第135話:帝龍祭⑥
というわけで、俺は今控室にて砂漠の王様みたいな接待を受けている。
騎士達は団扇のような巨大葉を扇ぐ。涼しい。
「一体どこで調達したんだ、その大きな葉っぱ」
「そこら辺に生えていたやつを適当にもいで持ってきました」
「そうか。元無人島だからな。バレなきゃ何でもokだ」
「ですな」
「修復作業にはもう少し時間が掛かるようです」
「だろうな。アイツら派手に暴れ回ってたし」
「はい」
ちなみに星斬りの機嫌は良くなってきた。
恐らく大紅蓮に感化されたのだろう。
魔剣同士、何か通ずるものがあるのかもしれんな。
今まで以上にやる気を感じる。
「アルテ様。お時間です」
「おう」
星斬りを握りしめ立ち上がった。
「三日目の二試合目を始めていきます!この試合を制した方が明日黒龍のヴァレンティアと対戦することになります!」
俺は舞台に上がり、指定の位置まで進んだ。
正面にいる魔王は何やらニヤニヤしている。
相変わらず顔が気持ち悪い。
「一人目の選手は魔王国代表の魔王!昨日は持ち前の大規模魔法で舞台を派手に消滅させ、観客達を盛り上げてくれました!今回も大規模魔法で対抗するのか、それとも別の魔法を見せてくれるのか、世界中が期待に胸を膨らませております!」
今考えれば《消滅》魔法ってチート過ぎるよな。
俺の《光》やエリザの《氷》と違い、消滅という理を司っている訳だ。
この世の法則や概念を強引に捻じ曲げる魔法である。
魔人族という完成された種族として生まれ、その膨大な魔力量と戦闘センスを軸に、《消滅》という反則魔法を駆使して暴れ回ってきた男。
それが今回の敵、魔王だ。
「二人目の選手はカナン大帝国代表のアルテ様!今日は昨日と違い、魔剣を腰に差されております!魔法だけでなく剣術も超一流と謳われている閃光の冒険者!エルドレア大陸からの出場者で唯一準決勝に進んだ、我々最後の希望です!頑張って!!!」
実況の姉ちゃん、私情がダダ洩れで面白いな。
魔王がスクリーンにドアップで映された。
「俺はこちらの大陸で最強だの何だのと崇められている、その男の秘密を掴むことに成功した!アルテ・フォン・アインズベルクはハーフエルフ!最も醜く中途半端な種族だ!」
なるほど。だからずっとニヤニヤしていたのか。
「なにー!?今まで人間だと言われていたアルテ様は実はハーフエルフだったのか?衝撃の事実に、今世界中の人々が困惑していることでしょう!」
観客達も騒然としている。
「おい、マジかよ」
「絵本だと人間って書いてあるよな?アルテ様」
「アインズベルク公爵とその夫人って純粋な人間だったわよね?」
「もしかして養子なのかしら」
巨大戦艦ヨルムンガンドの上では家族と友人達が口をあんぐりと開けている。
俺が養子だと知っている者はそこそこいるが、ハーフエルフだということを知っている者はかなり少ない。
エリザとセレナ、あと白龍魔法師団長くらいだろう。
次は俺がドアップで映される。
「え、逆に皆が知らなかったことに驚きなんだが……。てか種族とか別にどうでも良くないか?」
「確かにその通りです!アルテ様は自分が人間だと公表されたことは一度も無いので、誰を騙していたわけではありません!それにこの場で必要とされているのは強さのみ!」
観客達も冷静になった。
「そう言われてみれば俺達が勝手に勘違いしてただけじゃね?」
「アルテ様の寿命が長いってことは、その分カナン大帝国が安泰ってことか」
「ハーフエルフって要するに寿命が長くて魔力量が多い人間ってことでしょ?」
「しかも超イケメンというオプションまで付いてくるわ」
「どこが醜い種族なんだよ……」
「シスコンの皮を被った純愛マンじゃないか」
なんかムカつくから俺も一言煽ってやろう。
「かなり気まずいからずっと言わなかったんだが……」
「おーっと?次はアルテ様の口撃かー?」
「お前自分では気付いて無いかも知れんが、顔が絶望的に気持ち悪いぞ。あと人望も無けりゃ趣味も悪いし、何なら頭も悪い。極めつけは口から常に下水道みたいな異臭を放っている。ゴブリンも逃げ出すレベルだ。ブサイクなんだからせめて歯くらい磨いてくれ。魔王じゃなくて口臭王に改名しろよ。それかゴブリンキング」
今言ったことは割と事実なので、魔王国の戦艦に乗っている奴等は全員顔を背けた。
魔王は顔を赤くし、身体をプルプル震わせている。相当キレてるな。
「じゅ、準決勝二試合目開始ー!!!」
「貴様の四肢を潰した後、舞台の上で引きずり回してやる!」
魔王は《消滅》の魔力で身を包み、凄いスピードで接近してきた。
俺も『光鎧』を起動し“一度後退”する。
「怖気づいたか!閃光ぉぉぉ!」
「その身に纏った鎧は、どうせ触れたモノを片っ端から消滅させる力を持ってるんだろ?」
「くっくっく。その通りだ」
魔王は闘牛のように真っすぐ突っ込んでくるだけなので、躱すことくらい造作はない。
「羽虫のように逃げ回るだけか?無様な姿を世界に晒し続けて恥ずかしくはないのか!はっはっはっは!」
「お前もブサイクな面を晒し続けて恥ずかしくないのか?」
「も、もう絶対に許さんぞ!!!」
魔王は魔力と闘気を高めた。
「【死滅大鳳(シメツタイホウ)】。喰らい尽くせぇ!」
百を超える死の鳥が放たれた。
もちろんあれに触れれば消滅する。
「まだまだ行くぞ!【世界崩壊】!!!」
鳥達の後ろからは消滅の波動が近づいている。
魔王の手慣れた即死コンボだな。
「はぁ。【金翅鳥】」
こちらも黄金に輝く鳥を放ち、相殺する。
後ろの波動も魔法で対抗しても良いのだが、俺は星斬りを抜いた。
久しぶりあれをやる。
前傾姿勢になり、目を瞑る。
全てをこの一刀に捧げるべく、魔力を注ぐ。
五感を高め星斬りと一体化する。
波動が地面を削る音や観客達の声援も聞こえなくなる。
魔法とは違う昂りが全身を走る。
目をカッと開いた次の瞬間。
「【次元斬り】」
魔王の奥に見える水平線まで、何もかもを断ち斬る。
だが魔王は奇跡的な勘で避けた。
斬れたのは左腕だけ。
付け根から血がポタポタと流れ落ちる。
「くっ……。血が止まらん」
この隙を見逃すほど俺は優しくない。
一気に接近し、近接戦に持ち込む。
魔力が乱れた今であれば、消滅させられることはない。
「貴様の相手など右腕一本で十分だ!」
「そうか」
美しい太刀筋で斬撃を叩き込んでいく。
魔王は優れた戦闘センスでそれを受け流しつつ反撃を狙っているが、俺はそんなにやわじゃない。それどころか少しずつ傷が増えている。
「貴様……!先ほどの剣術といい、この近接戦の練度といい、魔法だけでは無かったのか……!」
「ああ」
俺は今珍しく怒っている。
なぜならこんなにつまらない戦いをするのは生まれて初めてだからだ。
魔王は強い。それは認める。
しかし魂を感じない。
この前戦った海龍や地龍。他にも《音》持ちや《重力》持ち。それに剣仙ローガン。もっと遡れば十二歳の時に戦ったヴァンパイアベア。
アイツ等と戦った時に感じた、心を動かされるような何かを、目の前にいる魔王からは一切感じない。
魔法とか剣術とかそう言うモノではない。
理屈では言い表せないが、戦いで最も重要な何か。
それがこの戦いには存在していない。
要するに……。
「全然楽しくない」
「ぐはぁっ!!!」
俺は魔王を蹴飛ばした。
数十メートル吹き飛び、魔王は元の位置まで戻った。
「わざわざ別大陸から足を運んでくれたから、一応最低限は遊んでやろうと思っていた。だが最初から秘密があーだの種族がこーだの、どうでもいい事をブツブツと言いやがって。お前本当に何しに来たんだよ」
「な、何を言って……」
いろんなモノを守るために鍛え上げた、この魔法に剣術。
それをもうこんな奴に使いたくない。
俺は一瞬で魔王の横に移動し、片足を振り上げた。
「二度と城から出てくるなよ、カスが」
そして振り下ろす。
身体強化も何も使っていない、ただの踵落とし。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
それは魔王のあばら骨を砕き、内部を破壊する。
怒りと呆れ以外は何も込めていない単純攻撃だ。
しかし地面に巨大なクレーターができるほどの威力である。
飛竜部隊の撮影係は俺をドアップで映した。
「あんなに調子に乗っていた魔人族のトップがこの有り様か。種族に胡坐をかいてないでもっと鍛えろよ、雑魚共が」
「アルテ様の大勝利です!!!!!」
ウォォォォォォォォ!!!!!!!
今まで聖王や魔王に煽られていた種族の者達(主に人間)から、大歓声が上がった。
意味の無い戦いだと思っていたが、彼らが喜んでくれるならまだやった甲斐があったと言えるかもしれんな。
「アル兄様があんなにつまらなさそうに戦ってるの初めて見た……」
「ねぇレイちゃん。アルテがハーフエルフだったってこと忘れてない?」
「はっ。そうだった!色々と問い詰めなきゃ!」
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