第137話:帝龍祭⑧

帝龍祭最終日。今日は決勝戦である。

昨日はレイに『婚約しようぜ!』的な事を、タイミングを見計らわずに言ってしまった。

流石に大会後に明言した方が良かったよな。

結果彼女は頬を紅潮させ自室に飛んで行ってしまい、気が付けば朝である。


きちんと寝られはしたものの、何だか胸の奥がモヤモヤする。

だがこんな中途半端な状態で戦いに臨むのは応援してくれる人々や、相手であるヴァレンティアに失礼である。


俺は両手で頬を叩いた。

「よし。行くか」


いつメンと朝食を取った後に甲板で待機していると、天使(女神)がやって来た。

「おお、レイか。おはよう」

「おはよ~」


何やらモジモジしている。

「あの~。えっと……」

「どうしたんだ?」

「頑張ってね、お兄ちゃん!!!」

「お、おう」


そして母ちゃん達がいる方へ、てってってと走り去ってしまった。

「相変わらずシャイだな」

「あんた鼻血出てるわよ……」

「さすが激キモストーカーね」

「試合前にそんなに血を流して大丈夫なのか?」


というわけで俺は舞台に降り立った。

心なしか実況の姉ちゃんが張りきっている気がする。

「皆様、ついにこの日がやってまいりました!!!」


観客達もいつにも増して興奮している様子。

「やっぱあの二人が上がったな!」

「アルテ様はともかく、予想通りヴァレンティアは一線を画していた」

「やっとSSランクの本気が見れるのね」

「アルテ様の魔法楽しみ~」


「一人目は龍王国代表、黒龍のヴァレンティア!龍人族×希少種×覚醒者という、神様が意図的に創り出したかのような女性です!昨日は不思議な魔法を披露してくれました!また風の噂によると、この戦いには龍王国の国宝である“火龍の卵”が賭けられているらしいです!」


覚醒者という部分については別に恵まれてない。

《圧縮》はヴァレンティアが努力で育てた固有魔法だからな。

問題は龍人族の希少種だということだ。

何かしらの特殊能力を持っている可能性がある。


「二人目はカナン大帝国代表のアルテ様!閃光の冒険者という異名の通り、《光》魔法を駆使して戦うその姿はまさに圧巻!ここだけの話、彼はエルドレア大陸統一の立役者でもあります!」


実況の姉ちゃんは続ける。

「この決勝戦は実質エルドレア大陸とフィオレント大陸の威信をかけた戦いでもあります!どちらが真の覚醒者なのか、どちらが冒険者の頂点なのか、そしてどちらが世界最強なのか!今世界中の人々が固唾を呑んで見守っている事でしょう!!!」


ヴァレンティアがドアップで映される。

「正直私には一つだけ気に食わない事がある。それは昨今、誰が最強なのかという問いに対し、まず目の前に立つ男の名が挙がるという事だ。私だってSSランクの龍を討伐した事がある上、数多の戦争に参加し、その全てで功績を残してきた。冒険者としての実績を見れば、こちらに分があることは間違いない。もっと言うと、種族という視点で見ても私の方が話題にあがりやすいだろう」


ここで一息ついた。

「だがなぜか吟遊詩人達はこぞって閃光を謳いたがる。また人間という種族を見下しがちなフィオレント大陸でさえ閃光は一目置かれてきた。私とその男には明らかな違いがある。それが何なのか今日確かめてやる。そして必ず“世界最強”という称号を祖国に持ち帰って見せる!!!」


フィオレント大陸は今頃凄い熱で包まれているだろう。

あちらの大陸から来た連中も普段はいがみ合っているとは言え、今回ばかりは大盛り上がりである。


次は俺がドアップで映された。

ヤバい。またボケーっとして何も考えていなかった。

まぁ俺にも言いたいことは色々あるが、今の心境を一言で表すとすれば……。


「滾ってきた」


「帝龍祭決勝戦開始ぃぃぃぃぃ!!!」


ヴァレンティアは開始と同時に膨大な魔力を《圧縮》し纏った。

あれはもう身体強化の枠組みから外れた別の何かだ。

大紅蓮を両手で持ち、翼を大きく広げる。

今までの戦いでは片手で振るっていたので、その本気具合が窺える。


一気に羽ばたき、その風力で地面がめくれ上がった。

「閃光ぉぉぉぉぉぉ!!!」


俺も光鎧を発動し、地を駆ける。


そして、舞台の中心で互いの剣を交差させる。


バリィン!!!


刀と大剣をぶつけ合ったとは思えない轟音が周囲に響く。

その衝撃で舞台にヒビが入った。

時空が歪み、大気が震えている。


「お、おい。上を見ろ」

「天が割れている……」

「これが最強同士の戦いなのね」

「今までの戦いとは全然レベルが違うじゃない……」


ヴァレンティアは嬉しそうに口角を上げた。

「はっはっはっは!人に大紅蓮を受け止められたのは初めてだァ!」

「そうか」


ギリギリと鍔追り合いをしながら見合う。

火花が散り、俺の頬を掠めた。


「ん?」

「気づいたか!だがもう遅い!」


俺の足元の空気が限界まで圧縮され、破裂寸前だった。

「マジかよ」


ドォン!


衝撃を受けると共に空中に投げ出された。

何度も言うが、俺は魔法の関係上どんなに足掻いても空を飛ぶことはできない。

しかしヴァレンティアに関しては……。


「ここは私の独壇場だァァァ!!!」


足裏の空気を圧縮、そして発散し爆発的なエネルギーに変換する。

その推進力を利用して空を飛び、大きな翼を用いて上手く方向転換する。


側から見ればピンボールのように宙を移動していることだろう。

まさに電光石火である。

そしてその中心には……。


「俺がいるって訳だな」


光速思考を起動し、豪快に大紅蓮を振りかぶりながら接近してくるヴァレンティアを見つめる。


星斬りを横に持ち大紅蓮を受け止める……のではなく、上手く受け流す。

「!?」

まともに受け止めたら吹き飛ばされるからな。


彼女は俺とすれ違った後、再び背後から接近してくるが、星斬りを背に持ちノールックで再び受け流す。


それを何度も繰り返す。

何度も何度も何度も、上・下・前・後・右・左と様々な角度から高熱を纏った大紅蓮が迫るが、全て完璧に受け流していく。

チビの頃から鍛えてきた『柔の剣』が絶大な効果を発揮している。


数秒後、ようやく地面に足が付いた。


「今のを凌ぐか!さすがはかの閃光だな!もしや凄まじい実力を持った剣豪と剣を合わせたことがあるのか?」

「ああ。ローガンとかいうクソジジイに殺されかけた」

「真閃流の剣仙ローガンか!納得だ!」


俺は星斬りを肩にかけ、ヴァレンティアと視線を合わせた。

「そろそろ本気出せよ」

「私が本気を出したらすぐに終わってしまうかも知れないが、それでも良いのか?」

「随分舐められたものだな」


俺とヴァレンティアは魔力と闘気を全力で解放する。

二つの波動は舞台上で拮抗し、弾けた。


そしてノンタイムで片手を互いに向ける。

「【天叢雲剣】」

「【大厄災】(カラミティ・ブラスト)!!!」


ラウンドツー開始だ。



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