第140話:孵化

 レイに謎龍の卵を託してから一週間が経過した。

彼女曰く、毎日大量の魔力を吸って成長しているらしい。

そもそもどのくらいで孵化するのかわからないので、気を張らずゆっくり見守れば良いと伝えておいた。


ちなみに自慢では無いが、俺はあれから実家に引き籠っている。

自分で言うのも何だが、現在優勝ブーストで人気が爆発しているので、到底外出ができるような状態では無いのだ。

エクスに関しては家族から毎日引っ張りだこにされているので問題ない。


というわけで今、自室で龍に関しての書籍を読み漁っている。

魔物大全典を作り上げたノーマン博士が監修しているので、間違いはないだろう。


コンコン。

「ケイルです」

「入って良いぞ」

「失礼します」

ガチャ。


「どうしたんだ?」

「帝都の研究チームから書簡が送られてきたので、お届けに」

「早速確認しよう」

「では私はこれにて」

「おう」


『アルテ様へ。龍薬の成分分析が無事終わりました。こちらが必要素材の一覧でぇす!』


テンション高すぎだろコイツ。

研究のし過ぎで完全にラリってやがるな。

目をバキバキにしながら書いたのだろう。南無。


文章の下にいくつかの素材が記されていた。

丁寧に絵まで書いてある。上手いな。


知っている素材もあれば、完全に初見の新素材まで載っている。

順次目を通していこう。


「……ん?」


なんか見覚えのある植物が一つ。

これ最近どこかで見たような気がするんだよな。


「あ」

思い出した。

そして俺は自室から出て果樹園へ向かった。


「えーっと。いつもエクスがゴロゴロしている辺りに……あった」


以前説明したが、エクスがSSランクに進化してから変な雑草が生えてきた。

専属薬師も知らないようだったので、ちょうど植物専門の研究者でも呼ぼうと思っていたところだったのだ。


エクスのお気に入りスポットである木の根元に生えている、この地味な雑草。

よく見れば不思議な魔力を纏っているこの草の名は……。


「“霊草”か。良い名だな」


他にも何本か生えているので、とりあえず放っておこう。

なんか増えそうだしな。


必要な植物の中で最も入手が難しいのが霊草だと書いてあった。

それがエクスのお膝元ですくすく成長していたとは。

めちゃラッキーである。


他にはSランク魔物の肝臓やら何やらが必要なので、SSランクダンジョンで乱獲しようと思う。

何を隠そう、カナン大帝国には未攻略のSSランクダンジョンが一つだけ存在しているからな。

まぁ楽しみにしていてくれ。



翌朝。

「……様。起きて」

「?」

「アル兄様!起きてー!!!」


俺は腹部に重みを感じつつ、両目を開けた。

「レイか。おはよう」

「おはよう!」


レイが乗っていたわけだが、その彼女の頭にも白い何かが乗っている。

「……そうか。ついに生まれたのか」

「うん!今日朝起きたら、この子が布団の中に潜り込んでたの!」

「ギャオ」


レイの頭の上には、美しい純白色の可愛らしいチビドラゴンが乗っていた。


この世界には様々な龍がいるが、白色の龍は一種だけしか存在しない。

それは龍好きが一度は憧れるドラゴン。


「古代龍か。大ニュースだな、こりゃ」

「そうだね!」


存在するとは言ったが、最後に確認されたのは遥か昔。

もちろん文献も残っていないので、代々口頭で言い伝えられてきた、半ば伝説上の生物。

正直信じていない者が大半だろう。

それが古代龍である。


ちなみに白龍魔法師団のモチーフになっているのも古代龍だ。


エクスがグルファクシに進化した時と同様、魔物研究者達はいい意味で発狂するだろうな。

面倒臭いので敷地には絶対に入れないけども。

またうちが世間を賑わせてしまう。申し訳ない。


「レイが寝ている間に孵化して、そのままどさくさに紛れて添い寝してたのか」

「うん!ビックリしたよ!」

「ギャオ!」


「なんていうか、そっくりだな。従魔契約はしたのか?」

「まだだよ~。ていうか、名前すら決めてない!」


レイはチビドラゴンを抱き、視線を合わせた。

「どんな名前が良い?ドラちゃん」

「ギャオ……」


「直感でいいんじゃないか?エクスの時もそうだったし」

「う~ん。じゃあシエルはどうかな?」

「ギャオ!!!」


古代龍の名は“シエル”に決まった。


「私と従魔契約してくれる?」

「ギャオ~」

「やったー!」


どうやらokらしい。


レイはなぜか俺の上に乗ったままシエルの頭に優しく手を添えた。

二人の魔力が徐々に高まっていく。

「……」

「……」


そして完全に繋がった。

「成功だよ!これからよろしくね、シーちゃん!!!」

「ギャオー!!!」


本当に良かった。

ぶっちゃけ帝龍祭で優勝した時の何百倍も嬉しい。


「あれ?チー君がいない……」

「俺の胸の上で丸くなってるぞ。たぶん拗ねてる」

「なんかごめんなさい。帰ってきて?チー君」

「!?」


すぐにレイの服の中へ飛び込んでいった。

チョロすぎワロタ。

でもエロ蛇とシエルが仲良くなるには時間が掛かりそうだな。


落ち着いてきた頃、親父と母ちゃんが部屋に押し入ってきた。


「レイ!卵が孵化したと聞いたぞ!!!」

「一体どんな子が生まれたのかしら!!!」


「うん!古代龍のシエルだよ!」

レイは両手で抱え、二人に見せる。


シエルは片腕を上げて挨拶した。

「ギャオ」

「「か、可愛い……」」


その後、シエルは両親に揉みくちゃにされた。

とりあえず新しい家族が増えて良かったな。

また騒がしくなりそうだ。







「レイ、貴方いつまでアルに乗ってるの」

「あ。ごめんね、アル兄様」

「別にそのままでもいいぞ。いや、むしろ」

「そこから先は言わせないわよ。この変態ストーカー」


むしろ俺にとってはご褒美だ。

ごっつぁんです。

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