第141話:古代龍と頼み事
俺が龍王国の国宝である火龍の卵を手に入れたことは有名だ。
なぜなら帝龍祭の時に実況の姉ちゃんが暴露したからである。
まぁ盛り上がったので結果オーライ。
そして先日、卵が孵化した。
生まれたのは言わずもがな、神々しく純白色の輝きを放つ古代龍だ。
名前はシエル。通称シーちゃん。性別はメス。
あれから毎日たらふく飯を食い、現在進行形でスクスクと成長を続けている。
アインズベルク公爵家の令嬢がSSランクの龍を従魔にしたという情報は、瞬く間に世界中を駆け巡った。
バルクッドは帝国の物流の中心地とも言える。
大渓谷を越えて来た商人たちがバルクッドを経由し、帝国へ散らばっていく。
また逆も然りで、帝国中の商人達がバルクッドを経由し、天龍山脈の向こう側へ商売をしに行く。
同じ理屈で、シエルの情報もここを中心に波紋のように広がっていったのである。
正直エクスがグルファクシに進化した時よりも話題性が高いと思う。
“龍”というブランドは人々の心を大きく動かすからな。
男性諸君はドラゴンとか大好きだろう。
しかも海龍やら地龍やらと同等、又はそれ以上の実力と知名度を誇る古代龍だぞ?
これは偏見だが、陛下とかめっちゃ好きそう。
今は帝龍祭の後始末と、まだ帝国に滞在している王族達の相手をするのに忙しいが、落ち着いたら絶対に見に来ると思う。
『いや~。久しぶりに温泉に入ろうと思ってな。べ、別に古代龍が気になって来た訳ではないぞ』
とかソワソワしながら言いそうだよな。
てなわけで現在、レイからシエルの子守を頼まれたので、エクス達と共に温泉へ来た。
メンバーは俺、セレナ、エクス、カミラ、ムーたん。そしてシエルである。
「ギャオ!ギャオ!」
「ブルル……」
シエルはエクスの尻尾を引っ張って遊んでおり、カミラは優雅に湯に使っている。
ムーたんは仰向けになってプカプカ浮いている。
あとシエルはまだ子犬ほどの大きさだが、一応飛ぶことができる。
賢いのでアインズベルク公爵家の敷地からは出て行ったりはしないので安心して欲しい。
「エクスにとっては、お転婆な妹ができた感覚なのでしょうね~」
「だな。カミラが恋人枠でムーたんとチー君が友人枠、シエルが妹枠なんだろうな」
「皆仲が良くて何よりです~」
「アルテ様。そういえば古代龍ってどんな魔法を使うんでしょうね。気になりません?」
「気にならないと言えば嘘になるな」
「でも文献も残ってませんし、影探知で魔力を探ってもイマイチわからないんですよね~」
「そうなんだよ。俺も光探知で何度も確認したんだが、あやふやな魔力しか感じなかった。もしかしたらこれから決まるのかも知れないな」
「なるほど~。住んでいる環境に適応して変化する魔物って結構多いですもんね」
「古代龍の場合は住んでいる環境というよりも時代に適応しそうだけどな」
「ロマンがありますね」
「ああ。まったくだ」
それか本人の気分次第で決まる可能性もある。
『こういう魔法がいいな』と思ったら、魔力がその形に変わる、みたいな。
もちろん一度決定すれば一生変えられないので、本人というか本龍は慎重に決断するだろう。
魔法以外の特殊能力とかもありそうだよな。
海龍でいうところの魔眼的な。
ちなみに海龍の素材のほとんどは、アインズベルク海軍の巨大戦艦ヨルムンガンドの造艦に使われた。
少しグロテスクな話になるが、内臓やら何やらは陛下に預かってもらっている。
“龍薬”を作るのに役立ちそうだと聞いた。
また魔石と魔眼は、俺のマジックバッグの中に収納してある。
「これは一体何に使えば良いんだ?」
俺は魔石を取り出した(魔眼は見た目がグロすぎて出せない)。
「おお~。でっかいですね!海龍の魔石!」
「いるか?これ」
「いりませんよ……」
その瞬間、遊んでいたはずのシエルが血相を変えて飛んできた。
そして魔石にとびついた。
「ギャオ!」
海龍の魔石はシエルと同じくらいの大きさなので心配は無い。
「ふむ……。欲しいか?これ」
「ギャ?」
『え、マジでいいんすか!?』みたいな顔をしながら首をコテンと傾けた。
ギャルみたいな性格だな。
「いいぞ。特に使い道は無いからな」
「ギャオ!」
「アルテ様は相変わらず身内に激甘ですね~」
「こういう性分なんだ。仕方ないだろう」
「褒めてるんですよ~」
「そうか」
しがみついたままのシエルを、魔石ごとエクスの大きな背に乗せ、屋敷に戻った。
「というわけで、レイの部屋に置いといてくれるか?シエルが気にいったらしいのでな」
「それはもちろん大丈夫なんだけど、本当にいいの?いくらシーちゃんのためとはいえ、あの海龍の魔石なんでしょ?これ一つで小国が傾くほどの価値があると思うんだけど……」
「まぁ良いんじゃないか?最悪エクスの鬣を大量に収穫して元を取ればいい」
「エクス可哀想……」
エクスが溜息をつく声が裏庭から聞こえた。
「ブルルル……」
「シーちゃん良かったね!ちゃんとアル兄様にありがとうって言った?」
「ギャオ!」
「ならよし!」
古代龍誕生から約一ヵ月経過し、屋敷も大分落ち着いてきた。
そんなある日の夜。久しぶりにエドワードから着信がかかってきた。
「こんな時間に珍しいな、どうしたんだ?」
「まずは帝龍祭優勝おめでとう。カッコ良かったよ」
「おう」
「古代龍の話も聞いたよ。後で父上が遊びに行くかも」
「それは遠慮しておこう」
エドワードの様子がいつもと違う。
「ふむ。なんかよそよそしいな。何かあったのか?」
一息置いて語り始めた。
「うん。実は今、姉上が謎の病に侵されてて……」
「ほほう。もうちょい詳しく説明してくれ」
エドワード曰く、実姉である元第一皇女のスカーレットが一年ほど前から体調を崩しており、最近はベッドから動けなくなるほど悪化してしまったらしい。
ちなみに陛下やエドワードが内緒にしていたわけでなく、スカーレット本人が隠していたため、発見が遅れてしまったという話だ。
彼女は現在、オストルフに隣接している皇族直轄領(元ゲルガー公爵領)を統治していたはずだったな。
まぁ病を隠していた気持ちは理解できる。数年前帝国に反旗を翻したゲルガー公爵等は全員元第一皇女派閥だったからな。
あれは第一皇女も被害者側な上、陛下がきちんと国民に事の詳細を伝えたため普通に許して貰えたわけだが、本人は皇族に対し『謎の病気にかかったから力を貸して欲しいなんて図々しい事は流石に言えない』ってなったのだろう。
「龍薬なら治せそうだな」
「うん。……いつも頼ってばかりで悪いんだけど、素材調達をお願いしてもいいかな?」
「ああ。ちょうど暇を持て余していた所なんだ。ちょっくらSSランクダンジョンを荒らしてくる」
「ありがとう。本当にありがとう……グスン」
「じゃあな。姉ちゃんを看病して待っててくれ」
「了解だよ」
ここで通話が切れた。
まったく。俺が友人の頼みごとを断るはずがないだろうに。
俺は装備を整えてから星斬りを握りしめ、部屋から出た。
え?睡眠なんて必要ない。
なんせ俺は……“閃光の冒険者”だからな。
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