第130話:帝龍祭①

 俺は水面を走り、まずはワイルドな戦艦に到着。

「よう。ヴァレンティア」

「おお、【閃光】ではないか!もしや私に会いに来たのか?ツンデレだな」

「何言ってんだお前。普通に火龍の卵を見に来ただけだわ」

「そういうことだったか。恐らく龍王様の許可を取れば見せて貰えるぞ」


龍王は丁度甲板で他国の貴族と談笑していたので、そこへ向かうことにした。

談笑と言ったが、まぁ醜い腹の探り合いだな。


「お前が龍王か。火龍の卵を見せて貰いに来た」

「!?」


談笑相手の貴族が目を丸くして驚いた。だが別に自国の王に無礼な発言をされたわけでは無いので、特に憤慨する様子もない。


「ぐっ……いいだろう。こちらへ来い」

龍王はさすがに俺が誰なのかわかっていたようで、めっちゃ悔しそうな顔をしながら案内を開始した。

俺が龍紋を持っていることと、今回大分帝国が融通を利かせたことを理解しているので反論できないのだろう。本来であればとっくにレイのペット枠に収まっている訳だからな。


「これだ」

龍王は魔宝箱を開けた。すると中には緋色の卵が入っていた。その卵は常に龍特有の濃い魔力を放出し続けている。


「ふむ、確認させてもらった。それで龍薬は?」

「それは非常時のため、まだ龍王国に保管してある」

「そうか」


龍薬とは簡単に言えばエリクサーの事だな。

エリクサーは本来上級ダンジョンでしか獲得できない代物だ。

しかし、龍王国は世界で唯一これの製法を知っている。

今回ヴァレンティアに勝てば、それと龍薬をセットでもらう予定だ。


龍王が苦虫を噛み潰したような顔をしていたのが面白かったようで、ヴァレンティアはずっとニヤニヤしていた。


去り際に龍王が呟いた。

「調子に乗っていられるのも今だけだ。すぐにうちの黒龍が貴様を……」

「お前龍人族なのに、他人のふんどしで相撲を取って恥ずかしくないのか?」

「な!?」

「じゃあな」


「あとお前の戦艦、ちょっと野性味溢れすぎて獣臭いぞ。格安宿屋の便所みたいな臭いがする」

「き、貴様ぁ!」


さぁ次だ、次。

今度は無駄にド派手な戦艦へ来た。

なんか至る所が金色に輝いており、かなり目立っている。

「やはり聖王朝の戦艦だったか」

白い翼が生えた連中がうじゃうじゃいる。


早速ヘルと遭遇。

「あれ、アルテさんじゃないですか。どうしたんですか?」

「煽りに来た。聖王はどこだ?」

「えぇ」


いや聞くまでもないな。甲板のド真ん中にテーブルを置き、優雅に紅茶を飲んでいる天使族が一名。その周りにはいかにもエリートそうな使用人達が控えており、扇のようなものを仰いでいた。まぁ今夏だからちょっと暑いもんな。


「貴方はまさか……」

「お前がしつこく書簡を送っていた相手だ。来てやったぞ」


聖王は持っていたティーカップを握力で粉砕した。

「貴方のせいでエリクサーを消費するわ、城は大騒ぎになるわ、大変だったんです。この恨みは……」


ネチネチ文句言われるのも怠いから逃げるか。あとエリクサーを消費したってことは、まぁそういうことだろうな。

「じゃあな」

「人の話は最後まで聞きなさい!これだから低俗な人間は」

といい、ゴミを見るような視線を向けてきた。


「あとお前の戦艦趣味悪すぎ。化粧の濃いババアみたいで痛いぞ」

「な!?待ちなさい!今殺して差し上げます!」


よーし。最後は厨二病を拗らせた馬鹿が造ったであろう戦艦に行くか。

船首に着地すると、戦艦の上で模擬戦を行っていた。


「はっはっは。相変わらず雑魚だな、ブリトラよ」

「くっ……!魔王様が規格外なだけですよ!」


兵士たちは興奮気味に声援を送っていた。

「ブリトラ様頑張ってください!」

「諦めちゃダメですぞ」

「もっと頑張れよ、ブリブリ」


「ブリブリって言うんじゃねえ!ってお前アルテじゃねえか!?なんで当たり前のように兵士達に紛れてるんだよ!」


魔王はゆっくりとこちらへ向いた。

「アルテ……【閃光】か?」

「おう。熱心に手紙送ってくるもんだから、わざわざ来てやったぞ。感謝しろ」

「貴様はこの場で殺してやる!!!」


「じゃあな」

「待たんか!!!卑怯者が!!!」


俺は振り向いて言った。

「この戦艦、五歳児が三秒で考えたみたいな形だよな。自分の銅像とかマジで無いわ。あとお前の怒った時の顔、発情期のゴブリンみたいで気持ち悪いぞ」

「ゴ、ゴブ……リ……」


なんか怒りが限界突破したようで、顔から湯気を出してショートしてしまった。

ドンマイ。



というわけで。次の日に移る。

現在家族+友人達で集まり甲板から戦いの舞台を眺めている。

別にスクリーンでも良いのだが、せっかく来たからには直接観戦したい。

エクスは興味が無いようで、俺の隣で爆睡している。


「あんた昨日挨拶しに行ったけど、本当に煽ってないの?」

「全然煽ってないぞ。むしろ仲が深まったくらいだ」

「ふーん」


今実況者がルール説明を行っているところだ。

数分後。

「ではそろそろ始めていきたいと思います!!!」

ウォォォ!という歓声が上がった。


「記念すべき一回戦の選手はリオン王国代表、Sランク冒険者のブラッドフォードです!撃滅拳と名高い彼女は、Aランク魔物の群れを拳一つで壊滅させた実績を持っています!きっと素晴らしい戦いを見せてくれるでしょう!」


中継がブラッドフォードを映した。

「普段俺は高ランクの化け物達とやり合ってるんだ。人族が相手なら余裕だぜ!」


味方の戦艦から声援が飛んだ。

「いいぞ、ブラッド!」

「ブレスデン公国の犬なんてぶっ潰してしまえ!」

「姉貴!かっけぇっす!」

ちなみにブラッドフォードは俺様系マッスル美女である。

今頃リオン王国は大熱狂していることだろう。


「その相手はブレスデン公国の近衛騎士団長カリバーだ!史上最年少でその地位に上り詰めた彼は、ブレスデン公国史上最強の剣士と言われています!どんな神業を見せてくれるのか、楽しみです!」


中継がカリバーをドアップで映した。

「レディ達に情けない姿を見せるわけにはいかないからね。ほどほどにがんばらせてもらうよ」


公国の戦艦から黄色い大声援が飛んだ。

「キャー!カリバー様ぁぁぁ!!!」

「結婚してー!!!」

「今日も凛々しいわ!」

「なんて美しいのかしら!!!」


いけ好かない野郎である。負けちまえ。


ルーカスが真顔で言った。

「アルテ。俺はブラッドフォードを応援しようと思う」

「奇遇だな、親友。俺もだ」


そして。

「一回戦開始ぃぃぃぃ!!!!」

ウォォォォォォ!


まずは両者小手調べから始まった。

「そんなもんか!もっと来いよ、カリバァ!」

「僕は慎重派なのでね。貴方のような脳筋冒険者と違って」

「はっはっは!じゃあ止めてみろ!」


ブラッドフォードのスピードが数段階、急に上がった。

二人共全く属性魔法を使わないので恐らく覚醒者だろう。


「くっ……。少しはやるじゃないですか」

「リーチが不利な状況には慣れてるからなぁ!」


拳と長剣ではリーチが違うので、ブラッドフォードが圧倒的に不利。

だが普段彼女は巨大なモンスター達とドンパチやり合っているのだ。

それよりは大分マシだろう。


「とにかくブラッドの距離の詰め方が上手いな」

「急に姿がブレるくらい速く動くから、《縮地》的な固有魔法を使っているのかも知れないわね」

「ああ」


闘技場をコロッセオから無人島に変えたのは大正解だな。

両者広大な舞台を風のように駆けまわり、思う存分戦っている。

コロッセオではできない戦い方だ。


始めはブラッドが押し気味だったが、徐々にパフォーマンスが下がっていき、いつのまにかカリバーが形勢逆転していた。


「デバフ系の固有術だな」

「だから始めはあんなに温存していたのか!」

「たぶん実力が同等だから、少しずつ魔法をかけていったんだろ」


デバフ系の魔法は自分より弱い相手にはすぐ掛かるんだが、同等かそれ以上の相手に掛けようと思ったら、大分時間が必要なのがネックだよな。いい魔法なのに。


ブラッドフォードが数回斬りつけられ、さらに動きが鈍くなった。

「終わりです」

カリバーは長剣を腹部に突き刺した。


俺は無意識に呟いてしまった。

「馬鹿だな」

何度も何度も死線を潜り抜けたSランク冒険者が、その程度で倒れるわけがないだろう。

逆にラッキーと思っているくらいだと思う。


ブラッドフォードはニヤリと笑い、剣を素手で掴んだ。

「な!?」

「終わりなのはお前だよ、エセ貴公子」


彼女の拳が顔面にクリーンヒットし、数十メートル吹き飛んだ。

カリバーはピクリとも動かない。


「勝者、ブラッドフォードォォォォ!!!!!!」

ウォォォォォ!!!







「アイツがエクスに乗ったらエクスカリバーになるな」

「あんた何言ってるのよ……」

「アル兄様天才!!!」

「ブルルル……」

くだらないことを言ったらエクスが起きてしまった。すまん。



~~~~~~~~~~~~~~~

【あとがき】


書籍化に続き、コミカライズも決定致しました!


いつもありがとうございます。






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