第147話:六年ぶり

 俺とエクスはダンジョン内を爆速で駆け抜けた。

三十階層のボスはCランクのリビングアーマーの軍勢で、四十階層のボスはBランクのマグマトカゲだった。

次に五十階層のボスはBランクのミノタウロスの群れで、六十階層はAランクのマンティコアだった。

そして今七十階層でAランクのキングセンチピードの群れを討伐したところだ。


俺とエクスの周囲には巨大ムカデの死体が沢山転がっている。

俺達は六十九階層で長時間休憩を取ったので、元気いっぱいなのだ。

「牙と爪。あと毒腺だけ剥ぎ取って次へ進もう」

「ブルルル」


星斬りに付着した紫色の血を拭き、鞘にしまう。

すぐに移動を再開。


七十一階層へ飛び込むと、そこには森が広がっていた。

以前説明したが、ダンジョンというのは洞窟型とフィールド型に別れている。

ここまでは洞窟型だったし、ギルドの情報によれば八十階層までそれが続くはず。

しかし七十一階層には大きな森が広がっており、天には太陽も昇っている。


試しに光探知を起動してみると、森は数キロ先まで続いていた。

「ふむ……完全にフィールド型だな」

「ブルルル」

「とりあえずゆっくり進んでみよう」


木漏れ日に照らされながら、涼しい森の中へ足を踏み入れた。


森の中には様々な生物が生息しており、川も流れている。

歩いていて非常に心地が良い。

環境は外の森とほとんど一緒だ。

だが違う点が一つ。


「三日月」


星斬りを一閃し斬撃を飛ばす。

その斬撃はAランクの王猩々を真っ二つに斬り裂いた。

「ウホ……?」

バタリ。


それは普通に高ランク魔物が出現する点だ。

「あの巨大ウホウホゴリラ、今俺達に糞を投げようとしてたよな?」

「ブルル」


「ゴリラの死体に近付いてくれるか?少し用がある」


このゴリラは、とある高級素材を剥ぎ取れることで有名だ。

その素材は……睾丸である。

コイツの金玉は“夜のポーション”の素材として非常に優秀なのだ。

その……なんというか、俺もそろそろ必要になる可能性があるので、一応採取しておきたい。


ここで少しうちの親父と兄貴の話をさせてくれ。

彼等は普段優秀なのだが、本番では最弱らしい。

親父に関しては鬼神(笑)である。

アインズベルクの血は残酷ってことだ。


俺も昼はSSランクだが、夜はFランクである可能性が捨てきれない。

(笑)と直接的な血の繋がりは無いものの、やはりどうしても心配になってしまう。


急に汚い話をしてしまい、申し訳ない。

でもまぁ、そういうことである。


剥ぎ剥ぎしつつ、光探知を起動すれば、似たような魔力の反応がチラホラ。

「よし、エクス。タマキン狩りだ」

「ブルル……」


俺の熱い闘いが始まった。



いろいろと狩りつくした後、移動を再開。

川を跳び越え、さらに森の奥へ。

魔力が少しずつ濃くなっていき、木々の密度も高くなっていく。

地面に日光が届かなくなり、不気味な雰囲気が漂い始めた。


「警戒しつつ進もう」

「ブルル」


暗い森の中をさらに一キロほど進む。

いつの間にか霧が立ち込めており、視界も悪くなっていた。

俺の直感が“あと少し”だと告げている。


その時、生暖かい風が頬を掠めた。


「グォォォ……」


目の前にボスが現れた。

その魔物は、、、


「ヴァンパイア……ベア」

「ブルルル」


今から約六年前。

俺がまだ十二歳の時に、バルクッドを襲ったSランクの熊型魔物である。

エクスと出会うキッカケにもなった、思い出深いモンスターだ。

あの時の個体は俺が討伐した上、そもそもここはダンジョン内なので、コイツは完全に別個体なのだが、それでも心は昂ってしまう。


俺は無言でエクスから降り、ゆっくりと接近する。

ヴァンパイアベアは俺が諦めたと思ったのか、卑しい笑みを浮かべた。

「六年ぶりに見たな、その顔」


吸血熊は片手を大きく振りかぶり、俺を鋭い爪で斬り裂こうとする。

「グオォォォォォ!!!!!」


しかし……。

俺は閃光鎧を展開し、その攻撃を片手で受け止めた。

「!?」


大きな腕を掴み、持ち上げる。

巨体が宙に浮いた。

「グ……」


苦し紛れにもう片方の腕で俺を殴打するが、ビクともしない。

掠り傷一つすら付かない。


「エクス」

「ブルルル」

俺は熊をノールックで後方に投げた。


エクスは両前足を振り上げ、ヴァンパイアベアを押し潰した。

ドォォォン!!!


地面に雷が走り、エクスを中心に大きなクレーターが出来上がった。


「グ……オォ……」

ヴァンパイアベアは静かに目を閉じた。







「あれから結構成長したんだな、俺達」

「ブルル」


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