第128話:戦士集結

 野外実習、帝王祭という学園の二大イベントが無事終了し、ついに長期休暇に突入した。

皆さんお待ちかねの帝龍祭は夏休みの中盤に行われる予定だ。長期休暇になると帝都に滞在していた貴族とその使用人達が一斉に自領に帰る。


帝龍祭期間は世界中から何万、いや何十万もの観光客が訪れると予測されている。

シンプルに混雑を避けるため夏休みに開催されるわけだな。

宿屋が足りなくて観光客達が道端で寝ることになったりしたら笑えないからな。

あと帝都に来たからにはしっかりと金を落としてもらわないと困る。


そしてついに明日、陛下の御前で十二名の戦士の発表と紹介が行われる。

もちろん世界中継されるので、さすがの俺もサボる気はない。

ついでにシードの発表もされる。


ちなみに魔王と聖王は国王だが、帝龍祭に参加するからには一人の戦士として扱われる。

奴等もそろそろ帝都に到着する頃だろう。


「で、昼間から何やってるんですか?陛下」

「何って普通に露天風呂を楽しんでいるだけだが」

「よし、エクス。電気を流せ」

「待てい!」


数分後。腰にタオルを巻いた泥酔面白オジサンが、椅子に座りながら近衛騎士団長レオーネに肩を揉まれていた。


俺はキンキンに冷えた飲み物を冷蔵庫型の魔導具から取り出し、陛下に渡す。

「珈琲牛乳飲みます?」

「いただこう」


「今回は世界に中継されるからな。その初お披露目もかねて、戦士の登場をド派手にやろうと思う。各国の戦士達には事前に伝えてあるゆえ、各々演出を考えてくるだろう。お前はどうする?」

「場所は大広場でしたっけ?」

「その予定だ」


「じゃあ普通にエクスに乗って登場しますよ。冒険者の正装で」

「ふむ……」

陛下は眉をひそめた。


「弱いですか?」

「ああ。これは余の予想だが、どの参加国もかなり本気を出してくる。例えば龍王国であれば……とかな」

「なるほど。確かにこれは国の宣伝に繋がりますもんね」


たった一人の戦士のお披露目でも、工夫をすればその国の財力・軍事力の片鱗を見せることができる。


「別に我が帝国が今更見栄を張る必要も無いのだが、一応開催国なのでな」

「皇帝陛下が“我が帝国”って言うと、なんかそれっぽいですね」

「やかましいわい……」


「まぁ任せといてください。適当に何とかしますよ」

「相分かった」


「ではな。失礼する」

「今度はアポとってから来てくださいね」

「面倒だから嫌だ」


我が儘オジサンが帰ったので、早速エクスと作戦を考えることにした。

「どうすればいいと思う」

「ブルルル」

「それはダメだ。自分だけサボろうとするんじゃない。そういう積み重ねが脂肪の蓄積に繋がるんだぞ?」

「ブルル……」


数分後。

「ブルルル」

「いいな。よし、それでいこう」


各国代表戦士の御前発表当日。

帝都の大広場にて。

「今日は記念すべき帝龍祭、世界初中継の日でございます!!!」

ウォォォ!!!と歓声が上がる。


「まずはカナン大帝国第十三代皇帝、【ルイス・ブレア・ルーク・カナン】陛下のご挨拶です」

現在世界で最も偉い人物の登場に広場は静まり返った。

今ギャーギャー騒ぐのは不敬どころの話じゃないからな。


「コホン。皆良く集まってくれた。余が現皇帝ルイス十三世だ。此度は……」

陛下の式辞が終わり、ついにその時がやって来た。


「次は皆様お待ちかねの、戦士入場です!一人目はリオン王国最強のSランク冒険者、撃滅拳のブラッドフォードだぁ!!!」


リオン王国のSランク冒険者が自国名物の超巨大武装魔物車に乗り、ド派手に登場した。

よく見れば国王のような人物や、他の高ランク冒険者も同乗している。

「俺が全員叩き潰してやらぁ!!!」


歓声が上がった。広場だけでこうなのだから、祖国ではもっと凄いことになっているだろうな。


「二人目はブレスデン公国の近衛騎士団長です!隣国に轟かせるその名は……」

その後も着々と戦士が登場していった。

順調で何よりである。


「続いてはフィオレント大陸からの参戦!魔人族の統治者、魔王です!!!」

「すげぇぇぇ!」

「本物だ!」

「まさか魔人の王が参戦するとは!」


魔王は使役しているAランクの戦虎に乗り登場した。

後ろには配下の魔人や魔物がぞろぞろと付いている。

「ふん。これが人間共の都か。そこそこだな」

「グルルルル」

闘気と魔力を抑えず、常に周りを威圧している。

まさに絵本に出てくる魔王って感じだな。


「十人目の戦士も別大陸からの参加となります!天使族最強の豪傑、聖王です!!!」

「美しい……」

「天使様だ……」

「だがヤバい闘気をビシビシと感じるぞ。さすがは聖王だ」


聖王はランク不明のグリフォン亜種に乗り登場。

後ろには聖王朝の精鋭、グリフォン騎士団を引き連れている。

「その目に焼き付けなさい。私という存在をね」

「ガァァァ」


自分以外の全てを見下しているな。傲慢不遜を具現化したような人物である。

あとあのグリフォン亜種、人間を餌だと思ってそう(偏見)。


「十一人目の戦士の入場です!フィオレント大陸最強とも言われる、あの人!龍王国のSSランク冒険者、黒龍のヴァレンティア!今大会では圧倒的な強さを見せてくれること間違いなし!!!」


空が一瞬暗くなった。

「うぉぉ!飛竜部隊だ!!!」

「これが龍王国の心臓と言われる……」

「おい、あの一番デカい黒竜にヴァレンティアが乗っているぞ!」


ほう。ワイバーンの希少種か。通常のワイバーンはBランクで、亜種がAランク。ということはあの黒い個体はSランクってところだな。


龍王国の飛竜部隊は悠々と着地した。

「優勝するのはこの私だぁぁぁぁ!!!!!」

「いいぞ!ヴァレンティア!」

「ヴァレンティア様カッコいいー!!!」

「すげえ闘気だ……!」

「これがフィオレント大陸最強の戦士か……」


せっかちな彼女は数ヵ月前から帝都に滞在していたので、ジモピーからも人気である。

一応性格良いしな、アイツ。


今頃世界中が盛り上がっていることだろう。特に魔王・聖王・龍王国は自国の王様と英雄が参加しているので十中八九、大フィーバーが起こっているに違いない。


そんなこんなで、ようやく俺の出番が回ってきた。

「我らがカナン大帝国を代表して参加する、十二人目最後の戦士は誰だと思いますか!皆さん!」

「そりゃもう、あの人しかいねぇだろ!!!」

「あったりまえよ!」

「今日はわざわざその人を見るために来たようなものなんだからね!」

「あの御方に決まっているわ」


「そうです!最後の戦士は誰もが認める史上最強の傑物!【閃光の冒険者】、アルテ・フォン・アインズベルクその人だぁぁぁぁ!!!!!!」

今日一番の大歓声が上がる。


俺はエクスに跨り、ゆっくりと広場を進む。

徐々に闘気と魔力を解放していく。

賑やかだった広場がシーンと静まり返った。


エクスが一歩踏み出せば大地にひびが入り、さらにもう一歩踏み出せば空気が揺れる。

ゴゴゴゴ。


「「「「ゴクリ……」」」」


グルファクシの美しい黄金の鬣が風に靡き、《雷》の魔力が空間を迸る。

誰にも言葉を発せさせない。


大広場の中心まで到達し止まる。

俺は徐に星斬りを抜刀。その刃を天に掲げる。

そして。


【天照・最大出力】

ゴォォォォォォ!!!!!


下から上に終焉級魔法を放った。

世界が閃光に照らされる。

この宇宙を貫く輝きは別大陸からも余裕で観測できるだろう。


指定の位置まで歩みを進め、魔力と闘気を元に戻した。

同時に誰かが呟く。

「終焉の……魔術師……」


「「「「「ウォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」」」」」


今までにない大歓声が世界中に轟いた。


世界最強を決める戦いが今、始まる。




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