第125話:因果応報

アルテがボーリング作業に勤しんでいた場面まで、時を少々遡る。

ちょうどその頃、魔王城にある謁見の間では。

「魔王様。そろそろアインズベルクに書簡が届く頃です」

「そうか。くっくっく……」


「一応内容を伺ってもよろしいでしょうか?」

「少々アインズベルクに脅しをかけた。さすがに帝国と戦争をする気はない。だが優秀な工作員の百や二百くらいであれば、すぐにバルクッドへ送ることができるからな」

「名案ですね」


「奴は敵には容赦をしないが、その分身内には甘いと聞く。そこを突けばある程度ダメージを与えられるはずだ」

「なるほど」

「半べそをかきながら謝罪するSSランク冒険者を、そのうちここで眺める事ができるだろう」

「それはそれは!見ものですねぇ!」


魔王とその側近の笑い声が魔王城に響き渡った。


「さて。そろそろ新兵どもをしごきにでも行くか」

「お供します」


玉座から立ち上がろうとした、その時。

天から《雷光》魔法が降ってきた。

禁忌級の槍は城の壁を貫通し、魔王へと向かう。

「「!?」」


魔王は相当気が緩んでいたため、相殺するための魔法を発動できなかった。

そして。

「ぐあああああああああああ!!!!!!」

それは右腕に直撃し、肩から先が消滅した。


側近はすぐに駆け寄る。

「魔王様!ご無事ですか!おい、早く治療班を呼べ!!!」

「み、右腕が……」

魔王の右腕から血が大量に流れる。


「〈火〉魔法で止血いたします!」

「くっ……」

「これは一体誰の仕業なのでしょうか」


魔王は微量の残留魔力を解析し、犯人をすぐに突き止める。

「【閃光】ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


一分後。

魔法医は眉をひそめた。

「腕が残っていれば〈水〉の治癒魔法で繋げられたのですが、いかんせん消滅してしまいましたので……」

「エリクサーを使わないとダメか」

「はい」


側近が小声で言った。

「しかし、今魔王城には無かったはず……」

「チェルノボルグ公爵家が現在一本保有していたはずです。それを貰い受けましょう」

「俺は恩を受けるのは余り好きではないが、ワガママを言っていられる状況ではないな。今すぐに手配しろ」


魔王は右肩を押さえながら呟いた。

「この代償は高くつくぞ、【閃光】……!」

(帝龍祭で俺様直々に痛めつけてやる)


数日後、魔王の腕は完治した。

ちなみにチェルノボルグ公爵家は、アルテの友人ブリトラの実家である。



同刻、サミュエル聖王朝。

聖王城にある謁見の間にて。

「聖王様。今追跡の魔法が解除されました」

「では無事に届いたのでしょうね。ふふふ」

悪魔のように微笑んだ。


「封書にはどのような内容を記したのですか?」

「ちょっと脅しただけですよ。万が一皇帝の耳に届いても、不興を買わない程度にね」


実は聖王と魔王はほぼ同じような内容の封書を送った。

彼らはこの程度であれば皇帝は動かないと思っているが、二人の想像以上に皇族とアインズベルクはズブズブなのだ。


また現皇帝は親友に脅しをかけられたことを知って黙っているほど、非情な人間ではない。

これがエルドレア大陸を統べる覇王、ルイス十三世である。

ただの泥酔面白オジサンではないのだ。


彼の耳に届くかどうかはアルテ次第だが、それを考慮してもこの一連の行動は失敗だと言えよう。


「今晴れ晴れした気分です」

「では久しぶりに姫様の茶会に顔を出されてはいかがでしょう。聖王様が御出席されれば、きっと喜ばれること間違いなしです」

「いいですね。早速向かいましょう」


聖王と宰相は謁見の間から出た。


聖王は通路を移動している時、何となく窓の外を見た。

すると遠くの空が異様に明るく輝いていた。

「ん?」

「どうかしましたか?」


刹那、その原因である禁忌級の雷光が左足に直撃した。

「えっ」

誰も予想ができないような出来事に、被害者である彼女本人でさえ素っ頓狂な声を上げるしかなかった。


「せ、聖王様ぁぁぁぁ!!!」

その絶叫を聞いた衛兵たちがぞろぞろと姿を現す。

「早く医者を呼びなさい!早く!」

「りょ、了解致しました!」


「そこの衛兵は今すぐエリクサーを持ってきなさい!一本くらいあるはずです!」

「はっ」


聖王は壁に背を預けた。

「宰相。傷口に〈火〉魔法を」

「わかりました!今すぐ!」


止血後、聖王は額に怒り筋を浮かべ、静かに言った。

「【閃光】……!」

「これは奴の仕業なのですか?」

「ええ。恐らく《光》の禁忌級魔法です」

「き、禁忌級!?」


「要するに、“いつでもお前らを殺せるぞ”というメッセージです」

「なんと烏滸がましい……」


その後エリクサーを使用し、聖王は完治した。


「宰相。帝龍祭の出場者はまだ決定していませんよね?」

「そのはずです」

「私が出場します。カナン大帝国にその旨を伝える書簡を送りなさい」

「本当に聖王様ご本人が出場なさるのですか?」


彼女は魔王国の方を見て、再び口を開いた。

「はい。憎き魔王もきっと出場すると思いますので、一石二鳥です」

(世界中に恥を晒させてやります。私直々にね)



時は現在。

バルクッドのアインズベルク公爵邸では。

「エクスって意外と泳ぐの得意なんだな」

「ブルルル」

「カミラとムーたんも上手ですね~」

「ブルブル」

「チュッ」


露天風呂はエクスやカミラも入れるように造ったのだ。

人族ゾーンを少し移動すると、深さ数メートルのゾーンがある。

そこで今食いしん坊馬が必死にダイエットしてるわけだな。


あとレイは今日、白龍魔法師団の訓練に参加している。

帝王祭が近いからな。


念のため説明しておくと、帝王祭は帝立魔法騎士学園内で行われる闘技大会だ。

また帝龍祭は帝国主催の、世界一の戦士を決める闘技大会である。


今回から帝龍祭は《映像》魔法を使って世界中継される予定だ。

その試運転として、まず帝王祭を中継してみるらしい。

もちろん帝国内限定でな。


まぁそんな感じだ。







「あっ、ケイルだ!」

「レイ様、お帰りなさいませ」

「アル兄様はどこにいるのー?」

「先ほど水着姿で露天風呂の方へ向かいましたよ」

「アル兄様の水着……ゴクリ」


レイも水着で参戦した。


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