第134話:帝龍祭⑤

帝龍祭三日目。

今日は準決勝が行われる日である。

一試合目は聖王vs黒龍のヴァレンティアで、二試合目が魔王vs俺だ。

予想通りシード権だった四名が順調に勝ち上がった。


現在俺はエクスの腹に背を預け、星斬りをヨシヨシしている。

「よーし、よしよしよし」

『……』


ヤンデレソードはまだご機嫌斜めである。

まぁでも対戦前には直してくれるだろう。

星斬りは昔からそういう奴だからな。


「何よ、あれ」

「昨日の試合前、この戦艦に置いて行ったから拗ねてしまったらしいわ」

「それで今必死に撫でまわしてるって訳だな!」


「いつも肌身離さず持っているのに、ここぞという時に使ってあげなかったのだから、そりゃ誰でも怒るわよね」

「アル兄様、酷い……」


実況が拡声の魔導具を持った。

「皆様お待たせしました!そろそろ今日の試合を始めていきたいと思います!!!」


「見に行くか、エクス」

「ブルル」


「一人目の選手はサミュエル聖王朝代表、聖王!彼女の《言霊》魔法は、言葉一つでこの世の森羅万象を操ることができます!まさに王の名に相応しい実力!今回の出場選手の中で、最も多彩だと言えます!」


やっぱ実況上手いな、あの姉ちゃん。

そう言われると《言霊》魔法ってヤバいよな。

逆にできない事を探す方が難しいだろう。

だがこの世界に完璧な魔法なんぞ存在しない。

それはこの俺が一番よくわかっている。

ヴァレンティアはその穴を上手く突くのか、それとも強引に突破するのか。

見ものである。


「二人目の選手は龍王国代表、黒龍のヴァレンティア!昨日の試合は身体強化のみで見事勝利を収めたので、その戦闘力は未だ不明!しかし今日は立派な大剣を背負っております!きっと数多の高ランク魔物達を屠ってきたであろう愛剣で、万物を斬り裂くことができるのでしょうか!」


だから実況上手すぎだろ。

やはり冒険者は剣を振り回してなんぼだよな。

大陸最強の龍人が巨大な剣を駆使して戦う。

その言葉だけで心が躍る。しかもあれは恐らく魔剣だと思う。

この距離でも星斬りと似た何かを感じる。


聖王がスクリーンにドアップで映される。

「あの龍人族を倒し、大陸最強の座はこの私が頂きます」


フィオレント大陸も色々と大変そうだよな。

まぁ戦争をおっぱじめるうちの大陸よりは幾ばくかマシか。

聖・魔・龍王国の三竦みになっているから戦争が起きないのだろう。

二国が戦争を始めれば、絶対に残りの一国が漁夫の利を狙うからな。

まぁいっか。


次はヴァレンティアが映された。

「大紅蓮を持った私は強いぞ!止めてみろ、聖王!はっはっは!」


へぇ、大紅蓮って言うのかあの魔剣。

スマートな名前でカッコいいじゃないか。

『超絶神龍爆殺覇王剣』みたいな厨二心をくすぐる名前だったらどうしようと今考えていたところだ。


まぁうちの星斬りの方が一億倍スマートでカッコいいけどな。

『……』


「準決勝一回戦開始―!!!」


ヴァレンティアはグッと前傾姿勢になり、一気に地を蹴った。


「ん?」

普通徐々に速くなっていくものだが彼女の場合は、ゼロの状態から一気に最高速度に達していた。何か変だな。


「行くぞォォォ!大紅蓮!!!!!」

彼女は翼を広げ、魔剣を振りかぶった。


聖王は即座に反応し、《言語》魔法での防御を試みる。

「壁よ。私を守りなさい」

地面が盛り上がり、防御壁が何重にも形成される。

それだけではない。草木も生い茂り、ヴァレンティアの進行を阻む。


「甘い!」

大紅蓮が超高熱を発し、草木が燃やし尽くされていく。

ヴァレンティアはピンピンしているので、あれは大紅蓮の能力だろう。


「はぁぁぁぁぁ!!!」

防御壁を一つ一つ破壊していく。

だが全て破壊した頃には、聖王は彼女の背後に移動していた。


ヴァレンティアはニッと笑う。

「地面を通って移動したのか!面白い!」

「『バベルの塔』」

「何ぃ!」


舞台の下から巨大な柱が突き出てきた。

バベルの先が直撃し、そのまま上空まで運ばれて行く。

「爆破」

聖王は掲げた手をギュッと握り、ヴァレンティアのいる辺りを爆発させた。

ドォン!!!


「おーっと!ヴァレンティアは無事なのかー?まさかの展開に観客達は大盛り上がりでございます!」

「なんだよ、聖王!昨日と全然違うじゃねぇか!」

「まさかヴァレンティアに勝つのか!?」

「面白過ぎるよ!一秒も目を離せない!」


瞬間、天から巨大な“衝撃”が降ってきた。

「なん……ですか……これはぁ!」

聖王は地面に叩きつけられ、這いつくばる。

その衝撃は舞台全体に降っているので逃げ場はない。


舞台にヒビが入り、聖王の身体がミシミシと悲鳴を上げる。

恐らく肺から空気が抜け《言葉》を発せないのだろう。


ようやく元の世界に戻った。

「はぁはぁはぁ……」


次は空からヴァレンティアが落下してきた。

速すぎてソニックブームが発生している。まるで小さな隕石の様。

「はっはっはっは!!!」


「マズい!万物よ、あれを全力で止めなさい!」

無人島に存在する土、岩、木、水。その全てがヴァレンティアに殺到する。


「吼えろォ!!!大紅蓮んんんん!!!!!」

ヴァレンティアは豪快に大紅蓮を一振り。

とんでもない熱波が斬撃のように放たれ、彼女に向かう森羅万象全てをドロドロに溶かし尽くした。


「歯ぁ食いしばれぇ!聖王ぉぉぉ!!!」

「!?」


勢いのまま、ヴァレンティアは拳を振りぬいた。

その拳は聖王の顔面にクリーンヒット。

地に再び叩きつけられた。

衝撃音が辺りに轟く。


「砂埃が舞っており、現在試合の状況が確認できません!」


数十秒後に砂埃が晴れ、無人島が太陽に照らされる。

すると舞台全体が凹み、その中心には聖王が倒れていた。


「勝者、黒龍のヴァレンティアァァァァァァ!!!!!!!!!」

ウォォォォォォォォ!!!!!







「アル兄様。あれは何の魔法なの?」

俺はニヤリと口角を上げる。

「あの固有魔法は《圧縮》。かつて“ハズレ魔法だったモノ”だ。くっくっく……」


俺が《光》魔法を最強にしたように、ヴァレンティアも《圧縮》魔法を最強の魔法に育て上げたのだろう。



~~~~~~~~~~~~~~~

【朗報】

戦闘シーン書くの、めためた楽しい。

(ワイ大満足)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る