第127話:絶級魔法

 実況が今日一番の声で叫んだ。

「決勝戦開始ー!!!!!!!!!」


リリーは先ほどと同様、いつもの超級魔法を放つ。

【赫々炎陽】


驚くべきことに、レイも同じ魔法を放った。

【赫々炎陽】


超高熱の太陽と太陽がぶつかり合い、舞台の中心で弾ける。

その熱波は観客席にまで及んだ。

「あつっ」

「目が焼けるかと思ったぜ!」

「見て頂戴。舞台の床が若干溶けてるわ。とんでもない温度ね」


レイとリリーは〈水〉魔法を展開し、瞬時に熱から身を守ったようだ。


ここでリリーが身体強化を発動し、レイの方へ駆けた。

恐らく彼女には魔法を相殺され続け、泥沼化する未来が見えたのだろう。

そんな博打に出るのであれば、小さな頃から培ってきた杖術で近距離戦を仕掛け、ノックアウトを狙おうという作戦だと思う。


だがそれはレイも一緒である。

レイも身体強化を起動し、リリーに接近した。


「「はぁっ!」」


二人の杖がぶつかり合う。


「うぉぉぉ!!!」

「近距離戦までイケるのかよ!」

「身体強化の練度も高いし、杖術のレベルも桁違いだな……」

高度な戦いに観客達も唸る。


今回の帝王祭は主に魔法がメインで、近距離戦が余り見れなかったからな。


「やるじゃない!レイちゃん!」

「リリーさんも流石だね!」

リリーの肉弾戦を初めて見たが、かなり凄い。


レイが杖を振り下ろせば上手く受け流し、即座に反撃を狙う。だがレイもそれを読んでバックステップで躱す。

次はリリーが居合斬りのように身を屈めながら急接近。レイの懐に入った後、強烈な突きを放つ。レイは避けずに蹴りを放った。それはリリーの腹に直撃し、彼女の突きもレイの肩に当たった。


その勢いで二人とも元の位置まで戻った。

「うちの近衛騎士も顔真っ青の戦いぶりだね……。ねぇ、オーロラ?」

「はい。身体強化の練度は言わずもがなですが、双方杖を巧みに操っていますね」

「まるで舞いを舞っているかの様だよね~」

「ですね」


言い忘れていたが、エドワードの隣には専属騎士のオーロラがピッタリとくっ付いている。

近衛騎士を良く知っている二人がそう言うのだから、間違いないのだろう。


【叢時雨】


【水蓮】


レイが水の短剣を無数に生み出し、リリーに降り注ぐ。

だがリリーも巨大な水の睡蓮を咲かせ身を守った。

両者非常に多彩である。


レイは早く絶級魔法でケリを付けたいのだろうが、いかんせん発動時間が長いため、その間にリリーが放った上級魔法で倒されてしまうことを理解している。

だから戦いが長引いているのだ。


そのおかげで見ていて面白いし、観客達は大熱狂しているわけだが。


数分後、二人はボロボロだった。

舞台の至る所にひびが入り、いつ崩壊してもおかしくはないだろう。


リリーは目をカッと開いた。

「次で終わらせるわ」

「受けて立つよ!!!」


両者杖に魔力を込める。

恐らく残された魔力を全て注ぎ込んでいる。

普通の杖では耐え切れず割れてしまうほどに。


そして。


【火災旋風】


【海龍の咆哮】


レイに呼応しリリーも“絶級魔法”を放った。

海龍の咆哮は、超級魔法である水龍の咆哮の上位互換魔法である。


灼熱の竜巻が舞台を破壊しながらリリーへと向かう。

リリーの生み出した海龍も口から咆哮を放った。


舞台の中心で絶級魔法同士が押し合う。

「こんなの長い人生で一度見られるかどうかのレベルだよ!」

「すっげぇ」

「まさかリリーも絶級魔法を隠していたとは思いもしなかったわ」


観客達は興奮を通り越し、一周回って静かに観戦している。

というか目を奪われている。


「くっ……」

「押し切れない……」


レイの合成魔法は半分〈火〉の魔力で構成されている。

要するに〈水〉とは相性が悪い。

なので……。


「はぁぁぁぁぁ!!!」

「押し切られ……きゃぁっ!」

咆哮は竜巻を貫通し、レイを飲み込んだ。


コロッセオはシーンと静まる。


「リリーの勝利―!!!!!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」



その日の夜。

「リリーの優勝を祝って、乾杯!!!」

「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」


今日は帝都のアインズベルク公爵家別邸で打ち上げをすることになった。

レイは満面の笑みでリリーを祝う。

「リリーさんおめでと!!!私も早く追いつけるように頑張る!!!」

「レイちゃんはあたしなんてとっくに追い抜いてるでしょ。今日は運が良かっただけよ!」

「またまた~。照れちゃって~」


今回の戦いを通して、二人の仲がギュッと縮まったようだ。

今はそっとしておこう。

こういう時は変に口を挟まない方がいい。


「で、なんでお前がいるんだよ」

「二人の戦いを見て久々に熱くなってしまったからだ!」

「答えになってないぞ」

「今日も酒が上手い!はっはっは!」


謎に黒龍のヴァレンティアも参戦していた。

俺は追い返したんだが、優しいレイが『せっかく来てくれたんだから』という理由で招き入れたのだ。うちの女神に感謝しろ。


「帝龍祭では私を楽しませてくれよ?」

「ほどほどにな」







「それにしてもエクスは良く食べるんだな。くれぐれも太らないように気を付けるんだぞ」

「!?」


エクスはビクっとした。ワロタ。





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