第126話:帝王祭

 一週間前、ついに俺待望の帝王祭が始まった。

帝王祭自体は今年で三回目なので、準決勝まで省略させていただく。

しいて言えば、レイが可愛かったとだけ。


準決勝まで進んだのは、リリー、ヘル、ブリトラ、そしてレイの四人である。ここまでは予想通り。

また《映像》魔法を駆使した中継は、実は準決勝からしか行われない。

あくまで帝龍祭のための試運転だからな。


ちなみに帝国内は大盛り上がりである。

なぜなら今まで噂でしか耳にしなかった、全属性使いであり帝国期待の星でもあるリリーとレイ。そして別大陸から来た、魔人族と天使族という希少種族のブリトラとヘル。


この四名の熱い戦いが見れるのだから、逆に盛り上がらないわけがない。

初中継ブーストと相まって、とんでもないことになっているらしい。

特にアインズベルク公爵家が。


レイはうちのアイドル兼、天使兼、大天使兼、女神(最高神)だからな。


というわけで現在俺はルーカス、エドワード、オリビアの三人とコロッセオへ向かっている。今回は俺とエドワードで陛下に圧をかけ特等席をゲットしたので、エクスも同行している。


エドワードがぐるりと見渡した。

「ものすごい数の人で溢れかえってるね」

「熱気がスゲエな!」

「二割が学生、八割が一般人ってところね」


コロッセオは以前まで帝龍祭で使用されていた施設なので、学園にある闘技場に比べ十倍以上はデカい上に、収容人数もめっちゃ多い。


「皆、そろそろ始まるぞ」

「ブルルル」


実況を務める人物が拡声の魔導具を片手に着席した。

彼が決まり文句を叫んだ後、リリーとブリトラが舞台に上がった。


「東側の選手の名はリリー!カムリア男爵家の次女である彼女は、なんと覚醒者よりも貴重とされる全属性使いです!!!今日は一体何を見せてくれるのか!期待しましょう!」

ウォォォ!!!と歓声が上がる。


「続いて西側の選手の名はブリトラ!彼は魔王国のチェルノボルグ公爵家長男です!はるばるフィオレント大陸からやってきた留学生!えーっと、学園ではブリブリと呼ばれているそうです。以上です」


再び歓声が上がった。

『おもしれぇ!』や『いいぞ、もっとやれ!』という謎のコメントもしばしば。


ブリトラが顔を真っ赤にして叫んだ。

「うぉい!最後の一言絶対いらねえだろ!誰だ、考えた奴!!!」


ちなみに彼の説明を担当したのは俺である。

こう見えて生徒会の一員だからな。

あと普通に深夜テンションで考えた。


「準決勝開始!!!」


リリーはまずお得意の超級魔法を放った。

【赫々炎陽】

ブリトラも超級魔法で相殺を試みる。

【竜星群】


発動速度と威力はリリーの方が上なので、ブリトラの放った大量の岩はドロドロに溶かされた。

威力の弱まった小さな太陽がブリトラに突き進む。


【ストーンウォール】

土の壁を作り、何とか防ぎきった。

「あっちぃな……」


普段から俺の周りのレベルがおかしいから普通のバトルに思えるかもしれんが、一般人はほぼ初級か中級で止まってしまうので、観客達は超盛り上がっている。


「おい!本当にこれが学生のレベルかよ!」

「さすが帝立魔法騎士学園の生徒ね!地方とは比べものにならないわ」

「俺が昔通っていた学園は、上級魔法を使える生徒すらいなかったぞ……」

「全属性使える上に、超級魔法を習得してるってどんなバケモンだよ」

「ブリブリも中々やるなぁ」


これが一般人の反応である。


「中継も上手くできてるみたいね」

「ああ」

コロッセオの上空には何体もの飛竜が飛んでおり、魔導具で映像を映してくれている。


リリーが叫ぶ。

「まだまだいくわよ!!!」

【ファイアランス、百重展開】


上級魔法を百以上展開すれば、その威力はもう超級と同等と言える。


「チッ。数がおかしいだろ!」

【水魔】

ブリトラは水の超級魔法で再び相殺を試みた。


巨大な津波と火槍が激突し、水蒸気爆発が起こる。

舞台は霧に包まれた。

「いい判断だな」


ブリトラはこのままではリリーに押し切られることを理解していたので、わざと水蒸気爆発を起こしたわけだ。


リリーがニヤリと笑った。

「残念でした」

【大旋風】


リリーはブレスのような横向きの竜巻を引き起こし、霧を晴らす。

本来はそれで終わるはずなのだが、彼女はそれを操作し、ブリトラの方へグニャリと曲げた。


「それは反則だろぉぉぉぉぉ!!!」


ブリトラは壁に激突し、戦闘不能に陥った。


「勝者はリリー・カムリアァァァァァァ!!!!!」

今までで一番の大歓声が上がった。


「さすがリリーだ。魔力操作の練度が半端ない」

「大旋風って直進しかしないはずだよね?」

「今横に曲がったぞ!スゲェ!」

「リリーならではの勝ち方ね」


そしてすぐに次の試合に移った。

「東側の選手の名はヘル!彼女はサミュエル聖王朝のコーネリアス侯爵家長女で、ブリトラと同じくフィオレント大陸からやって来た留学生です!美しい翼を広げて戦う姿はまさに天使のようだと話題になっております!」

歓声が上がった。


「続いて西側の選手はレイ!彼女は帝国が誇るアインズベルク公爵家の長女で、全属性使い!さらに世界最強と名高い【閃光】の妹でもあります!その可愛らしいルックスは世の老若男女を魅了し、巷では女神の如く崇め奉られているそう!あと噂では、【閃光】はヤバいレベルのシスコンらしいです。以上です」


ウォォォ!!!と帝国中から大歓声が上がった。


「なんか途中から説明おかしくなかったか?」

「そう?私は普通だと思うけど」

「誰かさんがシスコンだってことは周知の事実なんだからさ。特におかしい点はないでしょ」

「やっぱレイちゃんの人気は凄まじいな!」


おい。ついでに俺を中継に映すのやめろ。

飛竜部隊の奴、今絶対ニヤニヤしてるだろ。


「準決勝二回戦目開始!!!」


ヘルは早速仕掛けた。

【激狼水禍】


レイも世界樹の杖に魔力を込めた。

〈火・風〉の二つの魔法を創り出す。

「ん?二つ?」

かなり時間をかけてしまっている。


マズい。このままではレイに直撃してしまうぞ。


その時。

二つの属性が合わさり、一つの超級魔法……いや絶級魔法へと昇華した。

【火災旋風】


烈火の如く燃え盛る竜巻は水狼を飲み込み、ヘルの直前で停止した。

綿密な制御でわざと止めているのだろう。


ヘルはへたり込んだ。

「こ、降参です……」

そのトルネードは天に昇り、消滅した。


「ウォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」

大歓声で帝国が揺れる。



その日、世界に新しい魔法が生まれた。

歴史上数多の魔法学者達が議論しては諦め、また実験しては諦めていた、理論上でしか成り立たなかった幻の魔法。


その名は【合成魔法】。

全属性×多重展開×天才×努力の集大成。

それをアインズベルク公爵家の長女が成功させたという情報は、すぐに世界中を駆け巡った。


決勝戦へ続く。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【あとがき】


ついに書籍の表紙絵が解禁されました!

近況ノートから確認できますので、是非よろしくお願い致します!


〜追記〜

レイたんマジ天使

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