第145話:魔宝箱の中身

魔宝箱を開けると、そこには……。

一冊の古びた本が入っていた。しかも怪しい鎖でグルグル巻きにされている。


「帝城の禁書庫にもあったよな。こんな感じの古本」

「ブルルル」


確か陛下と『なんかヤバい悪魔が封印されてそうですよね』みたいな会話をした気がする。

あの時は危険だからやめとこうという結論に至った。

しかしここはSSランクダンジョンの中。

俺の開封欲がウズウズしてきた。


「エクスもいるし、鎖を解いてみていいか?」

「ブルル」


エクスもノリノリである。


奥の広場に出て、魔物を一掃。

その中心で胡坐をかき、古びた本を睨む。

「……」

「……」


「開けるぞ、エクス」

コクコクと頷く。


鎖を解き、本を開いた。

1ページ目を捲る。文字が乱雑に書かれているので、恐らくノートだろう。


「こりゃ古代のルーン文字だな。全く読めん」


その道の研究者なら読めるかも知れないが、今その話は置いておこう。

古代人がただのノートを魔宝箱に入れ、SSランクダンジョンの報酬にするわけがない。

アイツ等は大分性格が終わっているから、大当たりか大外れかの二択だろう。


ページをめくり続ける。現在140ページに到達。

目算300ページほどなので、あと少しで中間ポイントである。

150ページ目を開くと、左右のページ共に真っ黒に塗りつぶされていた。

それ以降は最後までルーン文字が記されていた。


俺の予想を言わせてもらおう。

全300ページのうちの298ページに呪文が記されている。

それをもって、中心の2ページで何かしらの術が発動する。


「正気じゃないよな。どんだけヤバい魔法なのか、想像すらつかん」

「ブルルル」


エクスと相談した結果、古本に魔力を込めてみる事になった。

俺は表紙に触れ、少しずつ魔力を込めていく。


かなりゴッソリ持っていかれる。もし一般人だったら、とっくに魔力欠乏症に陥り、ぶっ倒れているレベルだ。


古本がドクンドクンと鼓動を始める。

自動で真っ黒のページが開いた。

紫色の光と共に、直径二メートルくらいの魔法陣が浮かび上がる。


そして中から……。


「ふっふっふ……。ついにこの私を召喚する者が……」


なんか偉そうでムカつくため、出てくる最中に頭を押さえる。


「こ、この私を召喚する……」

ググググ。


「私を召喚……」

ググググ。


「あ、あの……ちょっとま」

ググググ!!!


最後まで魔法陣に押し込み、再び本を閉じた。

すぐに鎖でグルグル巻きにして魔宝箱に入れる。

その魔宝箱をマジックバッグに放り込んだ。


無言でエクスに跨る。

「よし。何も見なかったことにしよう」

「ブルルル」


俺とエクスは十六階層へ飛び込んだ。



「美味いか?エクス」

「ブルルル!!!」

現在十六階層の入口付近でバーベキューをしているところだ。


エクスはたらふく食べた後、ぐでーっと横になった。

働き詰めだからな。本当にエクスには頭が上がらん。

休憩を邪魔されたくないので、一応魔物除けの魔導具を設置し、俺も大きな鉱石に腰を掛けた。


いやぁ、それにしても本当に悪魔が出てくるとは思わなかった。

まず魔力の形が違った。この世界のモノとは全くの別物。


以前、ヴァレンティアと戦った時に次元が歪み、亜空間が顔を覗かせた。

それを超えた先に別の世界が存在するのだと推測できる。

SSランク龍との戦いではそんな現象は起きなかったので、恐らく俺レベルの魔力がぶつかり合わないと発生しないのだろう。


遥か昔に生きた《召喚》魔法の覚醒者が、遊び半分でルーン文字の呪文ノートを作製したんだろうな。


めっちゃ想像できる。


『まぁせっかく作ったんだし、魔宝箱に入れてダンジョンにでも放り込んでおくか。手に入れた奴はさぞ驚くだろうなぁ!はっはっは!』


うぜぇ。


だがその覚醒者は凄い。

いくら召喚魔法と言えど、常識的に考えてこの世界にいる魔物や人間しか召喚できない。

それがこの世界の規則だからだ。

しかし召喚魔法の覚醒者はその理を歪め、別の世界から悪魔を召喚していたわけである。

遊び半分で。


龍人族のルーツが龍で、魔人族のルーツが悪魔(恐らく)。

ということは天使族のルーツは本物の天使という事か?


てか悪魔はどんな魔法を扱うのだろうか。


「考えても考えてもキリがないな」


ただ言える事は一つ。

「悪魔がこちら側の世界に来れるのであれば、俺だってあちら側の世界に行けるんじゃないか?」


これは一方通行でなければの話だがな。


「まぁ今回の騒動が落ち着いたら、もう一度アイツを呼び出して色々と聞いてみるか。な、エクス」

「……zzz」


先ほど、古代人がらみの魔宝箱は大当たりか大ハズレと言ったが、これに関しては……。

「超大当たりだな」


まだまだこの世界には俺が知らない謎が眠っているのかもしれない。






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