書籍化記念SS②:八岐大蛇

ある日、俺とレイは《光》魔法で暇潰しをしていた。

「わー!ウサギさんだ!あっ!鳥さんもいるー!」


皆に可視光の話をしておこう。

光と言うのは波長によって色が異なる。

主に紫、青、水色、緑、黄、橙、赤に別れ、もちろん人にも視認できる。

ちなみに紫外線や赤外線は視認できない、


というわけで俺は様々な色の可愛い動物を創ってレイと遊んでいる訳だな。

波長の違う光を操るのがこれまた難しくて良い練習になる。

あとエクスはぐでーっと横たわり、昼寝している。

「……zzz」


「アル兄様凄いね!見たことない動物さんも創れるんだ!」

「おう。リクエストがあれば言ってくれ。何でも創ってやるぞ」


レイが言っている見たことない動物さんは、前世の知識から引用した八咫烏や鵺だな。

動物と言うか魑魅魍魎の類である。

その後もレイのリクエストを受けて、いろんな魔物や植物を創った訳だが……。


「ん?」

「どうしたの?」

「あの八頭の蛇、勝手に動いてないか?」

「た、確かに……」


なんか他の光と混ざって楽しんでいる蛇助が一匹。

実はさっき光をポンポン生み出している時に違和感がしたんだ。

その原因はアイツだったか。


「楽しんでいるところ悪いんだが、ちょっといいか?」

「……」


蛇助は八つの頭を動かし、辺りを窺っている。

「いや、お前だよ。八岐大蛇」

「!?」

「何で自立してるんだ?」

「……」


『いやぁ、そんなこと言われても……』みたいな顔をしている。

とりあえず魔法を解除してみたものの、やはり八岐大蛇だけが残った。


「完全に俺の制御から離れて自立してるな……」

「そうだね~」


害意を感じないどころか、蛇助からはエクスと似たような信頼を読み取れる。

星斬りも俺の魔力から生まれたようなもんだし、コイツも同じようなもんなのかも知れん。


「なんかお腹空いてそうな顔してるよ!」

「!!!」

図星だったようだ。

夕食前のエクスみたいな顔である。


「じゃあもっと魔力を込めてみるか」


俺は八岐大蛇の背中にポンと手を置き、ありったけの魔力を流した。

うおっ。どんだけ吸い取る気なんだコイツは。

まぁ俺は常に太陽光から魔力を補充できるから大丈夫なんだけども。


小さかった身体はすくすくと成長していき、一分後には屋敷よりも大きくなっていた。

そして立派な八岐大蛇になった。


「でっかいね!!!」

「だな。でもちょっとデカすぎるな。もっと小さくなれたりはしないのか?」

「……」


と言うと八岐大蛇は先ほどの大きさに戻った。

だが生まれたばかりの頃と比べ、魔力量も雰囲気も全くの別物だ。

もしかしたらトンデモ魔法生物を生み出してしまったのかも知れない。


その強さ、およそSS級。


「きゃー!この子可愛いー!」

「~♪」

八岐大蛇はレイにヨシヨシされ、上機嫌である。


「まぁいいか」

二人共楽しそうだし、騒がしいうちのメンバーが一匹増えるだけだからな。

あんま変わらんだろう。


「な、エクス」

「……zzz」

一体いつまで寝るつもりなんだ、この食いしん坊馬は。


その後数日間、八岐大蛇はレイにくっ付いて過ごしていた。

もうベッタリである。

風の噂では寝食を共にするどころか、風呂の時まで一緒らしい。


なんて羨ま……けしからんのだろうか。

このエロ蛇め。

一体誰に似たんだか(※貴様)。


八岐大蛇は後日レイに“チー君”と名付けられ、立派な家族の一員になった。



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