接近戦でも仕掛けてみるかと考えた、その時。

「!?」


地面が隆起し一本の剣となり、エクスに襲い掛かった。しかし冷静に回避した。さすが相棒だ。だが回避した俺達を追うように、次々と地面から剣が生えてきた。壁や天井からも、岩の剣が雨のように襲い掛かってくる。


声を出す暇すら無いので、従魔魔法の念話で息を合わせる。

(上と横は俺がどうにかするから、下は頼んだ)

(ブルルル)


光速思考と光探知を同時起動し、奈落の位置を随時確認しながら、斬撃を飛ばして岩の剣を破壊していく。四面楚歌どころの話じゃない。上にも下にも逃げ場がないので、実質六面楚歌である。


壊しても壊しても、避けても避けてもキリがない。

「チッ。面倒だな」

「ブルル」


特に進展のない状況に、エクスも気が滅入ってきたようだ。

だが奈落からすれば、俺たちの気が緩んできた今が一番……。


「狙い時だよな」

「シネ」

奈落が倶利伽羅龍王クリカラリュウオウの上に乗り、正面から接近してきた。

あの龍ッコロ、俺が生み出した魔法のくせに生意気だな。


「そもそも簡単にコピーされてんじゃねえ、アホ龍が」


(エクス。アイツ等と接触する直前に屈んでくれ)

(ブルル)


奈落は俺が星斬りを構えていないことに気が付き、ニヤリと笑った。どうせ俺とエクスが無策のまま突っ込むと思っているのだろう。


俺は右手に魔力を込め、

星芒拳グリッターインパクト

龍の顔面に拳を叩き込んだ。


「残念だったな。俺はステゴロもイケるんだよ」

ただの魔法剣士では、到底SSランク冒険者は名乗れんのだ。


そして龍が消滅すれば、その上に悠々と乗っていた奈落が落下してくるわけで。

「エクス、頼んだ」

「ブルル」


エクスは落ちてきた標的に、強靭な角を突き刺し、

「最大出力だ」

全力で雷を流した。


バリバリバリィィィィィ!!!


SSランク魔物、駿王グルファクシの最大火力。

空間が歪むほどの膨大なエネルギーの放出。

もろで食らえばこの俺でさえタダでは済まない。

また、まがい物ごときがオリジナルである駿王のスピードに付いてこれるわけもない。


エクスは頭を振り、角に刺さっている焦げた物体を放り投げた。

奈落はドサッと地面に倒れた。全身から煙が上がっている。


「霹靂建御雷神でエクスの角を防げるわけないだろうに」

「ブルル」


ここでわかったことが一つ。

たぶんアイツの《模倣》は、魔法と姿はコピーできるものの、剣術や格闘術まではコピーできない。ダンジョンを操作して岩の剣を降り注いだり、せっかくのチャンスなのに雷光龍をけしかけたりして、露骨に近接戦を避けているのが、その証拠。

たぶん最初、互いに薙刀を合わせた時に、俺には敵わないと思ったのだろう。


……なんというか、つまらん。


今まで俺は様々な強敵と戦い、時には葬ってきた。それは剣仙ローガンから始まり、《重力》や《音》の覚醒者、SSランクの地龍に海龍。最近で言えば黒龍のヴァレンティアや、今は味方のセレナもそうだ。今ここに挙げた全員が、俺の脳裏に濃く焼き付くほどの戦いを魅せてくれた。だがコイツはなんだ?


魔力量にものを言わせ、俺達を《模倣》し、遠距離からチクチクと。挙句の果てにはダンジョン操作とかいう、デフォルトのチート能力まで使って尚、この有様。


こんな戦いとも言えない勝負、明日には俺もエクスも忘れてしまうぞ。

ほら、ついにエクスがあくびをかいてしまった。


「さっさと立て。まだやれるだろ?」

「……」

奈落は立ち上がった。


「なぁ、お前はこんなもんなのか?」

「……ダマレ」

「今まで数百年間……いや、数千年間このダンジョンを守護してきたんだろ?」

「……ウルサイ」

「これじゃ俺達が弱い者イジメをしているみたいじゃないか。なぁ、エクス」

「……ワタシハ、ヨワクナイ」


「今頑張らないと、俺達がすぐにダンジョンを制覇して、乗っ取ってしまうぞ?」

「……ソレハ、ダメ」

「馬ばっかりのダンジョンにしてもいいのか?ほら、言ってみろ」

「……ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ!!!」


なんだ、ちゃんとした感情を持っているじゃないか。


「じゃあ今ここで、“お前が”限界を超えてみろ」


天叢雲剣アマノムラクモノツルギ


なぜか挑む側から挑まれる側に代わり、ダメダメな奈落君とのお説教バトルが始まった。なんかよくわからんが、最初よりはやる気が出てきたので、ここまできたら面倒臭がらずに、エクスと共に完走しきろうと思う。


もし俺達が勝利したら、ここに転移魔法陣を設置して、アインズベルクの別荘にしてやるからな。


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