第144話:性悪トラップ

 俺とエクスはエンプティの素材を確保した後、十階層の最奥にある大穴へ飛び込んだ。

上手く着地し、顔を上げると今までよりも明るい事に気が付いた。


周囲を確認すると、洞窟の壁面から数多の鉱石が飛び出しており、それらが光を発していることが分かった。

「綺麗だな」

「ブルルル」


俺はあまり鉱石に詳しく無い。そのため、これらがどんな種類のものなのかは知らない。

だがこれだけは理解できる。

「たぶん全部貴重な鉱石なんだろうな」


浅層なのにもかかわらず鉱石が採集されていないことには理由がある。

まず重い鉱石を採掘し、持ち運ぶには必ずマジックバッグが必要となる。

帰る際に壁をよじ登らなければいけないこのダンジョンでは尚更だろう。


俺がいつも当たり前のように身に着けているので、勘違いしている人がいるかも知れないが、マジックバッグという魔導具は本来超貴重であり、皇族や大貴族、そして一部の高ランク冒険者しか持っていない。

Sランク冒険者ですら、持っていない人がほとんどだろう。

また一定以上の実力がある冒険者からすれば、ここの鉱石を採掘するより高ランクモンスターを討伐した方が断然儲かるし楽しい。


まぁ要するに、採掘できる条件が揃っている人は皆逆に興味が無いわけだ。

世の鉱石マニア達(主にドワーフ)には絶対に聞かれたくない、やっつけ理論である。


「でもせっかく来たんだし、良さげな鉱石があればお土産がてら持って帰るか」

「ブルルル」

「たぶんエクスの角でツンツンすれば取れるだろ」

「ブルル……」


皆忘れているかも知れんが、エクスには立派な角が生えてるんだからな。


というわけで、十一階層から再び快進撃が始まった。

見た感じ魔物は見当たらない。

だがエクスに乗り走っていると、魔物っぽい魔力を発している鉱石?を一つだけ発見した。

天井にへばり付いているので、試しに光の矢を飛ばしてみると、見事に命中しポトリと落下した。


「ふむ……。擬態に特化した魔物のようだな」

「ブルル」


不思議な魔物がいたもんだ。

奈落の洞窟の固有種でもなさそうだが、一匹しかいなかったので、一応マジックバッグの中に放り投げた。


十二階層へ飛び降りると、ようやく魔物らしい魔物が姿を現した。

「出たな、オーク軍団」


二十体ほどのオークが鼻息を荒くしながら一斉に襲い掛かってきた。

オーク達は冒険者から奪ったであろう武器を握っている。

「いっちょ前に武器なんか持ちやがって……」


「ブォォォ!!!」

「ブガァァァ」

「フガフガ」


「エクス。魔力を貸してくれ」

「ブルルル」


急で悪いのだが、“あれ”以来俺はエクスとの合わせ技にハマっている。

まず体長三十メートル程の龍を生み出し、雷を纏わせる。

光と雷の属性を持つ、凶悪なその龍の名は……。


【俱利伽羅龍王】(クリカラリュウオウ)


「喰らいつくせ」


俱利伽羅は唸り壁面を破壊しながら突き進み、オーク達を一匹残らず噛み砕いた。


そして霧散した。


この世界に生息しているドラゴンチックな見た目の龍では無く、前世の中国で生まれた翼が無いタイプの龍をイメージして創造した。


八岐大蛇がモチーフになっているチー君にバレたら絶対に拗ねるので内緒である。

でもここだけの話、《光》×《雷》属性の魔法生物が爆誕したら激アツだよな。

チー君が知ったら絶対に泣くから内緒だが。


そんなこんなで順調に攻略を進めていると、十五階層で宝箱を発見した。

こんな浅層に宝箱が残っている事自体が奇跡的だが、その理由は見ればわかる。


まず十五階層の中心辺りに、横へ続く一本道がある。

長さは二十メートルほどで、トラップ満載だ。


その一番先に宝箱が鎮座しているのだが、その道の途中には沢山の死体が転がっている。

もちろん全部白骨化している。


「あれ死んだふりをしているが、普通にスケルトンだよな?」

「ブルル」


微量に魔力が漏れ出しているので、間違いないだろう。

「面倒だな」


スケルトンは生前の実力が高ければ高いほど、危険度が上がっていく。

奴等はC~Bランク冒険者の白骨死体がスケルトン化したのだと思われるので、危険度は同程度だろう。


「いや、よく見ればAランクのスケルトンもいるな……」

そりゃ誰も手を出さないわけだ。


それにしても性格悪すぎないか?

既存のトラップがある上に、死んだ冒険者の死体を有効活用する魔法がプログラムしてあるのだ。


これを造った奴はきっと、レイにちょっかいをかけようとした龍王国の王子みたいな性格をしていたんだろうな。

アイツの名前何だっけ。てか今どこで何をしているんだ。

まぁいいか、興味ないし。


「じゃあサクっとお宝取ってくるわ。ここで待っててくれ」

「ブルルル」


俺は閃光鎧を発動し、悠然と歩を進める。

「カカカカカ」


俺の侵入に気が付いたスケルトン達が一斉に飛び掛って来た。

一般的なスケルトンとはワケが違う。

まるで生きている人間のようなスムーズな動き。


「だが、俺にとっては特に変わらん」


星斬りを抜刀し、一体ずつ“縦に真っ二つにしていく”。

錆びた剣で護ろうとしても星斬りの前では無意味。

死角から接近しても裏拳と回し蹴りで粉々にする。


スケルトン達を片付けた後は、皆さんお待ちかねのトラップ攻略だ。


何も無かった壁に沢山の穴が開き、毒矢が掃射された。

だが集中している俺には止まって見えるも同然。

天井から巨大なギロチンが落ちてくるが、片手でつかみ取り、握力で粉砕する。

他にも落とし穴やら何やらが仕組まれていたが全て無効化した。

(※毒ガストラップは頑張って息を止めた)


そしてついに宝箱の前まで到着。


「ほう。宝箱じゃなくて魔宝箱だったか。ラッキーだな」

魔宝箱を抱え、エクスの元まで戻った。


「なんだと思う?」

「ブルル」


魔宝箱は中の時間が止まっているので、それに合わせた宝が入っている可能性が高い。

前回で言うところの龍の卵とかな。

他に例を挙げるとすればエリクサーや超絶貴重な古代の果物など。


「開けるぞ、エクス」

「ブルル」


俺は躊躇なく開けた。


するとその中には……。


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