第149話:奈落
というわけで、やってきました九十階層。
九十階層は直径一キロメートル程のドーム状になっており、植物や岩などの障害物は一切見当たらない。まさに戦いのためだけに設計されたかのような構造である。いや、ダンジョンへの侵入者を迎え撃つため、と言った方が正しいか。
「まぁたぶんここが最下層だろうな」
「ブルルル」
「雰囲気も魔力の質も、今までとは違う」
もちろん悪い意味で、だ。
なんというか、こう……肌寒いというか、肌がピリピリするというか。
まぁ別に、それについては全然構わないのだが……。
「ずっと誰かに見られているような感覚だ」
「ブルルル」
ちなみにこのフロアには、現在俺とエクス以外の生命反応は無い。光探知を起動しても、結果は特に変わらない。先人達が残した情報によれば、SSランクの“奈落”と呼ばれる魔物が、この階層を守護しているはず。
「まさか、数百年の間に滅びたわけじゃないよな?」
という冗談はさておき、とりあえず中心部分まで歩みを進める。
すると。
「ん?」
この空間全体に漂っていた濃い魔力が、少しずつ中心に集まっていき、一つの塊を形成した。それはまるで……。
「俺と……エクス?」
俺たちの目の前に、俺たちと瓜二つの黒い魔力集合体が佇んでおり、敵意丸出してこちらを睨んでいる。何も知らない奴が見たら、暗黒騎兵とでも名付けるだろうな。
なるほど。奈落とは一体の魔物というよりも、“ダンジョンの意思そのものが魔力集合体として、形を成したもの”と言った方が、わかりやすいかもしれない。
「エクス。久しぶりのガチ共闘だ、頼んだぞ」
「ブルルル」
「……デテイケ」
「おお、しゃべるのか。魔物のまがい物にしては、やるじゃないか」
「……コロス」
「ではそろそろ始よう」
俺は片手を奈落へ向け、開幕早々。
【
巨大な雷光龍を放った。
が、しかし。
「……は?」
奈落もほぼ同じ魔法を放ち、相殺された。
今のやり取りで分かった事を説明しよう。
奴が要する魔法の名は《模倣》。
しかも《光》と《雷》を両方同時に模倣された。
これが、アイツがSSランクたる所以か。
騎乗したまま近距離戦闘を行うため、光と雷の魔力で薙刀を創る。
「……」
やはり奴も同じ得物を創り出した。
「エクス」
「ブルルル」
俺とエクスが距離を詰めると、奈落も同様に接近してきたので、フロアの中心部分で刃を合わせる。
ガキンッッッッ!!!
「「……」」
空間が悲鳴を上げるほどの音が轟き、雷まで周囲に飛び散っているものの、地面や壁はビクリともしない。
鍔迫り合いのまま、光鎧を起動し、薙刀から片手を離す。
そして星斬りを抜刀し、光の斬撃を飛ばすが、これも先ほどと同様、相殺されてしまった。
しかし、わかったことが一つ。
雷光龍を放った際は、ラグ無しで、ほぼ同時に相殺された。なのにもかかわらず、今斬撃を飛ばした時は結構なラグが発生していた。普通逆じゃないか?
なぜ難しい魔法よりも、簡単な魔法のコピーの方が、時間が掛かっているのか。
要するに、何が言いたいのかと言うと……。
「お前、俺たちを観察してたんだろ?ダンジョンに入った時から、ここへ来るまでの間、ずっと」
「……」
予想的中ってところか。
こいつは俺たちを見て学び、その上で《模倣》している。だから雷光龍のような、複雑な魔法は一瞬でコピーできたものの、光の斬撃を再現することには時間が掛かったのだ。
なぜなら、前者はダンジョン内で使用したが、後者は今が初披露だったから。
この世界に完璧な魔法など存在しない。
《模倣》の場合、相手の魔法を分析し、発動するまでにラグが発生する。先ほどの光の斬撃のように。だが目の前のアイツは、一階層~九十階層まで相手の戦闘を観察し学んだ上で模倣するため、ラグがほとんど発生しない。だから、もし魔法で攻撃を与えたいのであれば、ダンジョン内で使っていないものを使用しなければならない。ダンジョン内に入った時から戦いは始まっていたのだ。
もちろん、一度使えば完璧に模倣され、敵の攻撃レパートリーが増えてしまう。
そして今回、七十階層あたりから、ダンジョン内の環境が激変していた。事前情報が全く役に立たないほどに。ということは、だ。
一度距離を取り、
「攻略途中、ダンジョン内をいじったのはお前だな?」
と問うと、奈落はニマァと気色の悪い笑みを浮かべた。
最初に“ダンジョンの意思そのもの”という言葉を使ったが、これはかなり言い得て妙だな。なんかさっき『……デテイケ』とか言ってたし。
魔法のみをコピーしてくるのか、それとも俺とエクスの能力全てをコピーしてくるのか。もし後者だったら、結構厄介だな。
またダンジョン内をいじれるってことは、戦いの最中、急に地面が隆起したり、天井から岩が降ってくる可能性もあるってことだ。注意しよう。
「俺たち以外の全てが敵。そういう事だろ?性悪ダンジョン君」
「……」
自分(模倣)との闘いを制しつつ、環境すべてにも向き合わなければならない。
「まぁ戦闘中に、己の限界を突破すればいいだけだ。な、エクス」
「ブルル」
そのくらい、今まで何度も経験してきた。
奈落は『してやったり』と思っているだろうが、俺とエクスにとっては日常茶飯事。
【
俺とエクスは眩い雷閃を纏った。
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