第136話:帝龍祭⑦
魔王との戦いで勝利を収めた日の夜。
母ちゃんが俺とレイに深々と頭を下げた。
「ごめんなさい、二人共。実はアルは養子だったのよ」
「普通に知ってたけども」
「私も大分前から気が付いてたよ!」
「えっ。ち、ちなみにどうやって知ったの?」
「時系列的に」
「そうそう。お父様はその時戦争に赴いてたでしょ?だから普通に考えておかしいよね~」
「言われてみれば結構設定がガバガバだったわね……」
俺が生まれる約一年前に、母ちゃんが俺を身籠ったと仮定する。
丁度その期間は親父が戦争に行っており、母ちゃんは実家を護っていたはずなので、二人は物理的に会えないのだ。
また会えたとしても真面目な二人は無理に子供を作ろうとは思わないだろう。
アホ親父がバルクッドを不在にしている時の最高権力者は母ちゃんだからな。
妊娠したら身動きが取れなくなってしまうので、そんなリスクを負ってまで行為に及ぶ筈が無いのだ。
「あなた達が気付いているということは……」
「あの天才兄はまぁ確実に知っているだろうな」
「要するに全員知ってたワケだね!」
母ちゃんは手を額に当て溜息を吐いた。
「ハァ。今まで頑張って内緒にしてきたけど、全部無駄な努力だったのね」
「ドンマイ」
「それよりもアル兄様がハーフエルフだった事の方が驚きだよ~」
「確かにそうね。私がこれを言う資格は無いかもしれないけれど、何で内緒にしてたのかしら?」
「だって聞かれてないし」
「「えぇ……」」
「お母様。アル兄様だからさ。これに関してはしょうがないよ」
「昔からこういう子だったものね」
「掘り下げるだけ無駄だよ!」
「アルに常識を求めたら負けよね。諦めた方が早いわ」
「解せぬ」
「で、アルはどうするのかしら」
「どうするって、何が?」
ここで母ちゃんは意趣返しと言わんばかりの発言をする。
「レイと血が繋がって無いことが世界に知れ渡った今、貴方はシスコンじゃなくて変態ストーカーに格下げされた訳だけれど」
「ふむ」
「婚約とかは考えてないのかしら?」
予想を遥かに超える爆弾発言に部屋が凍り付く。
俺とレイは顔を見合わせた。
「俺は結婚する気満々なのだが」
「アル兄様と、けけけけけけけけっこん!?」
「おう」
レイは結婚ロボットになってしまった。
「結婚結婚結婚結婚……アル兄様と結婚……ブツブツ」
「レ、レイ大丈夫よ。落ち着いて」
天使は顔を真っ赤にして俯いた後、もう一度俺の顔を見た。
「帝龍祭が終わったら婚約しような」
「……!」
女神は何も言わずに部屋から出て行ってしまった。
「もっと言い方ってモノがあるでしょうに」
「このタイミングで婚約の話を振ってきた母ちゃんも悪い」
「それはそうだけど……」
「でもまぁ、男らしくストレートに言ったのは評価に値するわ」
「婚約するのかしないのかを明言せずに、ずっと誤魔化しているのは格好悪いからな。ウジウジした情けない男だけにはなりたくない」
「さすがは私の息子ね」
母ちゃんがルンルンで言った。
「この後すぐ馬鹿夫とロイドに連絡しなきゃね~」
「じゃあ俺も自室に戻って明日の準備でもするわ」
「わかったわ。夜更かししちゃダメよ?」
「おう」
というわけで解散した。
壁に耳を当てて盗み聞きしていた連中がいたが、まぁいいだろう。
「ムーたん。これは凄い事を聞いちゃいましたね……」
「チュッ」
「どうにかしてお二人の仲を縮めなければ」
「チュ~」
謎の焦燥感に駆られたセレナは、勢いのままレイの自室へ突撃した。
「レイ様。私です~」
「セレナさん?」
「はい」
「入っていいよ。今ちょうど一人で寂しかったの」
ガチャ。
「失礼します~」
「チュッ」
「わー!ムーたんだ!」
ムーたんはレイのベッドに飛び乗り、レイの袖から出て来たチー君とじゃれ始めた。
「レイ様。落ち着きましたか?」
「うん、もう大丈夫だよ。ていうか聞いてたんだね」
「それはすみません……」
ごもっともである。
「話を戻しますね。婚約の件についてですが、アルテ様を狙っている令嬢は帝国どころか世界中に五万といます。そのためそれを発表した後、しばらくは厄介な問題が毎日のように舞い込んでくるでしょう」
「だよね……」
この手の問題はどの世界でも発生する。
例えば『一応戸籍上は兄妹なので婚約するのはおかしい』や『アインズベルクの尊い血を広めるため互いに別家の相手と婚約するべき』など、無駄なこじつけをつけてくる馬鹿貴族がいるのだ。
そんなことを言われてあの旧シスコン野郎が黙っているはずが無いのだが、問題が発生してしまった時点でアインズベルクの体裁は悪くなってしまうのは事実である。
ちなみにもう婚約をする前提で話が進められているのは御愛嬌。
「どうすればいいのかな……」
「簡単です」
「詳しく聞かせてくれる?」
「それはですね~」
セレナはレイの耳に口を近づけ、コソコソと全容を伝えた。
「な、なるほど!要するに既成事実を作っちゃえばいいんだね!」
「その通りです。先にやったもん勝ちですよ、こういうのは」
「セレナさん天才!」
「伊達に長生きしてませんからね~。ふっふっふ~」
こうして二人は、全く何の解決にもならないヤケクソ作戦を企んだのであった。
その頃、明日決勝を控えた変態ストーカー男は自室の中をぐるぐると歩き回っていた。
「嫌われたか?いや、でもな……。うーん……。もし嫌われたら生きていけん。いっちょ天使に会いに行ってみるか?だが今部屋に行ったら余計に嫌われるかもしれんな」
「どうしたものか……」
レイの事になると、すこぶる敏感になってしまうアルテであった。
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