第10章【SSランクダンジョン編】
第139話:孵化の方法
「やっぱ火龍の卵では無いと思うんだよな……」
「ブルル……」
現在果樹園でゴロゴロしているエクスの腹の上に謎龍の卵を乗せ、眺めている。
温度が安定している上にポヨポヨしているので卵を温めるのに最適だと思ってな。
帝龍祭から約一週間経過した。
学園の夏休みはかなり長いのでまだまだ暇である。
俺は件の闘技大会でヴァレンティアを倒し優勝したので、約束通り龍王国から火龍の卵と龍薬が送られてきた。
龍薬については、今帝国のエリート研究者達が目をバキバキにして成分解析をしている最中だ。
どんな魔法を使っているのかは知らんが、これが結構順調に進んでいると聞いた。
ベリーナイスである。
しかし某皇子のタレコミによると、どうやら量産は難しいらしい。
その一番大きな理由は“必要素材が入手困難なこと”である。
まぁ俺がどうにかしようじゃないか。
次は皆さんお待ちかねの、レイとの婚約に関してだ。
優勝した後のインタビューで『レイと結婚します』的な事を言う予定だったのだが、よく考えればまだ彼女からの返事を聞いてなかったので、適当にピースして逃れた。
俺の一方的な愛を強引に押し付け、彼女に迷惑だけはかけたくはない。
あれからというもの、レイ(天使)は俺と会うたびに頬を紅潮させ、風のように走り去ってしまう。なんとも言えない複雑な気持ちである。
だがそんな彼女(女神)も尊いのでokだ。
時間を掛けて少しずつ進展していけばいいと思っている。
噂によるとセレナと共に何か企んでいるらしいが、まぁいいだろう。
んで、現在に至るって訳だな。
「ふむ……。エクスはどう思う?」
「ブルルル」
「だよな」
エクスの言う通り、この赤い卵からは“火の意思”を感じない。
魔力の感じから推測するに、龍なのは間違いないんだがな。
でも得体のしれないヤバいのが孵化する可能性もあるので、それまでは俺が預かってようと思う。
「と考えてからもう二、三日経ったが全然進展がない」
「ブルル」
何となくだが、まだ休眠状態な気がする。
「ブルルル」
「ああ。そういえば昔、龍の卵に関する文献を読んだことがあったな」
俺は暫く考え込み、記憶の片隅にある龍の情報を引っ張り出した。
「確か親龍が膨大な魔力を注ぎ込みながら温めるんだった。ナイスだ、エクス」
「ブルル」
食いしん坊馬の超ファインプレーである。
「最近またポチャポチャしてきたから、一緒に温泉ダイエットしような」
「ブルル……」
というわけで。
コンコン。
「は~い」
「俺だ。今大丈夫か?」
「アル兄様!?ちょちょちょちょっと待ってぇぇぇ!!!」
「おう」
一分後、レイがソワソワしながらドアを開けた。
「中に入ってもいいか?」
「い、いいよ!」
俺はユートビアに侵入し、椅子に腰かけた。
良い匂いである。後でここの空気を袋に詰めて家宝にしよう。
そして先ほど考えたことをざっくり説明した。
「……だからレイに魔力を込めてもらって孵化させないと、懐かない可能性があるんだ」
「ふむふむ。でもいいの?わざわざ優勝して獲得した龍王国の国宝なのに」
「いいも何も、レイの為に参加したんだぞ」
「うぅ……」
また尊い御尊顔を赤く染め、俯いてしまった。
俺の脳内メモリに永久保存させていただこう。
「本当は預けておきたいのだが、まだどんな龍が生まれるかわからないから、一応俺も傍にいさせてもらおうと思ってな」
「なるほど~」
レイは卵を抱え、そっと撫でた。
「でも大丈夫。この子は良い子だと思うよ。チー君も傍にいるしさ」
チー君が彼女の襟からヒョコッと顔を出した。
「じゃあ少し魔力を込めてみてくれるか?」
「うん!」
天使は微笑みながら卵を抱きしめ、優しく魔力を流した。
すると卵はドクンと鼓動し、それを全力で吸収し始めた。
俺が持っていた時とは大違いである。
絶対オスだろ、コイツ。
俺は黙って見守る。
「……」
「ね?大丈夫でしょ?」
「よし。では頼んだぞ、レイ」
「任せて!絶対に孵化させてみせるよ!」
もう心配は無いと言えば嘘になるが、本人がこう言ってるんだ。
これ以上俺が口を出すのは野暮ってもんだろう。
一応エロ蛇もいるしな。
俺はレイの頭を撫で、約束の地エデンから退出した。
あと退出する前にめっちゃ空気を吸い込んだ。
「スゥー」
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