第143話:奈落の洞窟

 ギルドに寄り情報を仕入れた後、俺とエクスはすぐにダンジョンへ向かう。


都市から西側に一時間ほど進むと、とある大草原にあたった。

ここは“無の草原”と呼ばれているらしい。散々な名前である。

「目算、テール草原と同じくらいの規模だな」

「ブルルル」


覚えていない人のために軽く説明すると、テール草原は俺とエクスが出会った場所だ。

バルクッドの近郊に位置している比較的初心者向けの狩場である。

当時エクスはバイコーンだった癖に、ちゃっかりブラックホースの群れに紛れていたんだよな。

という話は置いといて。


「悲しい名前を付けられる理由がなんとなくわかった」


一応草原という名の通り、地面には草花が生い茂っている。

しかし魔物や動物、もっと細かく言えば虫などの姿が一切見当たらない。

見た目は美しい草原なので、ここまで静かだと逆に気味が悪い。


生物たちがここに近寄らない原因は明白。

「まぁ、あれだよな」

「ブルルル」


俺とエクスの視線の先には不気味な穴が。

草原の中心にポッカリと開いた大穴の名は“奈落の洞窟”。

この大陸に三つしか存在しないSSランクダンジョンのうちの一つである。


ダンジョンは主に階層型とフィールド型に分けられる。

奈落の洞窟は階層型なので、前者について少し詳しく説明させてくれ。

階層型の場合、一階層はGランクの魔物が出現し、階を重ねていくごとに出現する魔物のランクが上がっていく。

Aランクダンジョンで例えると、最下層まではG~Bランクの魔物が出現するってわけだな。

また十、二十、三十のようなキリの良い階層には基本的にボスが待ち構えている。


ちなみにここの最高到達点は八十階層だ。

そのため、それ以下は前人未到というわけである。

宝箱とかありそうだよな。


「気楽にいこう」

「ブルル」


俺とエクスは奈落の洞窟へ飛び込んだ。



「あの都市の冒険者が稼ぎに来ない理由はコレか」

俺は上を見上げた。


上層へ戻るのに十数メートル以上、壁をよじ登らなければならない。

登っている間はもちろん無防備になるので、上がる毎にそんな危険を冒すくらいであれば、他の高ランクダンジョンへ潜った方が安全で効率的だろう。


「完全に外とは別世界だな」

「ブルル」


肌がピリ付くこの感じがたまらん。

下層の方で高ランク魔物が俺達を呼んでいる気がする。

(※気のせいです)


洞窟とは言ったものの横幅三十メートル、縦幅二十メートルほどある。

今まで潜ってきた階層型ダンジョンと比べても、ダントツで一番広い。


まだ一階層なので特に何のギミックも無く、また見た目の飾り気も無い。

だが下りていくごとに豪華になっていくので楽しみである。


「エクス。早速お出ましだぞ」


「ゲギャギャギャ」

「ゲギャッ」


記念すべき最初のモンスターはゴブリンである。


うちのエクスさんに喧嘩を売るなんていい度胸じゃないか。

「今更雑魚モンスターの素材なんて要らんから、適当に蹴散らして良いぞ」

「ブルルル」


エクスが駆けるだけで雷の余波が発生し、ゴブリン共は焼き焦げていく。

認識すらできていないだろう。


雷を纏う馬。俺にとっては見慣れた存在。

遠くから見れば前世で言う所の麒麟に似ているのではなかろうか。

まぁエクスの方が百倍強くてカッコいいけどな。


これが“駿王グルファクシ”である。

温泉に浸かっているだけのぽっちゃり馬では無いのだ。


すぐに二階層へと繋がる穴を発見したので、躊躇なく飛び込む。



「最高到達層は八十階層だからな。五十階層くらいまでは飛ばしていこう」

「ブルル」


そのまま九階層まで駆け抜けた。

出現したのはG~Eランクの魔物だったため、特に何も言うことはない。

トラップがあったわけでもないし、宝箱があったわけでもない。

やっぱ上層は渋いな。


十階層にて。

この世界にはダンジョン固有の魔物が存在する。

たとえ低ランクの魔物でも、SSランクダンジョン原産となれば話が違ってくるので、積極的に狩っていきたい。


それが目の前に佇み、俺達を睨んでいる中ボス。

Dランク魔物のエンプティである。

ナマズのような見た目で、常に宙に浮いている。

大きさは三メートルくらい。


アイツはあの大きな口で、何でも片っ端から飲み込んでしまう。

攻撃力はほぼ持ち合わせていないが、物理完全無効の能力を持っており、動きもそこそこ速い。

要するに物理無効の大喰らいナマズ君だ。


「ポポポポポ」

「お前の素材、結構優秀らしいな」

俺は星斬りを抜いた。


「ポポポォ」

それを見たエンプティは悪魔のような笑みを浮かべた。

どうせ俺が物理無効を知らないと思っているのだろう。

だが……。


俺は一瞬でエンプティの真下まで移動し、美しい太刀筋で縦一閃振り抜いた。

「あまり星斬りを舐めるなよ、雑魚の分際で」

「ポ?」


頭部がズリ落ち絶命した。


「確か胃袋が特殊なんだよな」


何かに使えるかもしれないので、解体してマジッグバッグに突っ込む。

エクスがエンプティの死骸に近付き、すんすんと匂いを嗅いでいた。






「食うか?それ」

「ブルルル……」


さすがに食わんらしい。




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