第129話:会場へ
大会前日。
「そろそろ出発するわよ」
「おう」
「しゅっぱーつ!!!」
「艦長、鳴らして頂戴」
「はっ」
出発の汽笛がオストルフに鳴り響いた。
現在俺とレイ、そして母ちゃんはアインズベルク公爵家の誇る超巨大戦艦ヨルムンガンドに乗っている。
ちなみに親父と兄貴はお留守番だ。いくら久々のビッグイベントと言えど、バルクッドとオストルフを動かせる者が不在になるのはマズい。
兄貴は『しょうがないよね~。当主ってそういうものだから』とすぐに納得してくれたが、あのアホ親父は『俺も行く!おいマルコ、後は頼んだぞ!』と部下に仕事を擦り、無理矢理参加しようとした。
その結果母ちゃんにこっぴどく叱られ、泣きながら騎士達に連行されていったのである。
今回はただ帝龍祭を観戦しに行くだけでなく、ヨルムンガンドの試運転も兼ねている。
そのため様々な技術者達が乗艦しているわけだが、それ以外にも見覚えのある顔が沢山。
甲板の端を見るとセレナとムーたんがオストルフを懐かしそうに眺めていた。二人にとっては思い出深い場所だからな。今はそっとしておこう。
次はエクスとカミラだな。あの白黒カップルは相変わらずイチャイチャしている。早く俺にエクスベイビーズを……(割愛)。
続いて俺とレイの友人達だ。ルーカス、オリビア、リリーの三名。またリリーの妹のエア、ルーカスの妹のステラ、あと羽虫君の二名と一匹。
最後はアインズベルク公爵家と関わりのある貴族家当主、又は夫人等。
まぁ要するに母ちゃんの友達だな。
「そういえばまだ母ちゃんの実家に顔を出したことないな」
「私の実家は帝都の向こう側に位置しているのよね。今度行ってみたらどう?良い場所よ」
「ケルベル男爵家だよね!お母様の実家!」
「そうよ。滅多に話に出さないのによく覚えてたわね、レイ」
「褒められちゃった~」
確か今母ちゃんの実兄が継いでるんだっけか。機会があれば行ってみよう。
陛下とエドワードは今頃ランパード公爵家の巨大戦艦リヴァイアサンに乗り、逆側から会場となる無人島へ向かっているはずだ。
帝国の海軍と言えばやはりランパード公爵軍だからな。色々な事を加味して、あちらに乗ることにしたのだろう。俺もそうした方が良いと思う。
決して泥酔面白オジサンの相手をするのが面倒臭いから、とかではない。
あとヘルとブリトラは聖王・魔王と同じ戦艦に乗ってくる。
ヴァレンティアは知らん。たぶん龍王国の戦艦だろう。
聖・魔・龍王国の国全体の戦力は優れているが、技術力はカスだ。
魔法技術もそうだが、造船技術もまあまあ遅れているらしい(ヘル談)。
帝国などに比べ圧倒的に人口が少ないのも関係しているが、本質は別のところにある。
普通に考えてみて欲しいのだが、技術や知識を持った賢者よりも、腕っぷしの強い奴が上がっていく仕組みなのだ。こうなるのも必然である。
日々虐げられている賢人はもう全員帝国に来いよ。
うちは人間、エルフ、ドワーフ、獣人、その他諸々で構成された多種族国家なんだ。今更魔人族や天使族、龍人族が増えても全く問題は無い。
「あとで陛下に相談してみるか」
「アル兄様、どうしたの?」
「いや魔王国とかの優秀な技術者を引き抜けないか、陛下に直談判してみようかと思ってな」
「なるほど!そういうことね!」
「ああ」
レイは普段のほほんとしているが、めっちゃ頭の回転が速い。今俺がダラダラ説明した内容を一瞬で理解したようだ。
普段別属性の超級魔法を多重展開しているのだから、当たり前と言えば当たり前だが。
「チー君は元気か?」
「うん!なんか最近とっても元気なんだよ!」
「そうか。それは何よりだ」
チー君がレイの袖から顔を出し、舌をチョロチョロして挨拶をしてくれた。
嬉しいんだが、お前まさかレイの服の中を縦横無尽に這い回っているのか?
元気な理由はそれじゃないだろうな?
「このエロ蛇め……」
「ん?何か言った?」
「なんでもないぞ。気にしないでくれ」
全く誰に似たんだか(※お前)。
リリーの声が聞こえた。
「アルテー!見えて来たわよ、私達が開拓した島が!」
「おう。今行く」
レイを連れて見に行くと、数ヵ月前とは見間違えるほど綺麗に整備された旧無人島が水平線の彼方に浮かんでいた。
他の船は大体到着しているようだな。
「あそこが決戦の地か」
「なんかあまり乗り気じゃないわね」
「だって一日目は出番なしだからな」
「そういえばあんたシードだったわね」
「他のシードは確か黒龍のヴァレンティア、魔王、聖王の三人だったよな!」
「そうだな」
「じゃあ一日目は皆で屋台巡りでもしましょ」
「賛成」
「いいわね、それ!」
「俺最近噂のお好み焼きが食いたい!」
今回は四日間に分けられて開催されるので、屋台船以外にも帝龍祭グッズを売る船や娯楽船などの様々な商業船が訪れている。
皆が覚えているかはわからないが、以前オストルフで出会ったお好み焼き屋台のおっちゃんもいるかもしれない。あのツンデレ好きのキモキモおやじ。
というわけで無事到着した。
母ちゃんが艦首で前方を見渡した。
「気を付けて進まないと、他の戦艦を沈没させてしまうわよ」
「沈めるならせめて他国のやつにしてくれ」
「そうそう。他の国の……って違うでしょ。無駄な軋轢を生むような発言はやめなさい。レイが影響を受けたらどうするのよ」
「へいへい」
「返事は一回」
「へーい」
俺が悪いみたいな言い方はやめて欲しいものだな。
「あの趣味の悪い戦艦が魔王国で、無駄に派手なやつが聖王国だな。で、あっちの野性味あふれるやつが龍王国だろう」
「否定したいけど、まったくもってその通りね!」
「ブリトラとヘルも大変ねぇ」
「性格は船に出るってこういうことなんだな!」
今思えば、今あげた戦艦に乗ってる連中も一日目は暇なんだよな。
「ちょっと挨拶してくるわ」
俺は甲板から飛び降りた。
「アルテが素直に挨拶をするとは思えないんだけど」
「絶対戦艦の悪口は言うわよね」
「ついでに挑発してきそうだよな」
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