第148話:前人未到

 俺とエクスは六年ぶりにヴァンパイアベアを討伐し、暫く戦闘の余韻に浸った。

嬉しいといえば嬉しいのだが、一つの物語が終幕を迎えたような、何とも言えない複雑な気持ちである。まだ帝立魔法騎士学園すら卒業していないのに。


「他の魔物が血の匂いに誘われ寄ってくる前に、解体だけ済ませるか」

「ブルルル」


今まで説明を省いてきたが、マジックバッグの口は無限に広がるわけでは無い。

Cランクのクレイジーバッファローくらいであれば普通に入るのだが、ヴァンパイアベアのようにSランクの中でも比較的大きな部類に入る魔物は解体しなければ入らない。


まずは龍薬の必要素材である心臓を剥ぎ取る。

星斬りを用いればSランクの毛皮ですら紙のように切れる。というより他の刃物を使わせてくれない。このヤンデレソードめ。

Sランクともなれば血も貴重になるので、樽に入れる。

肉と内臓は、それ専用の保存袋に入れ、毛皮や骨などはそのままマジックバッグにぶち込む。


「エクス。手を洗いたいから水を出してくれ」

「ブルルル」


エクスの属性は《雷》と〈水〉なので、ダンジョンに潜る時は後者の方にも結構頼らせて貰っている。〈水〉魔法は出番が無さすぎて久々に説明した気がする。


「じゃあそろそろ穴に飛び込むか」

「ブルル」


フィールド型の森系ダンジョン制覇である。

と言っても、なぜか階層型に突如出現したモノなのだが。

まぁ、SSランクダンジョンに常識は通用しないって訳だ。


ちなみに俺の考えでは、七十一階層~八十階層がまるごとフィールド型に変化した。なぜならボスがSランクだったからだ。

少し振り返ると四十階層がBランク、五十階層がBランクの群れ、六十階層がAランク、七十階層がAランクの群れだった。

この理論で行くと、八十階層のボスはSランクだろう?

説明が分かりにくくてすまん。

雑に聞き流して貰えると助かる。


要するに次は八十一階層だと予想している。

もし七十二階層であれば、地面が沼地化しているはず(※ギルド情報参照)。


そして次の階層は……。

「やはり八十一階層だったか」

「ブルル」


予想が的中した。

目の前には一匹の竜が佇んでおり、こちらを睨んでいる。

沼地ではないので、ここからは前人未到である。


「ふむ。もしかしたら奈落までボス階層が続くのかもな」

「グルルル……」


この竜の名はクリスタル・イーター。

こいつは地竜の一種で、普段は地中に潜っており、クリスタルを中心とした鉱石を主食として生活している。また性格は比較的温厚で地上には滅多に出てこないので、レア度はSSランク級だと言われている。

体表は堅い鱗と鉱石に覆われており、凄まじい防御力を誇る。

Sランクの名に恥じないドラゴンである。


俺は奴の背中でキランと光る、とある鉱石を見逃さなかった。

「ほほう。ミスリルを貯えているとは」

「グルル……」

「まさか討伐して欲しいのか?ドMなのは兄貴だけにしてくれよ」

「グル……」

「お前を丸ごと持って帰れば、皆さそ喜ぶだろうなぁ」

「グ……」


「なぁ、エクス」

「ブルルル」

「……」


有り余る闘気を解放しながらチクチクと言葉攻めをしただけで、クリスタル・イーターは完全に戦意喪失してしまった。

身体は鉄壁だが、心はガラスのように脆いのかも知れない。

こちらにお尻を向けて落ち込んでいる。


「……」

「特別にそのミスリルを採取させてくれれば、見逃してやってもいいぞ」

「!?」


実はコイツは肉が美味しくないことで有名だし、防御力だけは本物なので、正直上手く心臓を剥ぎ取れる自信がないのだ。俺はプロの解体屋では無いのでな。

下層にはSランク魔物がわんさかいると思うので、特別に見逃してやらなくもない。

まぁ下に心臓が剥ぎ取れるSランク魔物がいなければ、もう一度ここに戻ってくるけども。


普段、生きているSランク魔物を触れる機会など中々無い。

「おお、想像以上に堅いな。鱗もツルツルだ」

「グルル」

「ちょっと痛いかも知れんが、頑張って耐えてくれ」


といい、強引にミスリルをもぎ取った。

「ギャア!!!」

「泣くな。腐っても竜だろう、お前」

「ギャァァァ……」


泣きべそを掻いているクリスタルイーターをよそに、ミスリルを眺める。

「鉱石には詳しくないが、中々上物じゃないか?」

「ブルルル」


すぐにマジックバッグに放り込み、再びエクスに跨った。

「じゃあな。クリスタル・イーター。元気に暮らせよ」

「ブルルル」

「グルル」


Sランク地竜は重い尻尾を横に振った。

どこぞの天然水みたいな名前をしやがって。

と心の中で悪態を付きつつ、俺とエクスは次の穴に飛び込んだ。



予想通り、次もボス階層だった。

階の中央には巨木が生えており、一頭のゴリラが枝に掴まっている。


「アイツはまさか……」

「ウホ?」


帝王猩々……だと?

夜のポーション作りのため、俺が先ほどフィールド型で乱獲した王猩々を皆は覚えているだろうか。

奴はAランク王猩々の完全上位互換にあたるSランクゴリラなのだ。


「いくぞ、エクス。手加減はしない」

「ブルル……」


スーパー金玉ゴリラを討伐すべく、俺は星斬りを振るった。




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