第138話:帝龍祭⑨

「【天叢雲剣】」

「【大厄災】!!!」


本来ならば一撃で都が滅ぶほどの威力を持つ終焉級魔法。

この二つがぶつかり合う時、その間に発生するエネルギーは人々の想像を超える。

爆音が鳴り響くかと思いきや、衝撃は音という概念まで消滅させ、辺りは逆にシーンと静まり返った。


ウォォォォォォォォ!!!!!!!

と大歓声が上がる。


「もう神話の戦いじゃねぇか!!!」

「歴史上最もレベルの高い戦闘なのでは……?」

「もし結界が無かったらヤバかったわ」

「それを考慮しても生で見る価値があるよ!」


アルテとヴァレンティアが繰り広げる最高峰の攻防に世界中が熱狂している中、魔王と聖王の二人だけは己の過ちを悔いていた。

「魔王様。我々は今までアレに手を出していたのですね」

「黙れ……もう何も言うな……!」


「聖王様。天使族は自らの実力を買い被り過ぎていたのかもしれません」

「私だって……いつかあの領域に……!」



まさかこの魔法を相殺してくる戦士が存在したとは。

「やるじゃないか」

「ふぅ……。お前はなぜそんなにピンピンしているんだ?」

「《光》魔法は効率が良いのが売りなんだよ」

「なるほど!」


さすがはヴァレンティアだ。今の一言で、俺が周囲の光を収束し魔法に昇華させている事を理解したらしい。


「自虐では無いが、何でもエネルギーに変換できる訳じゃないし空を飛べる訳でもないから、《光》魔法も例に漏れず“ハズレ”だな」

「はっはっはっは!《圧縮》と同じだなァ!」


ヴァレンティアは大紅蓮を鞘に入れ、背負った。

「一度拳で語り合ってみないか?」

「……面白そうな提案しやがって。乗るに決まっているだろうが」

俺も星斬りを腰に差した。


どうせ光の矢やロンギヌスの槍を放った所で、あの分厚い魔力装甲に弾かれるだけだしな。

俺の予想だが、奴に天照を直撃させても余裕で耐えきる気がする。


ヴァレンティアは黒い翼を広げ、再び空に羽ばたいた。

自慢げに見下ろしやがって。


かなり距離の助走をつけ、ミサイルのように突進してきた。

「行くぞぉぉぉぉぉ!」


俺も身体を捻り、右腕を振りかぶる。

手に普通の魔力ではなく“閃光”の魔力を込めた。

そして振るう。


「【星芒拳】(グリッターインパクト)」


ヴァレンティアはいつも通り《圧縮》の魔力を纏っているだけ。

だが……。

「!?」

打ち負けてしまった。


相手の拳は俺の腹に直撃し、肺から空気が抜ける。

「はっはっは!吹き飛べぇぇぇ!!!」


ソニックブームを発生させながら空中を突き進み、後方に聳える山にめり込んだ。

「痛ってぇ……」


ここは丁度エクスが進化したダンジョンがあった場所の近くだ。

一応星芒拳をぶつけた分、威力は弱まっているはずなんだがな。


やはりドラゴンスレイヤーは伊達じゃない。

ただの打撃がここまで強力なのはヤバすぎる。


「まだまだ終わってないぞ!閃光ぉぉぉ!!!」


光速思考を起動。よく見ればヴァレンティアは魔力を極限まで纏っている。


「じゃあ俺も纏うか。閃光の魔力を」

人生で三度目の本気の格闘戦だ。


再び拳がぶつかり合う。今度は拮抗している。

「ようやく本気を出してきたようだな!」

「さぁな」

「私が真の格闘戦というモノを教えてやろう!」


ヴァレンティアが拳に圧縮し纏っていた魔力が発散した。

そのエネルギーは全て俺に向かう。

「うおっ」

俺を何回吹き飛ばさせば気が済むんだ。


いつの間にかヴァレンティアが俺の真上にいた。

両手を組み天に掲げている。太陽が彼女で隠れた。

今仰向けで飛ばされている最中なので、それは胸に振り下ろされる。

凄まじい衝撃が全身を走った。


「ぐはっ!」

「落ちろォ!」


地面に衝突する前に体勢を立て直したい。

しかし、下では既に奴が待機していた。


ヴァレンティアが地面を蹴り、上方向に急加速。

その勢いのまま膝蹴りを放ってきた。


「そう何度も食らってたまるか」

俺も身体を一回転させ、かかと落としを放つ。


ヴァレンティアを地に叩きつける。

「ぐっ……」


着地し、戦いを再開する。

何度も拳を放ち合い、蹴りを放ち合い、吹き飛ばし、吹き飛ばされる。

そう。コレである。俺が求めていた戦いは。

泥臭くてもいい。

今まで積み上げてきた努力を互いにぶつけ合う闘い。

目がぼやける程に興奮し、身体の奥底からマグマが沸き上がるような昂り。


その一撃一撃が大地を震わせるほどの威力だ。

速さも力も技術も読みも、全てが正真正銘世界最高峰。


「こんなに楽しい戦いは生まれて初めてだ!はっはっは!!!」

「同感だ」


気が付けば互いの身体はボロボロだった。


「はぁはぁはぁ」

「ふぅ……」


今までもSSランクの龍と命を懸けた戦いをしてきたが、あれらはどちらかと言えば、大切な者を護る為の戦いだった。

しかし今回は違う。単純に俺達が実力を発揮し合うだけの試合だ。

そこに変な考えは要らないし、遠慮も要らない。


こんなの楽しくないはずがないだろう。


何だか次の一撃で決着がつく気がする。

ヴァレンティアがニヤリと笑った。

「お前も同じことを考えているようだな!」

「ああ」


その瞬間、ヴァレンティアの全身が黒い鱗で覆われた。

俺が懸念していた龍人族希少種の特殊能力だろう。

放出される魔力の質も闘気も先ほどとは別格。

まるでSSランクの龍のような存在感。

どんな生物もひと睨みで殺せるような圧迫感。

奴が立っているだけで空間どころか次元そのものが歪む。


なるほど、これが黒龍のヴァレンティアか……!


恐らく閃光鎧では対抗できないし、終焉級の魔法ですら意味は無い。

また神話級を発動する前に沈められるだろう。


しょうがない。アレをやってみるか。

俺は閃光鎧を解除した。

これから理論上不可能だと思っていた新たな鎧を完成させる。


地龍戦では上空に向けて放出し、海龍戦では星斬りと共に光球を放った。

前者が【絢爛の光芒】で後者が【雷閃鎚】。

最近は拳に纏うことに成功し、【超新星拳】と名付けた。


その光の名はガンマ線。

俺が操れる中で最も凶悪で、また最も制御が難しい光である。

それを今回全身に纏いたい。


俺は星斬りを抜刀した。この魔法の肝になるのは星斬りである。

俺一人では到底耐え切れないので、相棒にはコアとして参加してもらう。


ガンマ線を創造し全身から放出。

「くっ……」

今まで受けたことのない痛みが全身を駆け巡る。

まるで何万本もの針が刺さるかのような痛み。

しかしつらいのは星斬りも一緒だ。荒い魔力を放出している。

相棒には本当に頭が上がらない。


無人島の半分がヴァレンティアの放出する魔力で圧縮され、押し潰される。

もう半分は俺が“放出してしまった”ガンマ線でドロドロに溶かされている。


光速思考を起動しながら制御し続ける。今にも脳が焼き切れそうだ。


「……」


数秒後、ついに……ついに魔法が完成した。

俺にとっては長い長い戦いだった。

名はシンプルに【天鎧(テンガイ)】。


「おいおい。もう神話どころじゃないだろ、これ……」

「まるで黒い龍神と、白い魔神の戦いだ」

「二人共本当に人族なの?」

「いったい誰が予想できるんだよ、こんなの……!」


世界中の人々がゴクリと唾を呑んだ。


「ヴァレンティアァァァァァァ!!!!!」

「閃光ォォォォォォ!!!!!!」


「いくぞ!星斬り!!!」

「吼えろォ!大紅蓮んんんん!!!」


二柱の神が魔剣を交差させた。

バリィィィィン!!!!!


理論上限界まで圧縮された魔力に、ガンマ線をぶつける。


ゴゴゴゴゴゴゴ。と大地が揺れる。

大海が荒れ狂い、雷が降り注ぐ。

次元にヒビが入り、亜空間が顔を覗かせる。


……世界が悲鳴を上げている。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


【天鎧】の最も優れている点は攻撃力でも無ければ、防御力でもない。

もちろん速さでも燃費でもない。


それは“星斬りと一体化できる点”である。


刹那、星斬りが大紅蓮を弾き飛ばした。

大紅蓮は空中に弧を描き、地面に突き刺さる。


ヴァレンティアはバランスを崩し後ろに仰け反っている。


今だ。


「【超新星拳】」


天鎧を発動している今なら、この技の威力は凄まじいモノとなる。


ドゴォォォォン!!!


ヴァレンティアは舞台が“あった場所”に叩きつけられた。

巨大な隕石が落ちたのかというほどのクレーターが出来上がる。

砂埃が天まで舞い上がった。


世界が静まる。


しばらく経過し、砂埃が晴れると……。

ヴァレンティアはクレーターの中心で気絶していた。


「勝者、閃光の冒険者ぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!




帝龍祭、完。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る